第6話 「勇者の器」 Essential Trust
「勇者が生まれたって、どういうことだよ!」
勇者が生まれた? そもそも勇者ってのは俺たち4人のことだけを言うんじゃないのか?
このことを考えるに、勇者というのは常に4人になるように調整されているのだろうか。先代の勇者がいたという話は聞いたことがないから、次が二代目になるってことか。
「言葉の通りでございます。勇者はこちらにおられます」
「え!? いるの!? ここに!?」
俺たちの生まれを考えるに、赤ん坊でもいるのだろうか。
「はい、あなた方が此処へ来られると見越し、待機させております」
そして神父が席の方に手を向ける。てっきり礼拝に来た一般人かと思っていたが、どうやら俺たちと同じ、勇者らしい。
少なくとも赤ん坊ではない。
「はじめまして、僕が新しい勇者です」
初々しい様子とは裏腹に体つきもしっかりしている。身長も俺と同じくらいだ。
なんだか中身と外見が一致しない、少々不気味なやつだ。同じ勇者と聞くと、少し嫌悪感がある。
「あまり歳が変わらないように見えるが、何歳なんだよ」
「17歳です」
17、俺が勇者として旅を始めたのも17歳だった。ここでの勇者の誕生というのは、旅を始めることを言うのだろう。
「なんで、急に勇者になったんだ・・・・・・」
「勇者の謎が深まったな」
いや、俺には謎が深まったというより、全く訳の分からなかった勇者のことについて、少し理解が進んだように思えて、少し高揚している。
せっかくのチャンスだ、勇者についてさらに聞くべきだろう。
「おい! 勇者ってなんなんだよ! 生まれつき決められてるもんじゃねえのか!」
「私からは答えかねます。神からのご啓示でございますので」
何が神だよ! 神っていったら、ダルカリア様ってところか? ったく、これだから宗教ってのは厄介だ。
落ち着け、平常心を失っては聞くことも聞けない──。
「で、これからコイツと一緒に戦えと?」
正直、俺たちとは合わない気がするのだが。でも一人欠けた状態よりは幾分かマシかもしれない。
「いえ、そちらの勇者様は戦えません」
戦わない勇者のどこが勇者だオラ!! と思わず口に出したくなってしまった。
俺たちは無理やり戦いに繰り出されて厄介だってのに、戦いにも出ずに勇者扱いされるのかよ。なんだか扱いに差が無いか?
「そちらの勇者様はまだ戦える状態にないのでございます。いわば待機状態です」
「じゃあ、いつ戦うんだ」
「それは全てが無に帰す時。一年後かもしれない、50年後かもしれない、はたまた100年。戦わないかもしれない、明日から戦うかもしれない」
一種の伝説のような語り口調で話し始める。勇者の扱いについては知っているはずだ。それでも分かりやすく伝えずこんな回りくどい言い方をするということは、やはり俺たちに何かを隠しているのだろう。
それとも、神父として、神からの啓示を受け、従っているだけなのか? いや、そんなはずはない。そんな神は・・・・・・いない。
「簡潔に説明しろ」
「勇者の掟、それは・・・・・・この大陸、そして、勇者自身を守る。とだけ」
なんの説明にもなっていない。要するに俺たちには知る権利がないということか。
少し、言いたいことは分かる。敢えて厄介な事は言わずに、混乱することを防いでいるのだろう。
世の中は、秘匿された事象や真実で溢れかえっている。しかし、その中で生きていけることこそ、本当の幸せなのかもしれない。
「俺たちのパーティーの掟、勇者パーティーは勇者のみで組まなければならない。これは何かのヒントなのか?」
「少し脅しすぎたかもしれません。堪忍くださいませ、それほど深く考えらなさいでください。いつも通りで・・・・・・」
どうしてもこちらの質問には答えないつもりのようだ。
なら、最後は簡潔に、フワッとした質問で終わらせるべきだ。
「神父サマはどこまで知ってるんでしょーか?」
「いえいえ、私は何も。全ては神のご啓示でございます」
そうか。どうやら、これ以上聞いても無意味だな。俺たちは知るべきじゃないってことらしい。
神父と新人勇者はしっかりとこちらを見ている。その様子は、嘘をついてるようにも、俺たちを陥れようとしているようにも見えない。それでも、やはり気になる事づくめだ。
「わーったよ。お前じゃ分からないんだろ? じゃあ何か分かったらすぐに伝えろよ。なんといっても、俺たちは勇者だ。知る権利がある」
「当然、近いうちに勇者様には詳細を伝えさせていただきます。しかし、それは、私の口から言えることではありません」
近いうちにと断言した。
信頼はしているが、やはり胡散臭さが残る。
「なんだよ、やっぱなにかしら訳アリなのか?」
「・・・・・・。神のご啓示でございます」
はぁ。そうかよ。
「でも、きっといつか分かるはずだよ。今がその時じゃないってだけなんじゃないかな?」
「ああ、そうだな。のんびりと待とうじゃないか」
スレイはのんびりと待とうと言うが、魔王軍がいつ本格的に動き出すか分からない今、あまり悠長にはしていられないのかもしれない。
だが、それでもやはり、果報は寝て待てという言葉があるように、他の事をしっかりとこなしていくべきだろう。
「じゃあな! また来るからな! とびきりのネタでも準備して待っとけ!」
神父は手を振って俺たちを見送る。
それを見て、新人勇者も俺たちに手を振る。俺はその二人を背に外に向かって歩き出していた。
「勇者って、思ったより口が悪いんですね」
おい、聞こえてるぞ。
「勇者が、というわけではありませんよ。ただ、"今"の勇者様があの方である。それだけです」
──・・・・・・。
今の・・・・・・。勇者?
聞く間もなく、扉は閉じられた。
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