第30話 Joyous Girl 下巻

って、なにこれすごい。


本当にびっくりした。


とにかく広い。


真ん中の湯船の周りには柱があったりするし。ちょっと住む世界が、違うかな……。


「あら、お気に召さないかしら」


「い、いえ!なんというか、住む世界が違うなぁ〜って」


って、この人も入るの!?


「にしても、あの町が近くにあるってだけで、正直迷惑よ。あんな不清潔で、文化の遅れた町」


なんだか、この人たち。あの町変えられるくらいの財力がありそうだけど。変なこと言わないほうがいいよね……。


「私からしたら、この家が凄すぎるだけに見えちゃうな〜なんちゃって」


「……」


「……」


「で、お風呂で立ってるだけっておかしいと思わない?」


「あ、そうですね!あはは……」


急いでシャワーのある方にいかないと……。どっち?


「ほら、シャワーはこっちよ」


これだけレベルが高いと、お風呂で迷子になるとは……。


早速シャワーを浴びる、とても気持ちがいい。


さて、まずは名前を聞かないと。で、そのときはこっちから名乗らないとね


「あの、名前を言いそびれちゃいましたね。私はルシアって言います。で、向こうの方にいる子がギーチェって言います」


「どうもぉ〜!!」


「自分から名乗れるなんて、礼儀がいいのね。私はカヌレ、カヌレ・ロン。カヌレって呼んでくれて構わないわ」


やったね!バッチリ好印象!!


「わざわざこんなに素晴らしい所に連れて来てくださってありがとうございます、カヌレさん」


「あら、そこまで丁寧に言うことないのに。それに、ギーチェの方にはギーチェちゃんなのに、私には"さん"付け?」


「あ、えっとごめんなさい。気を悪くしました?」


「別に、いいのよ気にしなくて」


「じゃあ……。カヌレちゃん?」


「ふふ、そのほうがいいわね」


そこからは話すことなく、体も洗い終わって湯船に浸かった。


「いやぁ〜、極楽極楽ぅ〜」


「ホントね〜視覚でも楽しめるものね〜」


「髪の毛も綺麗になっちゃってぇ〜このこのぉ〜」


「ちょっと、やめてよぉ〜」


「さて、こっちもなかなか〜〜」


私の胸に手を触れようとする。


「って、親父か!」


手を押し出し、しっかりとガード。


「……」


カヌレちゃんが、私から急に目をそらす。そして、自分の胸を見る


ペチ……。


……。


「ん……」


虚しい音が、広い空間に鳴り響いた。


…………


……


「満足していただけて、良かったわ」


なんだかんだ長風呂しちゃったな。


「そりゃあ〜勿論!〜ずっと浸かってたいくらいだったよぉ〜」


そして、これまたビックリなことに、私達が着ていた服は洗濯され、破けた箇所も縫い直されていた。


「いや、ホントに、こんなに良くしてもらって……」


「あなたたちは、見てると楽しいから、いつでも遊びに来るといいわ」


「こりゃ、お言葉に甘えちゃおうかなぁ〜」


「こら〜調子乗りすぎ〜」


と言いつつ、私もちょっと愉快な気持ち。


…………


……


って、レイズとスレイ、完全に忘れてた。


特に集合時間を決めてなかったのも悪いけど、待ちくたびれていないだろうか。


「じゃ、また遊びに来て」


「分かった! 絶対来るからね!」


完全におもてなしされてばかりだったけど、いいのかな。


またいつか埋め合わせしないとね。


「あ、そうそう、これからの旅でエクレールって名前のやつに出会ったら、ぶん殴っといてね」


「は、はい?」


「私の嫌いな人、お嬢様言葉で甲高い声が気に食わないのよ。ま、そんなやつがいたなってくらいで、覚えておいてくれたらそれでいいわ」


「いいんだ……」


「それじゃ! じゃあねぇ〜!」


「じゃあね」


「ばいばーい」


私はその場を後にする。


ホントはもっとゆっくりしてたかったけど……。全く、あの男たちは何をしでかすか分からないからね。


さーて、スッキリしたし、戻りましょうか。


…………


……


「よろしかったのですか? お友達になられなくて」


「アンタは男だから分からないと思うけどね。友達なんて、一つの指標にしか過ぎないの。『私達友達だよっ』なんて言葉は、別に無くたって構わないものよ」


「左様でございますか」


「それより、次来た時のために、洋服を何着か用意しないといけないか……」


「お菓子もご用意させていただきます。しかし気になるのは、お嬢様がなぜあの方たちを招き入れたかでございます」


「気まぐれよ、ただ、この町に来てお風呂に入れず、困っていたのを助けたかっただけね」


「そうでございますか」


「ニヤニヤしないで、気持ち悪い」


「いえいえ、私はてっきり、ルシア様が勇者であるからだと……」


…………


「え? そうなの?」


「はい、そうでございます。間違いございません」


「そ、そう……」


「ですが、あの方たちが誰であろうと、お嬢様には関係は無いことでございますね」


「そうね、あの子たちは……」


その時、ドアを開けて他の使用人が出てきた。


「カヌレ様、連絡でございます」


「誰から?」


「フォンダン家のお嬢様でございます」


「キーッ!アイツか!今度は何の用よ!」


「なんでも、魔王の動きについてだそうで……」


…………


「分かったわ、詳しく教えて」


「承知いたしました……」

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