第11話 「独立宣言」 Flower Fragments


 新チーム結成(とは言っても、チーム名が変わっただけだが)から数日経った。

 俺たちはサウスドレシアに何度か通って、自分の身の丈にあった階層で、ゆっくり、されど確実に鍛錬を続けていた。


 日課としては、こんな感じだ。

 30階でしばらく肩慣らししたあと、昼間は31階でずっと鍛える。外が暗くなってくるタイミングで引き上げて、アイテムの整理をする。

 なにかと忙しかったケイン追放からしばらく経って、ようやく落ち着いた。

 しかし、このままでいいのだろうか・・・・・・。


「リーダー、スケルトンの肋骨だ、そこそこ高く売れるぞ」


 スレイは今回手に入ったアイテムを整理していた。だが、沢山ある中から選りすぐった獲物でさえ、正直に言って大したレアものではない。

 俺は2人に分かるように舌打ちをする。


「ケインがいた時は、こんなもんじゃ無かったよな」


 2人が俯く。

 気分は不漁の漁師気分だ、今までならレアな物がバンバン手に入ってたのによ。

 おそらく、ケインのスキルに、「魔物がレアなものを落としやすい」みたいなスキルでもあったんだろうよ。

 それに……。


「それに……それに。俺たちのレベルも、全く上がって無いよな」


 俺たちのレベルは全く上がっていなかった。それもそうだ、下層の強いモンスターほど、経験値も高い。

 こんな浅いところで戦ったところで、強くはなれない。

 ケインと戦ってた時は補助魔法をかけてもらいながら、本来見合わない下層まで行って、恐らくあったであろう経験値を増加させるスキルも合わせて経験値もジャブジャブ貰っていた。

 

 その上、そのタイミングでも、俺たちにはまだ伸び代があった。

 つまり、レベルが本来の階層に見合ったところまで上がっていなかったということだ。

 そこからケインの補助がなくなったのだから、30階くらいで苦戦するのは目に見える結果だった。

 


「久しぶりに、ケインと話してみるか?」


 この程度で久しぶりとは、元カレと別れた哀れな女と変わらない。

 自分自身が本当に情けなくて悔しい。俺はアイツへの依存から脱却しないといけないってのに。


「でも、何を話すの?」


「近況報告だよ」


「いいんじゃないか? ちょっと待っててくれ」


 そういえば、スレイが持ってる魔石、一体どこから手に入れてんだ? 中には聞いたこともないやつがあったりするし。

 サウスドレシアに潜ってる時、時間確認するのもあの魔石だ。


「ほら、繋がったぞ」


 すぐさまスレイから魔石を受け取る。

 まあ、そんな細かいことどうでもいい、ある物は使う、それが俺の信条だからな。


「そろそろかけてくる頃かと思っていた」


 これは読心術によるものなのか、それともケインの直感によるものか。どちらにせよ、心の中を見透かされているような気がして、理不尽にも腹が立つ。


「相変わらず癪に触る言い方しか出来ねぇ奴だ」


「どんな感じだ? フラフラ」


 は? フラフラ?

 何だフラフラって、俺たちが全く勝てずにフラフラになってるって言いたいのか? 流石の俺も怒るぞ?


「あぁ、フラワーフラグメンツだろ? 略してフラフラだ」


「略すな!」


 略すとダサくなるのは見えていなかった。いや、FFと略せばカッコいいかもしれない。

 いやいや、そんなことはどうでもいい。大切なのはチームの名前なんかじゃない。また俺が読心術で読まれて、新しいチームを結成した事が伝わっててもどうでもいい。


「まぁ、いいだろ? これくらい」


「本題に戻すがな、そっちはどうなんだよ。俺たちがいなくなって困ってないのか」


 無理があるが、皮肉ってみせる。ケインからすれば自分の元を去った飼い犬が飢えて出てきたようなものだろうから、滑稽にも程がある。


「あー。そうだな、いい感じだ」


「なに言い淀んでるんだよ。図星か?」


「いや、逆というかな、お前たち・・・・・・いや、お前より素直だし、しっかり動くしって感じだな。全く、お前が傷つくと思って言わないでおいたのに」


 そもそも、このパーティーのリーダーは俺だ。何も喋らないようなヤツが何を言ってるんだ。もっと俺に意見していれば、こんなことにはならなかったかもしれないんだぞ。

 だが、ケインには少なくとも、今なら話すだけの余裕があるようだ。その方が好都合だ。


「ペラペラしゃべってんじゃねぇ」


「そういえばだ、俺たちのパーティーでサウスドレシアは最下層まで行ったぞ」


・・・・・・。おいおいおい。


「冗談よせって、つまらねぇぞ」


「いや、本当だ、確か地下120階ほど、特にボスとかも無しに最下層までたどり着いた」


 ハッタリにしては出来た話だ、それに嘘をつく意味もないようなこのタイミング、きっと本当なんだろう。


「本当かよ」


「あぁ、勇者パーティーっていう縛りから抜け出せて、のびのびとやってるよ」


 はぁ? コイツ、俺たちといた時は本気じゃなかったってことかよ。

 いや、まあ自分の力に気づいていなかったのなら仕方ないか? いや、自分の力を理解する点でも、それを怠っていたんだ。擁護の余地はない。


「まあ、こっちはそんな感じだ。お前たちのことも一応把握してるが・・・・・・」


「それとも、どうだ? 自分から言うか?」


 ケインのヤツ、舐め腐ってやがる。

 その魂胆はシンプルなものだ、ケインがいなくなって崩れ始めているこの現状を自分で言わせることで、屈辱感を与えようってんだ。

 あぁ、言ってやるさ。


「俺たちは今、31階で修行している……」


「あぁ・・・・・・そうだな、俺無しでよくやってると思う」


 悔しいが、ケインの言う通りだ。何も言い返せない。


「お前にアドバイスする」


「アドバイス? そんなもので強くなれやしないだろうよ」


「まあ聞け、お前は数日前、新チーム結成の時なんて言った」


 この際、思考を読まれていたことはもうどうでもいい。新チーム結成の時、か。正直勢いでの演説だったから詳しくは覚えていないが・・・・・・。


「俺たちの戦いはこれからだ、ってか」


「それはお前が心の中で思ったことだろ、正解は『ケインというターニングポイントを超えて、俺たちはさらに強くなる!ケインに頼って慢心していた『ブレイブソウルズ』はもう終わりだ!』だ」


 お前ホント気持ち悪いな。俺自身も全く覚えてないぞ。それを恐らく一言一句間違わずに言うとは。なんだかんだ言って俺のこと好きなんじゃないのか。

 まあ、男に好かれた所でなんにもならないがな。ハッ。


「相変わらず、俺に未練タラタラで文句言ってばかりじゃないか、全く、成長の"せ"の字も見えない」


 上から目線が気に食わない。だが、全くもってそのとおりだ。それでも、俺も反論してみる。


「お前は綺麗事を"強いから"言えるんだ。俺たちの気持ちなんて分からないだろ」


「そうだな、俺はこの世界、世間一般じゃ最強の部類だ」


 腹立たしいことに、この言葉は本当だから、なんなら謙遜されたほうが失礼だ。ちゃんと言ってくれた方が分かりやすい。


「自分で言うなよ」


「だからな、どうあがいても最強の立場からしか話せないんだ、それを分かってくれ」


 それもそうだ、ろうか・・・・・・?

 ケインもケインなりに、何かあるのか、そう思わせる言いぶりだった


「じゃあ最後に、強くなるためにどうすれば良いか、教えてやる。旅に出ることだ」


「旅?」


「俺がいなくなってから、同じところにばっか居座ってるが、そういうのは未熟なやつがやることだ」


「多方面に喧嘩売る言い方だな」


「俺といたんだ、フラフラは十分強いさ、目的の魔王退治目指して頑張れ」


 魔王退治・・・・・・そういえば俺たちの最終目標はそうだったな。使命だし

 ん?


「慰めてもらってる最中申し訳ないけどよ、お前らは何を目的にして、どこへ行くつもりなんだ?」


「そうだな、サウスドレシアが大したことないのも分かったし、のんびりと生きるとするか」


「最強が出張らないで、全く、人任せなヤツだな」


「力を持つ人間は指図する権利、その他諸々の権利があるからな、ま、せいぜい頑張れ」


 魔石の反応が途切れた。

 最後までいけ好かないヤツだ。まあ、その通りなんだが。

 俺が頭の中で整理していると、ルシアが話しかけてきた。


「あのー置いてけぼりなんですけどー」


 そうだったな、ケインとの会話に集中してて、全く気にかけていなかった。


 はぁーぁー・・・・・・。


 あーーーぁ・・・・・・。


「どうしたんだ? 大きなため息ついて」


 スレイが首を傾げる。


「またケインに指図されたんだよ、全く、あいつの手のひらで踊らせられてる感じで嫌なんだがな」


「この町を出て、どこか遠くへ旅に出る」


 俺は言った。マンネリ気味の新しい日常を変えたいって気持ちも少なからずあったからだ。


「おぉ、ようやく決心したか」


 ルシアも頷く。


「あ?」


 なんの事だ?


「リーダーが再始動を決心した時の元気が最近無かったからな。何か足りないとは思っていたが」


「刺激が無かったんだと思う。同じところばっかじゃ短気なレイズには合わないんじゃ無いかなって」


 そうか。

 俺自身じゃ気づかなかったが、こいつらには分かっていたらしい。


「旅、いいじゃん! 頑張ろうよ、私たちなら遠くまで行けるよ!」


 遠くか。

 もし、この会話が昼間の原っぱなら、俺は空を見上げて、自分の知らない遠くを想像していただろう。

 部屋の中じゃ締まんない気がするが、まあいい。


「じゃ、それで決定でいいな?」


「ああ」


「うん!」


「じゃあ、準備しておけよー」


 なんだか疲れた、前のやる気はどこに行ったんだかな。

 フッ・・・・・・。

 まあ、旅に出れば嫌でも本調子になるだろう。

 そう考えると、なんだか明日が楽しみになってきた。


「それじゃあ、俺は寝る。お前らも、明日に備えて準備なり寝るなりしておけよ」


「了解」


「はぁーい」


 ルシアも眠そうだ。

 スレイはいつも通りだが、疲れてるに違いない、いわゆるポーカーフェイスってヤツだろう。

 俺は早速私室に戻った・・・・・・。

 早速ベッドに横たわる。


 ふわぁ〜ぁ・・・・・・。


 そのまま、俺は眠りに──。


「やっぱり! お兄ちゃんだ!!」


 !?!?!?

 眠気が一瞬にして吹き飛んだ。

 なんだ! いきなり!? 俺の部屋に誰かいたのか!?


「わーいっ!!」


 急にとびかかってきた!

 そのまま俺に抱きついている。


「いきなりいなくなって! 心配してたんだよー! お母さんにお部屋にいなさいって言われてたからずっと会えなくて! 時々部屋を抜け出してたんだけどね? 夜しか隠れて出れなくてね? でもラッキー!! ようやく見つけた! やったやったぁーー!!」


 あまり驚いたものだから、言葉が頭に入ってこない。

 だが、何度も"この子"が口にしている言葉に違和感を覚えた。


「落ち着け」


「ごめんね! 夜だもんね! 静かにしなきゃね!」


 部屋に忍び込んだのは、無害なのに免じて不問にしよう。

 だが・・・・・・。


「お兄ちゃん〜んん〜」


「とりあえず、落ち着いて聞け」


「なーに?」


 ・・・・・・。


「俺に妹はいない、生まれつき、今までずっと一人っ子だ」


「え?」


 驚いた様子を見る限り、演技ではないように見える。


「お前は、だれだ」

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