第17話 Blown Away

さて、俺たちは今、旅を続けている


数日前のケインの追放は俺たちの戦力を大きく下げる結果になってしまったが、今はこの新しい環境に慣れつつある


ここで、旅に出るきっかけになった、今までの出来事を振り返ってみる


まず、パーティー内で全く働かないケインを追放した俺たちは、新しいパーティーで底なし(と思われていた)のダンジョン、サウスドレシアに入って見事に返り討ちに遭ったんだったな


そのあとはチームの欠員をどうするか考えたが勇者の面倒な制約のせいで、どうしようもなかったんだ


で、ケイン率いるイノセントダークと戦うも、あと一歩で敗北した。ケインの手助け無しで負けるなんて...


そのあとはケインの助言で図書館に行って国と蛙と王様とってタイトルの本を探せと言われたが、図書館に入れてすらもらえず


何も上手く行かない俺たちは、パーティー名をブレイブソウルズ改め、フラワーフラグメンツとし、ケインの助言で旅に出た


そして、妹を名乗る少女、ヴェルと出会い、俺は魔王討伐への決意を新たに、こうして、旅を続けている


さて、俺たちはケイン達を超え、魔王を討伐出来るのか...


「なあ、魔王ってどんな強さなんだろうな」


ケインが先か、魔王が先か...


ケインのあのチート能力は底が知れない。聞いた能力だけでもその強さが分かる、あらゆる種族に対して特攻スキルを持ち、能力上昇魔法はお手の物


その力でも魔王は倒せないものなのか?


「うーん...出会ったこともなければ言い伝えもザックリしてるし、全く分からないね」


だよな


魔王が自ら戦ったのは遥か昔のことで、しばらくは冷戦状態。魔王も城の奥で引きこもっているんだろう


魔王の城はこの大陸のど真ん中。俺たちの町、オートラルスは南側に位置し、現在は城を避けて東の方角に移動している


なんでも、オートラルスは旅立つ若者の町と言われ、周りに生息するモンスターも比較的弱いからな、旅に出ないといけないのは当たり前と言えば当たり前だ


氷山はオートラルスをもっと南に行ったところにあり、強さが飛躍的に上がる


勇者と言われる俺たちは、魔王討伐と言われても何をすればいいか分からず、町のサウスドレシアに通って、たまに氷山。そんな感じだ


井の中の蛙とは、まさにこのことを言うのだろう


話が逸れたが、魔王との直接対決は向こうが攻めてこないんじゃ、鍛えてから挑むに限る。なら、俺たちはケインを超えて、魔王との最終決戦というのが、最適解なのだろうか


ま、今の旅はこんな事を考えてないと間が持たない。序盤は大した敵も出てこないしな、難しいこと考えてないで、ひたすら戦えるようになるのは、まだまだ先だろう


「あーあ!その辺に刺激が落ちてねえかな!」


「まだまだ序盤だからな、もうちょっと歩けば敵も徐々に強くなってきて、そんなこと言わないで済むぞ」


「そんなに刺激が欲しいなら、サウスドレシアで一気に60階にでも行けばぁ?」


こちらを睨んでニタッとする。終われば笑い話かもしれねえけどよ、危うく死んでたんだぞ!笑えねえよ!


すると何かが見えた


テクテクテクテク...


白い何か...が...歩いている...これまた見たことない...モンスターか?


クイッ?


...


というかアレは...


...


大根?


ピピャァッ!?


走って逃げていく...


「なんだありゃ...」


...


「追いかけてみるぞ!」


「おう」「うん!」


なんか面白そうだなオイ!


大分すばしっこいが、走って追いかける


森の中を右へ左へ。道なき道を走っていく


「ちょっと!?これ大丈夫なの!?迷子になったら洒落になんないよ!?」


「このようなことがあろうかと、魔石を置いてきた」


「ナイススレイ!」


少し振り返って親指を立てる


「そこはありがとうじゃないのか?」


どっちでもいいだろ!細けえ...ガッ!


ゴツンッ!!


枝に頭をぶつけた、よそ見は良くないな...


「なにやってんの!」


「俺はフラワーフラグメンツ団長レイズだぞ...こんくれぇなんてこたぁねぇ」


「無駄口...叩くなっ!」


どれくらい走っただろうか...全く追いつけない


ハァハァ...これ以上はキツイか...


すると、急に森が開けた、そして、家と畑が目に入る


そして、大根みたいなモンスター?は畑に潜ってしまった...


俺たちは足をとめる


「えぇ?帰ってきたぁ...」


ビクッ!


いきなり遠くから人の声...家の方からだ


扉が開き、1人の女性が出てくる


「ってぇ!また誰かいる!」


俺達より少し年上だろうか

よく見ると耳が尖っている。エルフか?だがエルフが1人で住んでいるのは珍しい


この世界には沢山の種族がいる。エルフや悪魔なんかは、魔王とは関係なくとも、種族の違いから村八分のような扱いを一時期受けていたらしい


なので、そういった種族は大抵まとまって隠れ住んでいるのだ


「こんなところぉ...人が来るなんて珍しいねぇ!どこから来たのー!?」


喋り方に大分癖がある...見た目よりずっと年寄りくさい言葉を話す


それより大根が気になるところだけども、とりあえずコミュニケーションを図る


「大根が走ってたんだよ、追いかけてたらここに来た」


...


何を言ってるんだ俺は


...


「あ、あの、ホントなんです...今、この畑に埋まっていってしまいました」


...


何を言ってるんだルシアは


...


「素晴らしい畑ですね」


スレイが言った、ナイスリカバリー?


「なるほどねぇ、あの大根を見て走ってきた訳だぁ!」


あ、まぁ、そのとおりだが...


「いやぁ、今朝作ったんだけど、走り出しちゃってね、珍しいこともあるもんだと思ってたけど、見られちゃったかぁ!」


この人は絶望的に農業のセンスが無いのかもしれない...


「ま、ま!せっかく会えたんだから、ちょっと寄っていきなぁよ!」


俺は2人に耳打ちする


「どうする?」


「別に悪い人じゃ無さそうだ、ここはお言葉に甘えよう」


「でも、ちょっとだけだよ、寄り道ばっかしてちゃ全く強くなれないじゃない!」


「「了解、それでいこう」」


女性の方を見る


「分かった、ちょっとだけ寄り道させてもらう」


「いいのいいの!ほらほら!入って入ってぇ!」


最近人の家にお邪魔してばっかだな


...


「んでぇ!?町を出て修行の旅の途中なんだぁ!?」


俺たちがここに来るに至った経緯を話した


「ああ、そしたら道を大根が横切ったもんで、気になってついてきたらここに来たんだ」


「そりゃあ傑作だよ!歩く大根の出会い、浪漫だねぇ!」


ロマンのかけらもないと思うが


「んにしてもぉ、最近よく人に会うんだよねぇ、いつもはこの辺全く人来ないのにねぇ?珍しいこともあるもんだよぉ」


そりゃあこんな山中じゃな


「でもぉ?野菜が大量に欲しいってモノ好きが1人だけいてさあ、その人のために野菜作ってんの!」


「そうなんですか、こんな小さな畑でそんなに沢山作れるんですか?」


スレイが訝しげに聞く


「まあねぇ〜、別におっきくしてもいんだけど...」


...


「めんどくさいよねぇ〜!」


農業のセンスどころか根性もないな!


「でも?これで困ったことはないよ?じゃちょっと見ていく?」


見ていくってなんだよ...でもまあ...


「まあ、せっかくだからな、見せてくれ」


俺たちは外に出て畑まで来る


「何が始まるんだろ?」


「さあ?」


ルシアと小声で話していると


「なに食べる〜?かぼちゃ?ゴーヤ?」


かぼちゃ、ゴーヤ...またもや年寄りくさいセンスだ...うーん


というか、食べたいものか?何がいいか...

また今度来たら分けてくれるということだろうか


「じゃあ米でも作ってくれ」


って、米って畑で作るもんじゃないだろ...


「米?米でいいの?」


「あ、あぁ...」


先ほどから言葉の真意が見えてこない


「よーし分かったぁ!」


...


畑の方をただ見つめている...


「お米生えろ〜!!」


ボサァッ!!!!


...


一瞬にして畑が稲穂で一杯になる...


...


「「「え?」」」


俺たちは顔を見合わせる


「あっ!そうだあ!自己紹介してなかったねぇ!」


勇ましい立ち姿でこちらを見る 


風が強く吹き

草木がざわめき

太陽の光がより強く差す

自然に包まれたステージで


彼女は言った





「私の名前はギーチェ!元勇者だぁっ!」





黄金色の稲穂を背景に...先代勇者、ギーチェが楽しそうに笑う


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