第27話 Image World

ゴソゴソ


何か音がした


もう朝か?いや、まだ辺りは暗い、朝になった訳では無さそうだ


少しずつ目を開けると、シルエットが少しずつ一人の人物になっていく


「なんだ、ギーチェか。どうしたんだ、起きてるのか?」


そして、耳元で囁く


「久しぶりだね、レイズっ...」


一瞬で全身が固まった


本能で察した。これはパラノイアギーチェの人格だ


得体のしれない相手に、コイツは寝首を搔こうとしていたのではないかと恐怖し、同時に大きな声は出すわけにはいかないことを瞬時に理解した


二人を起こせば一体どうなるのか...


「そんなに怖がらなくて...いいんだよ、もう乱暴はしないから...ね?」


...


その言葉に少し、体が楽になった


そして同時に、滅多にお目にかからない人格になった事について考える。分からないことは沢山ある。聞かないといけないことが、沢山ある


落ち着いて、頭に浮かんだ言葉を口にする


「なぁ、お前は、本当に二重人格ってことなのか?」


「最初にそれ聞く?失礼だなぁ...まぁ、いいけどね...」


ゴクリ...


「私も、詳しくは知らないけど、私が私としてこの世界に生を享けたのはレイズと出会ったとき。だから、みんなのせいなんだよ?」


「俺たちの...せい?」


「だって...私には私自身の体が無いんだもん。それに、ギーチェは確かに私だけど、100%の私じゃない。自分の存在があやふやで、少し怖い」


...


「ねぇ...なにか言ってよ。さっきから話をするだけで、まったくつまらないよ」


「そう言われてもな、もうちょっと分かりやすく言ってくんねぇと、全く何言ってるか分かんねえよ」


「仕方ないでしょ、私だって、なんでこんな事になってるか分からないんだもん」


一体...どういうことなのだろう...


そんなことより、せっかくこっちの人格が出てきたんだ。もう一つ聞かないといけないことが


「なぁ、パラノイアギー...」


「ながい...」


「え?」


「パラノイアギーチェなんてさ、長いと思わない?ニックネーム...つけてみてよ、とびきり可愛いの」


「んなこと急に言われてもな」


パラノイアギーチェ...


パラギ?


ラノイ?


ライーチェ?


ラアチェ...


可愛いというと、こんなところか...


「ラアチェで、どうだ?」


「ラアチェ...」


...


「いいんじゃないかな、うん、いいね」


どうやら合格らしい


「じゃあラアチェ、お前ミサイルとか出してたよな。どこかで触った事があるのか?」


「さあ...分からない。でも、おそらくあるんだろうね」


何も分からないことが分かった


「じゃあ、質問に答えたところで、私の番ね」


「あぁ、俺に答えられることならな」


すると、突然、俺の顔を輪郭に沿って撫で始めた


「おいっ、急になんだよ、やめろよ」


「ふーん」


次に、少し赤くなった俺の顔をじっくりと見つめる


ラアチェ...いや、肉体はギーチェなのか?とりあえず、その瞳に俺の顔が写っている


そして少し目を細め、ラアチェも俺の瞳を覗き込む


「だから、なんなんだって」


「嫌なら、私を退ければ?」


俺は逃げるように後ろに後ずさる


「やっぱり」


「なにがだよ」


「レイズってさ、嫌いなことや許せないこととか。そういうの、適当でしょ」


「は?なんの話だよ」


「レイズは完全に間違っている事を完全に否定するって事が出来ない」


「それとさっきのと、なんの関係があるんだよ」


「強気に見えるその性格と態度。その根幹には弱い心と、ちゃらんぽらんな気持ちが」


「...いや、俺はお前が俺たちを攻撃したとき、それは間違っていると、反論した」


「だめだよ。やっぱりレイズは優しすぎるんだよ」


俺が、優しい?


どこがだよ、パーティーメンバーを追放して、調子に乗って、死にかけて、それでいて俺が追放したケインを連れ戻したいなんて考えてる。そんな俺だぞ


「本気で怒るってことが...出来ないんだね」


哀れむような顔を見せる


「さっきから言いたい放題言いやがって...」


「私の好きな人だから、今言ったこと、直してくれたら、うれしいな」


相変わらず、自分が話すときは人の話を聞かないところは通常運転だ


...


「隣で一緒に寝ようよ、構わないでしょ?」


「...いや、お前は向こうで寝ろ」


「...なんで?」


「お前が否定しろって言ったからだ」


...


「いいね、ちょっと好みに近づいてきた」


そう言うと、立ち上がった


「待て、最後に一つだけ聞きたい」


「いいよ、言ってみて?」


「お前は、消えることはないのか?俺たちといつか別れたその後も、お前はギーチェに居続けるのか?」


「...」


「それが、一つ気がかりだ」


「なら、私はその時、潔く消えるよ」


「え?」


「それが、みんなの望みなら、ね」


...


そしてラアチェは、元いた場所へ戻り、眠りについた


消える...


それは、ラアチェを殺すことと、同じなんじゃないのか

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