第16話 At Home
チャプンッ!
「あはは!お兄ちゃんと一緒だー!」
結局...
俺はヴェルと風呂に入っている
はぁぁぁ〜〜
食事の前に風呂に入っとけってことで、湯船に使ってるわけだが...
にしても驚いた、普通はこんな山中に風呂なんてないもんだが、近くに温泉が湧いてるらしく、そこから引いてそうな
ふぅ...
今まで入った中でもかなり上位に入る...気持ちいい湯だ。そんなに詳しくないから、なんとも言えないが、温度が良いのだろうか
にしても、ホッとする。心地いい
むにっ
湯船の中で、ヴェルが俺の膝の上辺りにのっかる
そして、俺の顔を見る
「ね、お兄ちゃん、しりとりしよう?」
「ん?しりとりか?いいぞ」
「じゃーあ、しりとりの"り"からでー。んーと、立地!」
また、微妙に難しい単語を
「チルド食品」
あ、
「えーと...ちる...しょく...ひん...あ!"ん"がついてる!」
適当に答えたら一手で負けた
「わっはっは!!私の勝ちぃ!お兄ちゃんよわーい!!」
全く、穢れを知らない子供だ...もうちょっとしたら、「わざと負けたでしょっ!」って言うようになるんだろうなぁ...
「ふふーん!」
上機嫌だ
...
「うーーん♪」
ぴとっ
俺にもたれかかる
温かい
俺は反射的に腕を回してしまった、こういうのを母性と言うのだろうか
すぐ引っ込めようとしたが、ヴェルが腕を絡めてしまって、戻そうにも振りほどく形になってしまう。まあ、これでいいか
...
俺は...
聞いたほうが...良いだろうか...
寂しいのかと...
言ったほうが...良いだろうか...
俺はお前の兄ではないと...
別れより先に、ヴェルの将来が心配になってきた
何も言いたくない...
言ってやるのが一番良いはずなのに、どうしてもその踏ん切りがつかない
「ねえねえお兄ちゃん、何か手遊びとか教えて〜」
今はヴェルの面倒見で精一杯だな...
「あぁ、そうだな...」
手遊びか...昔の記憶を辿ってみる
「あー、軍艦じゃんけんとかか...?」
「知らなーい、どうやってやるの?」
「えーとだな。まず、せーんそって言って、手をこうやって叩くんだ」
ヴェルの右手を左手で動かして、やってみせる
「そしたら、グーチョキパー。どれかを出して、同じならもう一回手を叩いて、違ったら勝ったほうが掛け声を出すんだ」
「うーん...」
いざ説明しようとすると難しい
「グーなら"ぐーかん"、チョキなら"ちょーせん"、パーなら"はーわい"ってのが掛け声だ。同じ手を出したら手を叩いて『一本とって』と言う。これで1ポイントだ、先に3点とった方が勝ち。」
「うーん、分かんないよぉ」
「じゃあやってみるか」
「まず、せーんそっ!」
手を叩く振りをする。しかし、ヴェルはそれについていけてない
「えとな、こうやって手を叩いて...」
.........
......
...
結構苦労したが、なんとか覚えてくれた
しかし、よくよく考えると教育に良くない手遊びを教えてしまったな。戦争なんて不謹慎だ
「んー、でもなんでちょーせんとはわいとぐーかんなの?」
「確かに、なんでだろうな」
ハワイは分かる、すごくよく分かる。朝鮮といい、地名だからな。
だがっ!軍艦ってのはどういうことだァ?軍艦なんてどこでも持ってるだろうが!
はぁ...
考えるのが面倒だ、ボーッとしてきた...
......
...
「お兄ちゃん〜寝ないでよ〜」
ん、うぅんん...
「ねーぇ、ねーえ!」
「起きてる、起きてるよ...」
「もういいもん、くすぐってやる!」
脇をくすぐるヴェル...
「ん、んぐぐ...」
我慢してみる
「そういえば、足の下が弱いんだっけ?」
残念だったな、足の下は全く効果ないぞヴェル!
「こちょこちょ〜」
「ぐっ!」
なっ!くすぐったいというより変にこそばゆい感じだっ!俺も知らない弱点があったとは
「くぉららぁぁああ!!!早く出なさいよ!!つっかえてるのよ!!!」
おっといけない、ついゆっくり浸かってしまっていた...
「出るぞヴェル」
「はーい!」
......
...
俺はその後、飯を食って、ベッドに横になった
そこには...ヴェルも居て...
「夜ご飯美味しかったよね!」
「ああ、俺らの飯当番なだけある。そこそこいい出来だった」
「うん!あのお姉ちゃんも流石だね!」
...
「俺は寝るぞ、明日行かないと行けないからな」
そうだ、こんなことで現を抜かしてはいられない。忘れつつあるが、俺の最終目標はケインを倒すことだ
「う...うん、そうだね」
...
「あのよ...」
俺は声をかける...
「なに?」
...
「別に、お兄ちゃんがいなくなっても、大丈夫なのか?」
「ホントは...ちょっと寂しい」
思ったより素直だった
...
「でもな、お兄ちゃんは、魔王を倒すためにも、強くならないといけないし、沢山の敵と戦わないといけないんだ、許してくれ...」
「許すとか...言わないでいいよ。分かってるもん、やらないといけないことがあるって...」
「あ、あぁ、そうだな」
...
いや、それが本当に本心なのだろうか
俺は今やヴェルの心の支えだ。それも、たった2つしかない支えのうちの1つ...
俺がいないと、ダメなんじゃないのか...
...
「なあ、ヴェル」
「なに?」
「今日から、しばらく会えなくなるだろ...」
...
「だから...今日くらいなら...今夜くらいなら、甘えて...いいんだぞ...」
「んっ...」
ヴェルが俺に抱きつく
母親がヴェルにそうしたように、強く、強く、抱きしめる
「行かないで欲しいよ...行かないでよ!ずっと...私と一緒に...森で特訓したり、本を読んだり...時々失敗したり、おっちょこちょいなお兄ちゃんが大好きなんだよ!」
胸が締め付けられる
「戦いに行ってから、喋り方とか、色々変わっちゃったけど、それでも!優しい...優しいあのときのお兄ちゃんのままなんだよ!!う...うぅ〜〜!!!」
俺は...ヴェルの理想の兄であったのだろうか、ヴェルの心の傷を癒す、心優しい兄...
俺は...ヴェルを抱きしめ返していた
「大丈夫...だ...俺は、必ず、世界を平和にして、生きて、帰ってくる!」
ヴェルを抱き寄せ、ヴェルの見えない所で...
涙を...流していた...
たった2日間の絆で...ここまでの感情を抱くことになるなんて、今考えてもおかしな話に思える、だが、涙が...止まらなかった...
...
「でもね、大丈夫だよ、私...」
「え...?」
「お兄ちゃん、私のこと、ちゃんと、名前で呼んでくれるようになって...すごく嬉しかった...」
いつのまに...俺は...
「今のお兄ちゃんなら、私を忘れることなんて絶対無いよ。私...安心して...待ってるから...」
「あ、あぁ...待っててくれ...」
ヴェルは...涙を流しながら、いつの間にか眠りについていた...
その眠りが安らかなうちに...
.........
......
...
「リーダー、本当に行くのか?」
「ああ、まるで夜逃げだな」
俺は2人を集め、出発の用意をしていた
「本当に、行かれるんですか?」
そこには、母親もいた
「俺たちはさっさと強くならないといけないんでな」
「ヴェルちゃんには、よろしく伝えておいてください!美味しいご飯どういたしましてって!」
...
「よし」
準備は整った
「それでは、お気をつけて...」
「ちょっと待ちな」
声をかける
「は、はい!」
俺は、戦う理由がもう1つ出来たんだ。目標ではなく、その理由が...
「俺は、さっさと魔王を倒して、ここに戻って来なくちゃなんねぇ。それまで、しっかりと母親を務めてくれ」
「もちろん...です」
「ヴェルは、俺がいなくなった今ベッドで1人ぼっちだ。お前は、親として、ずっと側にいてやれ」
「...」
「言うことは以上だ...じゃあ、世話になったな」
俺は、ドアを開ける
「待ってください!」
...
「なんだ?」
「あなたが...勇者様で...本当に良かった...」
「ん?」
「私...嬉しいです...あなたのような方でなければ...ダメです...」
...
「これを...どうか...受け取ってください...」
ん?なんだこれは...
錆びついた剣...まるで鈍器だ。使い物にならない...
「これは、なんだ?」
「これは...我が家に伝わるお守りです。勇者様に必ず貰ってほしいのです...」
お守りにしては大分大きいが...
「分かった、ありがたくもらっていく...」
「ありがとうございます!そのお守りも...きっと喜んでいます!それは...大事な...大事な...」
...
「必ず!魔王を倒して...!私達のような悲しみを...誰も...何も失わないために...!」
ああ、もちろんだ...魔王だって...倒してみせるさ...
俺は、2人の悲しみと、決意を胸に...夜の森を歩きだした
第二部 go ready go 完
......
....
..
「いやぁ、泣かせるね」
「ああ、レイズも成長しつつあるってことだ」
2人の話し声が...地下室に響き渡る
「あの三人、フラワーフラグメンツ。例えるならレジリエンスだね」
「レジリエンス?」
「ああ、例えば、バネのように、縮んだあと、さらに大きく伸びる。そんな感じのことさ」
「大分端折ってるようだが、大体分かった」
「今回の僕の例えはどうだった?」
「0点だ」
「なかなか手厳しい」
「お前は分かりやすくしようとするあまり、本来の言葉に込められたいくつもの意味を消してしまっている」
「ま、いいじゃないか、理解できない人が大半なんだから、分かりやすくしないと分かって貰えないんだよ」
「話が逸れたが...レイズ達は、いつになったらここに来れるんだろうな」
「別に来なくても、君が僕の代理で話してくれれば、解決だと思うんだけど」
「お前が直接話さないと、色々語弊が生まれるし、面倒なんだよ」
「ふーん、ま、良いけどね」
...
「に、しても...」
「なんだ」
「魔王はいつ本気を出すのやら」
「きっと、真相を知れば、すぐに襲ってくるだろうな。まあ、"あれ"を上手いこと手に入れる必要があるが」
「全く、"本人"はそこまで考えてないのがまた怖いよね。忠告してやってよ」
「忠告しても、意味なんてなかった」
「お、既に行動に移してたか、流石チートスキル持ちは違うねぇ」
「チートって言ったって、俺は存在しうる範疇のスキルを沢山持っているだけだ。本当のチートは"まだ"この世にはいない」
「と、なると...ふふふ、楽しみだね」
「何が楽しみだ、迷惑になってるのも知らないで」
「知ってるさ、勿論。だけど、このくらい、どうってことないだろう?ローリスクハイリターンだ」
「これだからお前は好きになれない」
「それほどでも?ハハハ!」
いつになるかは分からない
だが、必ず来てくれ
コイツは今でも、此処で...
「待ってるよ...」
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