第34話 Lucky Star
さて、巨人討伐の作戦会議の始まりだ。
一つの机を囲み、五人で向かい合う。俺とグレアは隣同士、横にはルシア。前を見るとギーチェとスレイが座っている。
「グレア、巨人はどれくらい大きいんだ?」
まず、敵の戦力を知る必要があるからな。
「そうだな……」
すると、グレアは机の上に両手を出して見せる。
「俺たちがこの指先ほどのサイズだとすると」
指を置き、その上に拳を振りかざす。
ドンッ!!
「巨人は、この握り拳だ」
「なるほどな、大体五倍くらいって訳だ」
グレアの拳は岩のように固く、大きい。
人生を戦いに費やして来たというのが伺える。ケインの力で、レベルが上がった俺よりも、こういうやつのほうが強くなるべきなんだよな……。
少し、後ろめたいような気持ちになったが、俺たちは勇者としてこの大陸で一番強くならなくてはならない。魔王を倒すために。
「でもぉ、五倍くらいなら大した事ないんじゃないのぉ?」
「そうよね。氷山のクリアドラゴンよりちょっと大きいけど、氷の攻撃とかもしてこないし」
「いや、巨人の強さは知能にある」
そう言ったのはスレイだ。
「巨人は木を振り回し、投てきすることもする。それに、動きがワンパターンじゃない。ピンチになれば逃げ出すし、それに、有利だと分かれば痛ぶって殺す」
「なるほど、要するに臨機応変な動きが出来る分、俺たちも一つ一つに対応しなければならない。そうしなければ俺たちはおもちゃにされて終いだと」
「そういうことだ」
「そうか……。ところで、グレアたちが戦った時はどんな行動を取ったんだ? それも大きなヒントになる」
「あの巨人は俺たちを執拗に蹴りで攻撃してきた。巨人にとって俺たちは足元にいる敵だからな、足で攻撃するのは至って普通だ。これがヒントになるか?」
「よく避けられたな」
「一応町の強者揃いのパーティーだったからな、スピードアップの魔法と、予備動作から蹴りの範囲をある程度予想して、なんとか避けきった」
「なるほど。で、攻撃は出来たのか? 避けてばっかりじゃ戦いにならないだろ?」
「それが……攻撃は出来なかった。逃げ出すので精一杯だった」
情けない話に聞こえるかもしれないが、話を聞く限り分が悪すぎる。だが、町に到達するまでの時間稼ぎになっているだけで十分儲けものだ。
「ヤツの動きは大きくした人間と変わらない。俺たちと同じような素早さで倍の大きさだ。全く、どこからあんなバケモノが湧いて出たんだか……」
「魔王が作ったんだろうな」
ヴェルの話を聞く限り、魔物は全部魔王が作ってるらしいからな。
「いや、それが……巨人が来てるのは海側からだ。魔王が作っているなら大陸の中心魔王の住処から来るはずなんだが……」
そんなの、魔王なんだから自由にどこからでも出してもおかしくないだろう。
この町は小さいから、観測出来ないところから海側に、そして今戻ってきたと考えても辻褄が合う。
まあ、これくらいなら、いくらでもこじつけられる。色んな方法が可能なら、とにかく今大切なのは結果なんじゃないのか。
「この際、巨人が何処から来たかなんてどうでもいい。とりあえず倒すことを考えるぞ」
「そうだな、すまない」
だが、本題に戻ると大きな問題が待っていた。スピードが人間と変わらないなら……かなり強い。
「でもぉ、私が木を生やして囲っちゃえば解決なんじゃないのぉ?」
「残念だが、俺たちにとっては避けられない木の成長速度も、巨人からすれば避けることは造作のないことのはずだ」
そう、体の大きさが違うというのは、予想以上に強さに影響する。
例えば、ノミのジャンプ力は凄いことで有名だが、跳ぶと30センチほどになる。
その程度、人間にしてみれば大したことないが、ノミが人間サイズだとすれば、そのジャンプは300メートルにもなると言う。
その考え方からすると、ギーチェの木の成長速度は、俺たちにすればすごく速いが、巨人にしてみれば避けるのも簡単なのではないかと、そう考えたわけだ。
「なら、大っきい木を生やしたらどうかなぁ?」
残念だが、俺にはギーチェの能力を見て、色々と詳しいことが分かってきていた。
「お前の色んなものを生やす能力、その成長速度は大きさにある程度比例する。遅くなっちゃあ、より当たらなくなるハズだ」
「えっ! そうだったの!?」
ルシアが一番に驚く。
「思い返してみろ。小麦やら髪の毛やらは一瞬で生えてたろ? だが、俺たちがギーチェと戦った時の大木の時はかなりゆっくりだった。それからよく見るようにしてたんだが、おそらくこの説は正しい」
続けて喋ろうとしたところで、グレアが割って入る。
「なにっ! お前髪を生やせるのか!? なら俺をイカした髪形にしてくれ!」
おい待て。
それが話を切ってまでする話かよ。
でも確かに、グレアの頭は……そうツルツルだ、髪になにか執着心があるのかもしれない。
「そんなの造作もないことだよぉ〜」
「お……おおっ!」
まあ、これで士気が上がるならいいか。
「髪生えろっ!」
ファサァッ!
「お……おお! どうなってる? どうだ? イカしてるか!?」
…………。
……。
「えっと……自分で確認してください……」
そう言うと、ルシアが手鏡を渡す。
「うん〜? ……………。」
その髪型は、簡単に言えば……。
おかっぱだった。
「似合わねーーっっ!!」
「プッ……」
「あれぇ? またなんかやっちゃったぁ?」
「ま、まあ、私が整えればなんとかなるから、大丈夫よ……」
「え? そんなにおかしいか? 俺はかなり気に入ったぞ」
「「「え〜〜?」」」
ま、まあ悪くないのかもしれないな、うん。
しかし……。またくだらないことで時間を費やしてしまった。
さっさと作戦を考えなくてはっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます