第7話 「初戦の準備」 First Contact 前編
「さて、俺たちはこれから何すりゃいいんだか」
正直、この国のパーティーはどこも低レベルなもんで、俺たちは戦力が削がれた状態でも一番の実力の持ち主であることは変わらない。
なら一応変わらずこの街に奉仕の気持ちを持って、クエストにでも挑戦するべきか。ただ、それだけが目的ではない。
「とりあえず、自分自身の力が足りなくなった今、鍛錬に励むしかないな。なら何をすべきか、分かるな?」
「クエストか、よし、掲示板でも見に行くか」
流石だ。こんなにも分かりにくい言い回しで伝わるとは、やはりパーティーというのは良いものだ。
さて、ここで少し振り返ろう。街一番(ちょっと前まで無敵)の俺たちがなぜ魔王退治にさっさと行かないのか、それは魔王城に封印がかけられているからだ。
その解き方はまだ分かっていないし、学者によれば強行突破も出来ないそうで。
そして、クエスト受注はこの場所、お堅い役所だ。
俺たちが産まれるくらいまで、居酒屋かどっかに置かれていたなんて聞くが、いまは無機質な、この役所で可能だ。
「あぁ、勇者様が来られたぞ!」
役所に着くたび、皆が頭を下げる。これも変わらないいつもの光景だ。ケインが抜けてからもそれは変わらない。
だが、それでもやっぱり過剰な反応だとは思う。
「頭なんて下げなくてもいい、クエストを受けにきただけだ」
勇者のめんどくさいところだ、国民は俺たちを神だとでも思っているのか。
実際はただの一般市民だ、なんの能力も持っていないし、なんなら他の人と違ってスキルを覚えていない。
「寛大なご配慮に感謝致します! 誠に多大なる感謝を示させていただきます!!」
敬語間違ってんじゃねぇのか。
よし、落ち着け、鍛錬より、先に知りたいことがあった。
「さてと、何がこの中で一番難しい」
「おい・・・・・・」
スレイが耳打ちする。
なんとなく言われる事は分かる。だが、そんな俺とは違い、流石にスレイには、さっきのように以心伝心で伝わらないか。
「まだ懲りてないのかリーダー、ケインがいない今、俺たちはどれだけ弱くなったか未だに把握しきれてないんだぞ」
「申し訳ございません! 本日の最難関クエストは既に受注されております!」
「なに? 俺たちの獲物を横取りとは、流石じゃないか、どのパーティーだ?」
ビンゴ、だな。
に、しても我ながら大根役者だ、勇者フィルターのかかった国民を騙すには十分だが。
「こちらでございます」
「え、もしかして?」
「流石だなリーダー」
そう、俺が確認したかったのは、ケインの居場所だ。おそらくケインは新しいパーティーの力試しとして、最高難易度のクエストを受注するだろうと読んでいた。
二人もなんとなくそれに気づき始めたようだ。よしよし、もっと褒めてくれても構わないぞ。
そして、問題のクエスト募集の紙、そこに書かれていた受注者は予想通り・・・・・・。
「そうか、先に受注したのなら仕方ない」
「全く、恐れ多いパーティーだ」
辺りがざわつく。クエストを横取りされた俺たちに畏怖の念を持っているのか、それとも名も知れないパーティーが生きて帰れるのかに興味を示しているのか。
どちらでも良い、一般市民が何を考えていたとしても、俺には関係のないことだ。
「すまないが今日は用事が出来た。また今度来たときの為に良いクエストを用意しておいてくれ」
「了解致しました」
それなりの社交辞令の意を示したところで、俺たちは建物を出た。
俺はこっそり拝借していた魔石をスレイに手渡し、経緯を伝え始めた。
「スレイ、お前の魔石を使ってみたが返答が無かった。気づかなかっただけか、手の内を知られまいと敢えて無視しているのか」
「魔石を使えば一件落着じゃないか。そう思っていたが、リーダーの方が一枚上手だったようだな」
さて、この魔石だが、言わずもがな通信魔石だ。スレイがケインに会ったあの後、手渡していたらしい。
スレイも割りと頭の切れるやつだ。抜け目がないと言ってもいいかもしれない。いつ話が出来るか分からないキーパーソンに連絡手段を用意しておくのは大事なことだ。
「さて、氷山のクリアドラゴン討伐だってよ。準備して早速行くぞ!」
「「了解!」」
早速宿に戻る。そして全員で身支度を行っていた。
「準備はしたか? 氷山だ、厚着持ってけ!」
さて、十分な道具は揃った。
氷山に行くのは実に簡単だ、馬車がなくとも共用ワープゾーンがある。ルシアが居れば問題ない。
「どうだルシア? まさか今の魔力が弱すぎて繋がらないなんて事はないよな?」
「追加効果が無くてもこの辺では最強なの、冗談で言ってるの?」
「冗談だろうな」
俺はさっきの役所で貰ったクエスト受注用紙を取り出し、眺めていた。
すると、ルシアが横から覗き込んで来て、軽く胸が当たる。
別にルシアに大して劣情を抱いているということはないのだが、やはりそこは異性ということで、少し気まずい。ルシアに紙を渡すと、ケインのチーム欄を読み始めた。
「ケインのチーム名・・・・・・イノセントダーク? 多分かっこいいけど、少し嫌な感じがするなぁ」
かっこいいと思って付けてんのか? 意味としては、罪のない闇って所だろうか。数年もすれば黒歴史になって、きっと後悔することになるだろう。
俺自身・・・・・・。痛いほど体感している。一度付けた名前は愛着が湧いて、どうも変えにくい。俺は自分の剣を見つめてそう思った。
「ったく、厨二臭い名前つけやがって」
「お前の剣技も人のこと言えないんじゃないか?」
やはり突っ込まれたか、俺の剣の名前レイズソードだって自分の名前をまんま付けてるんだからな。
勇者としての旅立ち、その日に渡されたこの剣は一級品だが、名前のせいで、少しチンケな剣に聞こえるかもしれない。もっとかっこいい、それこそレイジングソードとかにしたほうが良かったかもしれない。
そんなことを思ってる時点で、昔の俺と大差ないことを自覚して、やはり自分自身に恥ずかしさを覚える。
「俺のはガキの頃付けて、そのまま使ってるだけだ! カッコいいとは思ってねぇ!」
世紀の斬撃 《ジェネラルスラッシュ》
閃光の螺旋 《スパイラルフラッシュ》
最後の一撃 《ファイナルスマッシュ》
死にゆく者への鎮魂歌 《グレイテスト=レクイエム》
光り輝くトカゲ 《シャイニングリザード》
子供の頃の戦い遊びで生まれた数多くの必殺技は今でも遊び心として戦いに組み込んでいる。
「「はいはい」」
さて気を取り直して、行くぞ氷山! 待ってろケイン!
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