第35話 My Self

「だが、まさかギーチェのスキルにそんな特性があったとは」


さっきは脱線したが、スレイの一言によって、また本題に戻れそうだった。


「確かにねぇ、移動するときに細くしてたのは、本能的に分かってたのかもぉ」


「だったら、凄く細くしたら良いじゃない! これぞ逆転の発想よ!」


「強度には少し不安が残るが、それなら上手くいくんじゃないか?」


確かに、かなりいい作戦だ。キチンと拘束できるかはわからないが、当たらないよりは断然いい。


「そういえば、生きものは傷つけないと言っていたが、それはいいのか?」


スレイっ! 余計な事を……。


「いや、仕方ないのかもねぇ……。今は戦わないといけない時だと思うよぉ。出来るかは分からないけど、頑張らないとねぇ」


おお! なんと頼もしい!


「さて、ギーチェにやってもらうのは細い木で拘束する攻撃。さて、次決めるのは俺たちがどう動くかだな」


「あまり刺激しないで、ギーチェに任せておいてはどうだろう」


「いーや、それは俺が許さねぇ! そもそも、強敵と戦いたい、強くなりたいと言ってたのは俺たちだろ? そんなこと言ってらんねぇ!」


「町の存亡がかかっているからな、出来れば確実に行きたいところだが、リーダーの意見に同意だ」


「私は最終兵器って事だねぇ! ぜひぜひ頑張ってもらわないとぉ!」


ギーチェは攻撃を嫌がり、俺たちは戦いたい。まさにwinwinの関係だ。


「よし! それでいくぞ! じゃあ……一通り考察した巨人の予想される動きと戦力を元にして、今回の作戦は……」


…………。


……。


その日は、夜遅くまで話し合った。


そして、プランCまで考え、これで良いだろうと言うところで、俺たちは解散し、自分たちの部屋に戻った。


俺の部屋はスレイと同じ部屋だ。本当はグレアも同じ部屋にしようかと思っていたのだが、ベッドが二つ分しか無く、グレアは他の部屋で一人で寝ることになった。


俺がベッドに飛び込むと、スレイが何かを広げ始めた。


「なんだよそれ」


「ああ、路地裏の屋台で買ってきたんだ」


なにやら木製の置物のようなものが袋からゴロゴロと出てくる。


「ふーん、何かレア物でも混じってねぇかな〜金運が10倍になるみてえな」


「残念ながら、特に力は感じない。普通の置物だったり、雑貨だ」


「つまんねーの」


「全く、モノの価値が分からない子供なんだな、リーダーは」


カッチーン


「あのな、俺はガキじゃねぇんだよ。肉体的にも、精神的にもなぁ!」


「なら、これを見てどう思う?」


取り出したのは木で出来た……。


木で出来た……。なんだ?


なんだかゴツゴツしていて、手に収まるサイズのものだ。


「これは……だなぁ。こうやって、手で握って弄ることによって、脳の活性化と、ツボ押しが期待出来るお得な一品なのだ!」


お、これは正解なのでは。


そう思い込むと、そのためのものなんじゃないかと錯覚し始める。


「ならこれは?」


次に取り出したのは星型のものだ。


「これはだなぁ! 一見星に見えるが、本当はヒトデなんだ! しかし、タイトルはラッキースター……。そう、名前は所詮名前でしかない。本質を見抜くことが大事なんだと伝えてくれる一品だ!」


「なるほど! それは興味深い……。なら、これはどうだ!?」


こんなの、ただの大喜利に過ぎない。


物なんて……特に芸術なんてものは人によって感じ方も、使い方も違う。


どれが、何が正しいかなんて分からない。


そして、俺たちは今、未だ実体を持たないこの器に、自分なりの意味を見出しているのだ。


この世に生まれた無意味なものを、意味のあるものに変える事が出来るのは、人間の持つ特別な力なのかもしれないな。


…………。


……。


さて、寝るか。


「明日は上手くいくといいな」


スレイが言う。


「大丈夫だ。プランを三つも用意しておけば、万一どれかが上手く行かなくても他のプランで倒せるさ。」


「そうだな。なんせ、リーダーがそう言うんだ、そうに違いない」


「俺だって間違えることはあるがな。まあ、せいぜい付いてきてくれ」


「まあ、余計な事とか、間違ったようなことにも、人生のヒントは転がってるものだ。間違えるのも大切なことだ」


「全く、お前は親父みたいなことを言いやがる」


「はっ、もしかすると前世ではそうだったりしてな」


「前世なんて存在しねぇよ、そんなの人間が考えた夢物語だ。死後の世界も、考えるだけ無駄だってどっかの哲学者が言ってたぜ」


「なら、デジャヴは、どうやって説明するんだ?」


スレイはガラクタを整理しながら俺に聞いた。


ガラクタを色んな角度で見ながら、手で擦ったり、さすったりしている。


「デジャヴなんてのは脳の勘違いなんだろうよ。それをオカルトと結びつけるのは全く論理的じゃねえな」


「なるほど……確かにそのとおりだ」


「だろ?」


「だが時々、存在しない記憶を思い出したりしないか? あれはどうだろう」


「そんなのは前に見た夢を、現実と勘違いしてるだけだろ」


「そうか、確かにそうなのかもしれない」


「そんなもんだ」


こんなことを話していないで、さっさと寝ないとな。明日は大事な戦いだ。


そう考えていると、急に眠気が……。


………………。


…………。


……。

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