第15話 Break Down
あたりが赤くなってきた
そろそろどこか、休む場所を作らなくては
にしても...
「なぁ、お前はいつまで着いてくるつもりなんだ?」
俺は聞いた
「うーん...お兄ちゃんも元気なのが分かったし...」
...
「もう帰ろうかなっ!」
そうか
「やれやれ、ようやく帰る気になったか」
俺はキザったらしく言う
「うん!じゃあ帰ろっか!」
ルシアが明るく振る舞い、スレイが続けて言う
「あぁ、そうだな。危険な目に遭わないうちに、早く帰ったほうがいい」
近所のおじさんみたいな話し方だな
「で、結局家はどこなんだよ」
「もー!ホントは分かってるくせにー」
ん?
ヴェルが駆けだす。その先には...
「ルシアさん!スレイさん!こっちが私たちのお家でーす!!」
こじんまりとした木の家がそこにはあった
まさか宛もなく歩いた先がある意味の目的地だったとは、と思ったが、恐らくはヴェルがなんとなく誘導していたのだろう
「た、ただいまー...?」
兄目線になってみる
「たっだいまー!」
ヴェルが元気に声を上げるが、これが勝手に家を抜け出す、年端もいかない子の帰りの挨拶でいいものなのか
「お母さんーーー」
...
返事がない
漫画なら親が死んでる展開だが...大丈夫か?
「聞こえるーー?ヴェルだよー!」
その時、家のドアが開く
「あっ!お母さん出てきた!」
「ヴェル...?ヴェルなの?」
「ごめんね!ちょっとだけ家出してきちゃった!」
「う...うぅぅ!」
母親が咽び泣く
「なんで...なんで勝手にいなくなっちゃったりするのっ!...」
母親がヴェルを抱きしめる
かがみ込んで、強く、強く両腕で抱きしめる
家出して一日帰って来ていなかったんだ。親としては不安で不安で仕方なかったはずだ...
「ごめんね、でも!お兄ちゃんを見つけたんだよっ!!」
「え、お兄ちゃん?」
母親が俺たちを見る
今までヴェルしか目に入っていなかったらしく、俺を見て驚いている様子だ
「ヴェル、まずは手を洗って、夜ご飯の準備するからね。」
「う、うん!」
ヴェルが家の中へ走っていく。すると母親がこちらへ歩いて来た
「あ、あの...え...何から申し上げればよいか...」
「お前にとって、俺は誰だ?」
「す!すいません!娘が変なことを言っていたと思いますが...」
続けて言う
「あなたは、勇者様で、あの子の兄ということは決してありません!」
だよな、よかった。その言葉を聞いて若干安心した
「実は...あの子は、私と二人であの家に住んでいます...実は...主人が亡くなったんです」
「え...」
俺はありふれた話だなと思っていたが、ルシアには驚きだったらしい
モンスターだらけのこんな場所、油断すればすぐにお陀仏だ
一方、スレイは黙って聞いている
「あの...娘は恐らく、自分を支えてくれる家族が必要だったのでしょう...私の気づかないうちに、理想の兄を作り出していたのだと思います」
そうか、ヴェルのやつ。ああ見えて、ずっと寂しかったんだな
...
いや、何を言ってるんだ俺は
最初からそうだったじゃないか
俺は思い出していた
ベッドに飛び込んできたときのあの顔を...
少し涙を浮かべながら、顔はめいいっぱいの笑顔で...
俺を離そうとしなかった
ホントは、俺とは別れたくないのかもしれない。いや、そうに違いない。だが、それでも、俺たちの旅路を見据えて、自分を押しつぶしていたのだろう...
クソッ...泣かせてくれるぜ...心が壊れかけて、ようやく出会えた心の支えを失うんだ...それなのに...それなのに...
ヴェルは...ヴェルは笑っているじゃないか
「あの子は、どこかで聞いた勇者様の武勇伝や、偉業を聞いて、勇者様こそ、頼れる自分の兄だと思い込んだのでしょう...」
赤みを失った空を見上げ、そう言った
「なんで...?」
ルシアが声を震わせながら聞く
「なんで、たった一人の母親なのに、あの子の心の状態に気づけなかったんですかッ!!」
な...
俺は驚いた。ルシアがこれほどまでに感情を露わにすることが無かったからだ
「落ち着けルシア!」
スレイが制する
「一人の大切な人を失ったのは変わらない。それに、この人はたった一人でヴェルを守ってきたんだ。それは俺たちでも分かることだろう?」
スレイの言葉で、ルシアが、落ち着きを取り戻す
...
「私も...後悔しています...娘のことを、もっと見てあげるべきだった...昔から本を読んでいるときは落ち着いている子なので、感情の変化に気づけず...」
「それは、言い訳のつもりですか...」
「おい、やめろって」
流石の俺も、母親が気の毒だ
「さっきからあなたは、過去の理由を並べるばかりで、全くこれからのことを考えていないんじゃないですか?」
「原因が...分からなければ、どうしようも...」
母親が言い淀む、無理もない、これだけ言い迫られれば...
「ねぇ...喧嘩してるの...?」
...
「いや、喧嘩なんてしてないぞ」
すかさずフォローする
「安心しろ、な?」
俺は二人にアイサインを送る
「そ、そうよ、私はちょっとお話をしていただけで...」
「それより...勇者様。外も暗くなってきましたし、今日は、ここで泊まってください」
上手いこと話を逸らす
「やったー!じゃ!お兄ちゃん!一緒にお風呂入ろ!!」
え、ちょ...
「いいんですか?」
「はい、お夕飯も今から準備するつもりだったので、皆さんの分もお作り出来ます」
いや、そんなことより、ちょっと...
「分かりました。では、私もお手伝いさせていただきます」
「いえ!勇者様はおくつろぎください!」
「私も...ついカッとなってしまって...親というものを知らない私が...本当に申し訳ありません...」
ルシアが謝ると、母親は恐れ多いと言うように首を振る
「いえ...私が悪いんです...」
「そういうのはいいから、さっさと家に入れてくれ。寒い」
「申し訳ありません!ただいま!」
悪い流れを断ち切ろうと声を上げたが、もしかすると少し口が悪かったかもしれない
俺たちは家に入った
ヴェルがドアの辺りから、くっついて離れない
「お兄ちゃん!お風呂!一緒に!」
...全く
俺はどうすりゃいいんだ...
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