第28話 Joyous Men

チュンチュン


小鳥の鳴き声で目が覚めた

周りを見渡せば木々が生い茂り

空では太陽が草原を照らしている


詩的だ...


......


...


朝の支度を済ませ、再び歩き始める


「噂によると、この辺に町があるらしいんだけどね〜」


「噂って、なんの噂だよ」


「なにって、風の噂」


...


「ま、いいじゃん細かいことは」


「そうだな」


そよそよと風が吹き、草木が揺れ、自然のBGMを作り出す


ふと、便利な移動手段を考えなくてはと思った


明らかに移動が遅い。ワープで町まで...というのは旅の意味が無くなるので、シンプルに移動スピードが上がるなにか...


まずはギーチェの植物を生やす能力で考え、その内容をギーチェに伝えた


「分かったぁ、やってみるねぇ?」


「や、いや、もう嫌!!やだー!!」


と、急にルシアが駄々をこねる


「大丈夫大丈夫、今度は低い所だからねぇ?ねぇ〜大丈夫ですよ〜」


ギーチェがルシアの頭を優しく撫でる


「ほんと?怖くない?」


「怖くないよ〜」


「なら乗る...」


ルシアは幼児退行でもしてしまったのだろうか


ギーチェの生やした木は円盤状の床を作った。それに乗ると、少し浮き上がり、そのまま成長する


「おお!これは便利だ!」


かなりの勢いで進んでいく


「いや、待て。この木、後々交通の邪魔になるんじゃないだろうか」


「なぁに忘れたのぉ?液状化で簡単に埋められるよぉ。なんなら獣対策の低木も朝には無かったでしょ〜?片付けといたんだよぉ」


たしかに、低木は朝には無くなっていた。流石だ


「さて、もう草原を抜けるぞ!」


草原を抜けた先、そこにあったものは


お、おぉ!町だ!


俺たちがいたところよりも規模は小さいが


「昨日の野宿のせいで髪はボサボサ、体もザラザラよ...まずはお風呂!温泉探すわ!」


温泉は無いだろうが、公衆浴場くらいならあるだろう


「私も私も〜!」


「も〜も〜言うな、お前は牛か」


...


「リーダー、そのギャグは無いな」


......


...


まずは別れて行動することにした


俺は受注されてるクエストについて


スレイはこの町の情報について


女二人は風呂に...


「あぁ!勇者様ですか!いやはや...生きているうちにお会いすることが出来ようとは!!」


ギーチェの話を聞くと、勇者は過去にも何組かいたはずだ。この町を通っていてもおかしくないとは思うのだが


でもまあ、その理屈で言えばオートラルスでも同じか


「ここのクエストは何処に行ったら見られるんだ」


「はい!是非ご案内いたします!」


やっぱ敬語がおかしい


...


「こちらでございます!」


そこは居酒屋だった


「は〜、今どきこんなところで...」


「なにかお気に召しませんでしたでしょうか!?」


「いや、少し珍しかったものでな」


「この町は小さいので、あまり周りの文化に追いつけていないのでございます」


「そうか...もういいぞ、ありがとな」


「はい!それでは神のご加護があらんことを!」


...


なんだか、この町特有の雰囲気が懐かしいな


そう思いながら居酒屋のドアを開いた

中に入った途端、目つきの悪い目線が俺に集まる


...


しばらく間があり、中のやつらがお互いに目を合わせる。するともう一度こちらに目を向け


「なんだテメェ!」


「オラ!」


「あんま見ねぇ顔だなァ!?ここはよぉ、常連の客しか来れネェんだよ!!」


「オラ!」


全く、勇者である俺の顔を知らないとは、無礼な奴らだ...なんちゃって


勇者の存在は偉人の肖像画を見ても誰か分からないみたいな、そんな感じの認識で多分合ってるか...?知っている人もいれば知らない人もいるんだろう


と、冷静に考えていると急に二人組がこちらに襲いかかってきた!


「テメェの強さ、俺が直接判断してやるよ!!」


「感謝しろォ!」


あまり急に襲いかかってきたもので、反射的に剣を引き抜いてしまった


だが、この程度の動きなら簡単に見極められる


まずは体つきのデカい方だ


攻撃が大振りな分、避けやすい。棍棒を横に振るのを上手く跳んで躱す。すぐに背後に周り込んで剣の柄頭で後頭部をド突いてやる


そして、間髪入れずに背中に蹴りを入れ、その巨体を倒す


キッ!


小柄な方を鋭く睨んだ


「ひィッ!?」


そうするなり、萎縮した


「まぁ、こんなもんだ」


最近負け戦ばかりだったが、町中なら俺もそれなりに強い。なんだか久しぶりに思いだした感覚だった


「お...」



「「「おぉおおおおーーー!!!!!!」」」


なんだなんだ!?急に...


「本物だ!」


「勇者がこの町にも来たんだ!」


「シャァアア!」


「あんたら、ちょっと黙りな」


この騒ぎは一人の女性の一言で一瞬にして収まった


「勇者サマ、早速だけどね、コイツらじゃ手のつけられないようなクエストが来てるんだよ、この町のためだと思って、引き受けてくれないかい?」


「いきなりだな」


そして見せられた紙には、一体の巨人の姿が描かれていた


「この辺に突然現れたモンスターなんだけどね、とにかく強いのさ。コイツら全員で束になっても勝てやしねぇ」


「だから、頼みてぇんだよ、この町の為にも...な?」


さっき蹴り飛ばした男がそう言って頭を下げた。おそらく、さっきの攻撃も俺が勇者なのかを確かめるためのものだったのだろう


「もちろん構わねえぞ」


...


「「「おおオォォォーーーー!!!!」」」


相変わらずうるさい連中だ


「じゃあ!早速頼んだよ!勇者サマ!」


安請け合いしたものの、本当に倒せるだろうか


いや、倒せるか倒せないかじゃないな


"倒せない"を倒せないと言うんじゃなく、"倒す"と言えるくらいじゃないと、ケインにだって魔王にだって勝てないだろう


「ところで、そいつは何処にいるんだ?」


「心配には及ばないさ。さっき気持ちよく蹴り飛ばされたソイツについていってもらうからね!」


「任せてくれ、それに、俺だって少しは戦える!」


「任せたぜ兄貴!」


「あ、あぁ」


この、男たちの結束というか、バカな集団というか。悪くない雰囲気だ


だが、俺には少しうるさすぎるな...


さて、ようやく強敵とやらと戦えそうじゃねぇか。ここでスキルアップして、もっと強くなってやるぜ


待ってろよ!ケイン!魔王!

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