第8話 「新たな力」 First Contact 中編


 転移魔法で移動した俺たちは早速目的地まで移動していた。

 やはり冷える。モンスターの毛皮で作られたこのコートが無ければどうやっても耐えられない寒さだ・・・・・・。


「ケインのチーム・・・・・・イノセントダークはどれほど強いんだろな」


「ケインのスキルが物凄い量だったことを考えると、凄く強いんだろうね」


 凄いしか言えんのか。

 まあ、凄いとしか言いようがないヤツだってのは承知している。底が知れない。

 俺たちといた時は気づいていなかったにしろ、爪を隠してたってか。脳ある鷹は爪を隠す、ハッ・・・・・・。


「だが、俺たちはケイン無しでも国一番の実力者なんだ、誰がチームに居ても俺たちには及ばないだろうよ」


 にしても、あの変な猫とシスターと気持ち悪い喋り方のやつら・・・・・・。まずろくな連中じゃないことは確かだろう。

 なんであんな奴らが急に集められたんだか。訳の分からない事だらけだ。


「ほらもうすぐ着くぞ、バレないように隠れろ」


「分かった・・・・・・」


 コソコソ・・・・・・。


 俺たちが凍った岩陰に隠れたその時、ドラゴンの咆哮が聞こえた、恐らくアイツ等が戦闘を始めたのだろう。

 岩陰に隠れながらこっそりと様子を見た。相変わらずルシアが俺の後ろにピッタリくっついていた。スレイは少し離れた場所にいて、心なしか寂しそうだ。


「ミル、お前一人で十分だ、行ってこい」


 また、知らない獣人が出やがった。昨日はいなかった犬型の獣人だ。まさかアイツの趣味なのか? チームを出たがってたのはそういうことなのか? な訳ないか。

 いや、割と否定できないことなのかもしれないが。


「はいぃぃ! がんばりますぅ!」


 槍を構える。武器は槍か。とても美しかい、見たことのない色の宝石で装飾され。穂も透き通っている。

 恐らく、レア度もSかそれ以上だろう。

 どう見ても戦闘慣れしていなさそうな獣人が持つ武器にしては質が良すぎる。

 ケインのやつ、隠し持ってやがったのか?アレはどう見ても市販されているような代物ではない。


「えと・・・・・・ギュアラストパニッシュ!」


 おいおい、技名を言う時はもっと自信をもって言うべきだぞ。と、先輩としてのアドバイスが浮かんできた次の瞬間。

 耳鳴りがした。


 空気が震え、共振を繰り返し、その勢いは増していく。

 そして、槍は凄まじい量の魔力を膨張させ、辺りの雪や川の水を吸収し始めた。


「おっと・・・・・・」


 俺たちが隠れていた岩も例外ではなく、徐々に凍っていた部分が本来の黒い岩肌を見せ始めた。

 そして、ドラゴンがこちらに向かって飛んできた所に、

 その獣人は突進した。

 槍は魔力を展開し、彼女を包み込み、一つとなる。

 そして、その一撃はドラゴンを貫いた。


 グガァァァァァアアア!!!!


 ドラゴンは飛んだ勢いのまま、雪をかき分け、地面を抉り、そのまま倒れた。


「は、はぁあ・・・・・・?」


 すっかり魅入られていたが、現実が頭の中に入り込んできた。

 あのオドオドした獣人が、あの・・・・・・クリアドラゴンを一撃で・・・・・・?


「まあ、こんなものだろう」


「凄いにゃご主人様!」


 あの猫娘もいる。あの時に感じた強さの鱗片、確かなはずではあるのだが、そんな彼女ですらケインにはあんな態度を見せる。

 ケインの真っ黒な底が、さらに奥深く根付いていく。


「うん・・・・・・力が湧いてきて・・・・・・とても凄かったです!」


「この補助魔法、やはりケイン殿はチート!! うおぉーー!!」


 オタクは相変わらず五月蝿い。なんであんなのがチームに入っているんだろうか、あの猫娘以外、大した戦闘スキルはないように見える。一体どういった経緯でパーティーを結成したのか。


「さすがケイン様、惚れ惚れしてしまいます」


 ・・・・・・謎はさておき、やっぱり羨ましいなぁ・・・・・・。


「鼻の下伸ばすな! レイズッ!」


 ゴテッ!

 またしてもルシアに殴られた。痛い。


「ルシアという可愛い子がいながら、リーダー・・・・・・」


「俺が浮気してるみてぇじゃねえか!」


「「うん」」


 いつから俺はルシアの彼氏になったよ!? 相変わらずノリの良い奴らめ・・・・・・。


「お前らァーー!!」


「そろそろ出てきたらどうだ、ブレイブソウルズ」


 ゲッ! 声を出し過ぎた!


「さっきからそっちの反応がビンビン来ててな、集中出来ないったらありゃしない」


 集中出来てないのにあの威力かよ!

 おそらくあの犬娘の力はケインの補助魔法が5割だ。

 残りの5割があの槍だとして、ケインが集中出来ずにあの攻撃が繰り出された100%の攻撃は、一体どんなものになるのだろうか。


「ケッ! バレたんなら仕方ない」


「いつから分かってたの?」


「お前たちが氷山にワープした時からだ、魔力の流れを察知した」


 コイツ・・・・・・もうさぁ・・・・・・。

 チートとかそういうの超えてもはや神に近しい存在なんじゃないのか? ダルカリアってのはケインが神格化されたものとか・・・・・・。まあそんな訳はないか。


「で、何が目的だ、不意打ちでもしに来たのか」


「違うの! お話ししたかったから!」


 あぁ、そうだ、お話だ。


「話? 俺をパーティーに呼び戻したいと?」


「んなこと言ってねぇだろ! それにその話は昨日ついた!」


 本当はまだ諦めていない。仮にダメだとしてもケインの強さの秘密やパーティーについて。聞きたいことはたっぷりある、どうしても絶縁されるわけにはいかない


「じゃあ何の話だ」


「お前が勇者をやめて、新しい勇者が生まれた! 勇者ってのは全く得体の知らないものだ、俺たちと協力して真相を暴くんだよ!」


 これは半分内心だ、勇者の謎は深まるばかり・・・・・・。

 あの街の裏には大きな力が渦巻いているんじゃないかと睨んでいる。もしこの交渉が上手くいけば正に一石二鳥、完璧な作戦だ。


「ふーん、お前たちと組めと?」


「ああ、そうだ! 俺たちだっていい戦力になる、お前にデメリットはなにも無いはずだ!」


 あんな能力を持った奴に勝てるわけが無い・・・・・・敵にはしたくない・・・・・・。


「お前、嘘をついてるだろ?」


 ギクッ。得体の知れないコイツのスキル・・・・・・嘘を見破る能力が付いていてもおかしくないが・・・・・・。まさか本当に?


「それもお前のスキルか!」


「ああ、読心術。嘘どころか、なにを考えているかも全てお見通しだ」


「なに!?」


「『クソッ! 今俺が考えていることも全部読まれてるのかよっ!ふざけんな・・・・・・』そうだろ?」


「頭がおかしくなる!それをやめろ!」


「『嘘だろ、信じられない。まさかこんなスキルを隠しもってたなんてよ・・・・・・。ダメだ、どうしたらいいんだ』か。すまないな、俺自身も、仮に能力を理解出来ていたなら既に伝えていた。もう、手遅れだ」


「だから! やめろって!」


「仕方ない」


 能力のお披露目に隠れて、少しケインの本音が聞けた気がした。

 手遅れか、それは俺が一番理解しているさ・・・・・・。

 と、ケインが俺を見て少し頷いたように見えた。今も心を読んでいるのだろうか。


「ちょっと、それってあの時から今まで、私の考えてたことも全部読んでたって事なの?」


「安心しろ、俺が読んでいるのはレイズだけだ」


 だから昔から何を言っても驚かないし、つまらなそうにしてるのかよ・・・・・・。って、なんで俺だけなんだよ!


「まあ、仕方ない。お前は別に読まれたって嫌なこととか無さそうだしな」


 あるわっ! クッソ・・・・・・。

 俺のプライベートだってな・・・・・・。そう考えていると、またもやケインがこちらを見て眉を潜める。

 ケインが心を読んでると気づいてから、アイツのやることなすことが気持ち悪い。


「流石、必要最低限の力を行使する・・・・・・。紳士なのですね、ケイン様・・・・・・」


 取り巻きうっぜ、やっぱりコイツら洗脳されてんじゃないのか?


「失礼なことを考えるな」


 あがぁ!!! イライラする!!!

 イライラと言うより、何を考えても見透かされるということの気持ち悪さが俺の全身に纏わり付く感じが極めて不愉快だ。


「で、言いたいことはそれだけか」


「返事を聞いてないぞ!」


「ああ、そうだったな、答えは……NOだ」


 だろうな、すべて見透かされてんじゃ。無理もないことだ。


「じゃあな、さあ、飛ぶぞ、寄れ」


 飛ぶだと? 相変わらずなんでもアリだなお前はよ! だが、逃さないぞ!


「ちょっと待て! なら俺たちと戦え!」


 ふざけるな、俺たちより弱い連中を引き連れてどこへ行こうってんだ。俺たちの強さを証明するチャンスじゃないか。逆転もありえるぜ。


「ほお?」


「だが、お前の補助は無しだ。お前の強さは十分に分かった」


 そう、このハンデがなくては意味がない、なんせ俺が今証明したいのは、あんな女達より、俺たちの方がよっぽど強く、役に立つということだ。


 悔しいが、このハンデは勝つために必要だろう。なんせ、あのクリアドラゴンを一撃だ。

 クリアドラゴンがあまりにも呆気なく倒されたので錯覚に陥りそうだが、クリアドラゴンは魔王の幹部が引き連れるレベルの魔物だ。

 俺たちだって、かなり消耗して、ギリギリ倒せるレベルだ。そう考えるとケインのヤツ、俺たちの時は本気の百分の一も出してなかったんじゃないだろうか。


「ハンデとしては十分だ、妥当な判断だろう」


「えー、働きたくないでござるぅ〜」


「私は賛成です、それで気が済むのならば」


「そうにゃねー、ここは一つ、バトっちゃうのにゃ!」


「がんばります!」


 割と仲のいい連中だ、これなら倒しがい、潰しがいがあるってもんだぜ。

 歪んだ笑みをついこぼしてしまう。ルシアが不気味がっている。


「俺の仲間はやる気らしい、いいだろう、受けて立つ」


「ファッ!? 私の意見は何処へー!」


「よし、いいんだな、それじゃあ戦おう」


 相手は女だが、容赦はしない。

 俺たちは強さを証明し、弱体化して負グセのついたこの悪い流れを取り戻さないといけないんだ・・・・・・。


「勝負だケイン! 小細工無しの真剣勝負!」


 例え相手が弱かろうと、徹底的に叩き潰されなければいけない。

 今の俺たちに余裕は無い。


「かかってこい」


 ブレイブソウルズ、イノセントダーク。

 刃を交えた、ファーストコンタクト。

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