第10話 「門の鍵」 God Book


 俺たちは今、国立図書館に来ている。

 ケインの言ったタイトルの本、

「国と蛙と王様と」

これには一体何が書かれているというのだろうか。


「ここに来るのは初めてだよね?」


 ルシアの言う通り、俺含めて、ブレイブソウルズはこの図書館には来たことがなかった。

 俺たちは昔から自己流で戦ってきた。他の人を参考にしたりはしない。いつだって自分自身の知恵で切り抜けてきたんだ。


「ほら! 入るぞ!」


 俺たちは図書館に足を踏み込む。

 と、思ったが、入る前に司書らしき男に止められた。


「申し訳ありません、勇者様はこちらに立ち入ることは出来ません。どうかご理解ください・・・・・・」


 勇者は入ることが出来ないってそんなめちゃくちゃな話あるか?

 なんでそんな決まりがあるんだよ。と思いながらも、今まで利用したことが無かったことと、やっぱり何かが重なる気がする。


「そういえば・・・・・・」


 ルシアが耳打ちする。


「勇者の決まりの一つにあった気がしてきた・・・・・・国立図書館に立ち寄るなって」


 だが、一般的に考えれば、勇者こそ図書館には寄るべきなんじゃないのか? 俺たちだから入らなかったものの、情報を集めるのに適した場所だろ。


「どうしても入ることは出来ないのか?」


「はい」


 スレイに対して淡白な返事をする司書。

 相変わらず、この国は融通が利かない奴らばかりだ。


「理由を教えてくれ、俺たちにはそれなりの用事がある、魔王退治に大事なことかもしれないんだ」


 聞かないと気が済まない。

 流石に用件が用件だ。特例を認めて貰わなくては俺も引き下がれない。


「申し訳ありません、どうかご理解ください」


「勇者が入れないのはもしかして神のご啓示とか言うんじゃないだろうな?」


「申し訳ありません、どうかご理解ください」


 正にオウム返しというような反応しか示さない。

 イライラしてくる。これ以上は無駄だろう、他の方法を探す。


「もういい! 帰るぞ」


「申し訳ありません」


 ウガーー!! 心の中で叫びたくなった。いや、叫んだ。

 俺たちは図書館を後にした。


 まだ昼時、俺たちは帰り道を歩いていた。


「さて、俺の考えた作戦だが」


 ここで引くわけにはいかない。


「一般市民を利用して、なんとか本を借り出してきてもらう他ねぇ」


「利用してって言い方は悪いけど、確かに、それしかないね」


 同意も得た。

 とりあえず、近くを歩いていたヤツに声をかけた。


「おい、そこの」


「あ、はい! なんでしょうか勇者様!」


「お前に頼みたいことがある、図書館で借りてきて欲しい本があるんだが」


「了解致しました! ご協力させて頂きます!」


 扱いやすいヤツでよかった。こういう時、勇者というのは便利だ。

 元々、勇者という立場も、魔王退治活動に役立てるために出来たのかもしれない。あえて勇者という偶像を作り出すことで、人々からの支持を得て、援助してもらうために。


「『国と蛙と王様と』ってタイトルの本だ、頼んだぞ」


「分かりました!!」


 そう返事するなり、走っていった。

 俺たちも図書館の前に移動した。

 やはり、一般人なら入れるようだ、問題なく入っていった。


 しばらくして──。

 お、出てきた出てきた、

 だが、本を持っているようには見えない。


「も、申し訳ありません! 見つけることが出来ませんでした!」


 かーーっ! やっぱこうなるかよ!


「司書の方にも聞いてみましたが、そのタイトルの本はないと……」


 司書は信用ないが、一般人に嘘をつく理由もない。

 ケインの口からでまかせだったのか? だが、ケインがそんな無駄な事を言うだろうか。


「まあいい、帰っていいぞ」


「ありがとう、助かった」


「お、恐れ入ります!!」


 俺たち2人の言葉を聞くなり、走っていってしまった。

 アイツ、節操ねえな。


 ケッ・・・・・・。

 最近頭使うことばかりだ、アイツを追放してから厄介なこととか、謎だとか・・・・・・。


「ケインに聞くか」


 わざわざああいうことを言ったってことは、少しは手伝ってくれるだろう。

 スレイに魔石を取り出してもらった。

 ピッ・・・・・・。


「さて、出るか? ケインのヤツ」


・・・・・・。


「どうした、ブレイブソウルズ」


「あっ! 出た!」


「おいケイン!」


 俺は急いで聞く。


「お前の言った本を探そうとしたが、国立図書館には入れなかった、どうすりゃいいんだ!」


「どうやってって、隠密スキルを使えばいいだろ」


 うわでた・・・・・・。というか、忍び込んだのか? それって勇者としてどうなんだ。と思いつつも、勇者として──なんて道徳的なこと、俺は気にしたことないが。


「持ってねぇよ俺らはよ! 同じチームだったら把握しとけよ!!」


 そういや、ケインは俺たちがスキルを隠してると思っていたんだったっけか、にしてもだが。

 前提的な知識、そこは読心術でも分からないのだろうか。


「そうか・・・・・・」


ケイン・・・・・・いい加減にしろよ・・・・・・。


「残念だが、俺の隠密スキルは他のやつに使うことは出来ない。本の件はしばらく忘れてくれ」


「ほーー! いくら万能のお前でもそんなことも出来ないんだな!」


「俺は全知全能じゃない、出来ないことだってある」


 十分全知全能だろうが! 逆に出来ないことの方が少ない、そんなやつだろうが!

 はぁ、自分で言って虚しくなってきた。


「すまなかったな、切るぞ」


「へいへい」


 俺の生返事に反応はせず、そのまま切った。


「これからどうする、リーダー?」


「最近は頭使い過ぎた、久しぶりに体動かすぞ」


「ってことは?」


「ああ、レベル上げだ」


「俺たちも原点に戻るって訳だな」


 俺のレベルは53、スレイは48でルシアは49だ。


「俺たちはまだスキルを全く覚えていない! レベルをあげて、スキルを増やすんだ!」


 そうだ、俺たちだってまだまだ強くなる。

 俺たちはケインを追放した。

 確かに俺たちは弱体化した。

 だが、縮んだバネが勢いよく元に戻るように、俺たちは必ず、最強に返り咲く


「俺たちはケインを超える、もちろん、俺たちが勇者なのは魔王を倒すためだ、だが! 目標は"ケインを倒す"にする!」


「う・・・・・・うん?」


「だから、俺たちは再び初心に戻って、再出発だ!」


 頭を無駄に使って悩むのはもう終わりだ。


「ケインというターニングポイントを超えて、俺たちはさらに強くなる! ケインに頼って慢心していた『ブレイブソウルズ』はもう終わりだ!」


「と、なると遂にチーム名を変えるのか?」


 俺たちのチーム名、ブレイブソウルズは簡単に言えばデフォルト名だ。

 俺たちはチーム名を変える権利を一度だけ与えられていた。


「ああ、そうだな・・・・・・。返り咲くって感じと、成長するってのも含め、花を名前に入れたいな、『ブロッサムグレート』なんてどうだ!」


──・・・・・・。


「「ビミョーー!!」」


 はぁー? 完璧だろ!


「ああ!? じゃあもっといい名前考えろよ!」


「ただ、花を名前に入れるのは賛成だ、『ストーンブロッサム』ってのはどうだ?」


「おいおい、無理に石が好きです──みたいなアピールは良いっての・・・・・・」


「じゃあ、フラワーを使う? 『フラワーフラグメンツ』とか!」


「花のかけら・・・・・・か?」


 スレイが訳す。


「な、中々良い名前じゃないか?俺に勝るとも劣らず・・・・・・」


「圧勝だと思うが」


 いや、圧勝ということはないだろ! 第一、俺の発案した名前だって──。


「ケインが欠けて、不完全になったパーティーだけど、そのかけらを求めて、もっと貪欲に強くなるっ! って意味を込めたの!」


「ちゃんと意味もあるな」


「お、俺だって、花の、素晴らしさを・・・・・・」


「取り敢えず、役所に行って登録するぞ」


 全く、話を聞かない奴らだ。

 というか、俺のカッコいい演説も改名に持っていかれたんだが?

 まあいい、フラワーフラグメンツか、なんだかいい響きだ、フラで韻も踏んでるのか?


 よし、俺たちは再出発する、そしてそのために、一度原点に戻る。

 俺たちの戦いはこれからだ!

 そう思った途端、スレイが俺に魔石を渡した。


「リーダー、ケインから連絡だ」


「あ? またかけてきたのか」


 また何か指図するんじゃないだろうな。


「なんだ?」


「お前・・・・・・その台詞は危険だぞ・・・・・・」プツッ──。


・・・・・・・・・・・・。


アイツ、気持ち悪いな・・・・・・。




   第一部 ready to start 完




────・・・・・・・・・・・・。


──・・・・・・。


・・・・・・。


「ふーん、フラワーフラグメンツ、ねぇ」


"カレ"は呟く。


「かけらを求めて、か」


「例えるなら対象aっていったところかな」


「さて、原点に戻ると言ってるし、"こっち"に来るのはかなり遅くなりそうだ」


"カレ"は今も、何処かで・・・・・・。


「待ってるよ、"フラワーフラグメンツ"」

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