第20話 Enable Atack

タタタタタ...


ようやく木の先に着いた


足元は木の枝。だが、大分しっかりしている。


「さて、ここからどうするべきか...」


この何本かの木はギーチェを中心として生えているので、真ん中に穴がある


「ここから飛び降りるか...?」


あまり考えている時間は無い、ケインの魔法ももうすぐ消えそうだ


その時だった


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


木が揺れている、そして、中心から凄まじい勢いで木がせり上がってくる


その木の先にいたのは


「ほんっとあの人嫌い。だって私のこと嫌いだもん」


ケインに腹を立てているギーチェだった


「さーてと」


彼女がそうつぶやいた直後、俺たちの足元の枝だけが上の方に伸びていく


「な...なにこれ!?...こ...こわ〜...」


2人もしっかり枝に掴まっている


すると、俺たちが登ってきた大木が捻じれ、からみ合い、一本の大木になった


そして、急に横に曲がりながら成長し、俺たちはその表面に落とされた


「これでいい感じの足場になったんじゃないかな〜」


「なんでだよ、まだ戦うのか?俺たちに戦う理由なんてないだろ...?」


取り押さえるってのも、流石に厳しい...


「だからぁ...ね?大人しくしてればいいんだって。ずっと一緒に」


「そもそも俺たちじゃないといけないなんてことないだろ!」


「なんでだろうね、ビビッ!ってきたっていうか、目の前にいたからっていうか。言葉には出来ないかなぁ、なんて」


「それは、私達が運命の出会いをしたってこと?」


恥ずかしいこと言うな、コイツ


「落ち着いて考えてみてほしい。それは、長い間人に会っていなかったからじゃないのか?森を出て、もっと色んな人に会わないと、他にも沢山あるはずの運命の出会いにも気付けない」


「森を出たらどうなると思う?エルフだからって気味悪がられるのがオチだよぉ!」


...過去のトラウマが今でも残っているから、自分から歩み寄ることが出来なかったんだ


「そんなの、やってみなきゃ分かんねえだろ」


「知った風な口をッ!」


「お前は長生きだから分からねえかもしれねえけどな。魔王なんて、今じゃ空気みたいなもんだしよ、種族がどうこうなんて、誰も考えてねえよ」


「...」


急に俯く。俺の言葉は通じたのだろうか、前向きに考えているのだろうか


「...」


「な?せっかく最終決戦に似合う場所を作ってくれたようだが、もう戦う必要なんてないんだっての」


...


「グスッ...」


「今、俺たちしか信じられないなら、それでいい。俺たちが...俺がお前に信じることを、教えてやるよ」


「と、いうと...?」


「俺と一緒に森を出るんだよ。いつここに戻ってきても自由だがな、もし行きたいんだったら、俺たちについて来いってことだ」


「問題ない」


「当然!」


「二人ともこう言ってる。どうだ?」


「...」


何も言わず、歩いてくる


そして、俺の服を握りしめ、静かにうなだれる


「ここで一緒にいるんじゃ...だめなの?」


「何度も言わせるなよ...俺たちは進んでいかないといけないんだ。一緒についてくるなら自由だ」


「なら...ついてく...」


「ああ、いいぞ」


「んっ...」


すると俺を押し倒して、馬乗りの状態になる


「ちょっと!なにしてんのよ!」


「絶対...私が良いって言うまで、一緒にいてくれるの?」


「ああ...いいぞ」


「じゃあ、ずっと一緒」


顔を近づけてくる...


「ストーーップ!!!」


ルシアがギーチェを抑える...というか吹っ飛ばす


「何をするだぁーっ!」


「こっちのセリフよ!うちのチームは清廉潔白がモットーなんだから!!」


「そんなのいつ決めたよ...」


「さあ...」


さて、一体何をするつもりだったんだか...


「それじゃあ、ギーチェ、おろしてくれ」


「え?おろすぅ?」


「ああ、そうだよ、下に戻れないだろ」


「...疲れちゃったからねぇ、もう動けないやぁ!」


...


「じゃあ、おやすみぃ...」


...


「「「えぇ...」」」


最終決戦場のはずだったこの場所は、お昼寝スペースとなってしまった





なんとも締まらない最後だった


せっかくならビシッと決めたいよなぁ


結局、昼寝したあとには、ちゃんと降ろしてもらえた


「いやー、本当に便利な能力よね、正式にチームに入ってくれたら、かなりの戦力よ」


「あんまり戦うのは好きじゃないからねぇ。こうやって、山の中で色々作ってるのが一番なんだよぉ」


「でも、一人じゃ寂しい、と」


「そ、そうだねぇ...」


「遅かったな、昼寝するのは予想外だ」


家の側にあるテラス席みたいなところで優雅にお茶を飲んでやがる


「また助けられちまったな、全く、自立なんて程遠いぜ」


しかし...ケインも本当はかなりいいやつなんじゃないだろうか...世話焼きなだけか?


「あぁ〜私の鎌〜、ちゃんと拾っといてくれたんだね〜」


机には鎌が立てかけてある


「俺も千里眼の能力で木の上を見ていたんだが、レイズに迫るとは」


微笑を浮かべる...何がおかしい!


「カーッッ...」


「歳の差カップル降臨...流石にこれは言い過ぎか、フッ」


「おおおお、お前大っきらいだぁっ!!」


「信じらんないサイテーーッ!!乙女に対してなんて口の効き方よ!」


「ケインさまーー!!」


「お迎えが来たようだ、俺たちも旅の続きといこうか」


おいおい、のんびり生きるとか言ってなかったか?相変わらず言ってることがコロコロ変わりやがる


「お...おお!エルフじゃないですかヤダー本物ー!?」


オタク野郎が...


「うわー、憧れてたんですよエルフ〜」


「左様でございますか、カリン様。はて、それは何故でございましょう」


「いやぁ〜珍しいですし〜?あの耳とか、あれも一つの萌えであると!そう思いませんかね!私的にはイヤリングつけてるとポイント高いですね〜ハイ。そして、肉づきのいい体...グヘヘヘへ」


コイツホントに女かよ


「なるほど、分かる気もします...美しい女性には憧れるものですよね」


なんだか論点が違う気がするが


「いやぁ~眼福眼福、ですな!いいものを見せてもらいやした〜」


「そこまでにして、そろそろ行くぞ。」


そういえばここには2人しか来ていない。おそらく待たせているのだろう


「そうだ、定期的に野菜を欲しがる人がいるだろ?そいつと俺は知り合いだ、話し合いをつけておくから心配ない」


「知り合いなんだー、偶然だね〜」


「はいはい〜!世界を救うのは私達だ〜」


「それではフラワーフラグメンツのみなさんも、魔王討伐、頑張ってください」


「お、おう」


そのまま歩いていってしまった


「そうかぁ...私のことを見てくれる人も、本当はいたんだなぁ...」


「もっと広い視野で見るのが大事だ。と、人生の後輩が言っておく」


スレイのギャグセンも上がってきた


「あ、そういえば...」


ん?なんだ?


「私達を引き合わせてくれた、あの大根は?」


...


家に入ってみる


「うわぁ!すっごい!なんかキレイになってる〜!というか、ご飯の準備出来てる〜!?」


ケインがやるわけないし...まさか...


クイクイッ


ズボンを引っ張られる


ピコピコ


私がやりましたと言っているようだ、多分


「すっごーいねぇ〜!これで家を開けてても心配ないやぁ!」


ピコンッ!


任せておけ!と言っているようだ、多分


「じゃあ、早速飯食って、寝て、明日出発だ!」


「「「おおーー!!」」」


食卓には昼間にとった米、野菜だけではなく、肉も並べられている


これを調理した大根...一体何を思って料理するのだろうか...というか、器用にも程がある


「あ!そうだ!唐辛子!生〜えろ!」


まさかのご飯から芽を出す唐辛子


というか、茎もなにもない、よくみる唐辛子がそのまま出てきた


「おかずはやっぱりこれがないとね〜」


そう言って、唐辛子とご飯を一緒に掻っ込む


「あ、みんなもいるよねぇ?」


「いや、いらないです...」


「遠慮します」


...


「遠慮しないでいいんだよぉ?ほらぁ!」


みんなのご飯に唐辛子が生える(乗っかる)


...


これからの食事、どーすっかなぁ...


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