第5話 「羨望」 Die Down
俺たちは、眼の前の光景を前に、ポカンとしていた。
「ケインのヤツ・・・・・・既にパーティーを作っていやがったか・・・・・・」
「か、可愛い女の子、ばかり」
「なんでハーレムなんだよ! 男はどうしたんだよ男は!」
どう考えても、力不足だろう、男女比がしっかりしてないとパーティーとして成り立たないはずだ。
そして、パーティーの中には、珍しい獣人が見える。
「お、おい! ケイン」
「ああ、久しぶりだな」
「久しぶりもなにも、つい2日前だろ、それより、もう自分のパーティーを作ったのかよ」
たった2日でこれほどの仲間が集まるものなのか?
それも、女ばかり、そもそも勇者を脱退して何を倒すためにパーティーを組んだんだ。元勇者のコイツが金銭的に苦労することもないだろうに。
「にゃあ!? ご主人様に手出しはさせないのニャ!」
いきなり、銀髪の猫型の獣人が手を俺たちの間に出してきた。
腰には2本のナイフ。筋肉もあるように見えることから、どうやらこのパーティーがお遊びではないことが伺える。
「あぁ?」
「にゃにゃあ! コイツ! ご主人様の敵ニャ!?」
おいおい、なんでそうなる。まあ確かに、今や敵同士としての関係と言っても差し支えはないのかもしれないが。
だが、今は正直に言うと、ケインにパーティーに戻ってきてもらうように説得したい。本当に不本意ではあるが、なんとか友好的な関係は保っておかなくては。
「落ち着いてください、このお方はケイン様のお友達ですよ」
どうやら、この教会にいそうな服装をした女は俺たちのことをキチンと理解しているようだ。にしてもお友達か──。
まあ表現は気にする必要はない、一応俺たちのことはパーティー内で少しは話してくれているようで良かった。
「そうなのにゃ? でもご主人様の味方は私たちなーのにゃ! ギューッッ!」
「落ち着け、抱きつくな」
羨ましいぞ・・・・・・!
いやいや待て、こんなのおかしいよな。たった2日でこんなに親密になるか? 普通。まさかケインのやつ、コイツらを洗脳してるんじゃないだろうな。
ふざけやがって・・・・・・。
「お前がいなくなってから商売上がったりだ! どうしてくれんだよ!」
「どうしてくれるもなにも、お前が俺を追放したんだろ?」
あぁそのとおりだ。
だが、どう考えてもケインには何か俺たちに隠していることがある。
俺が追放したのは確かだが、能力を隠していたというのであれば、ケインには何か別の思惑があることが伺える。
だが、それがこのハーレムチームを結成することだったのか?
「何ですと! このお方を追放とは! それがしセンスないですな!」
「今はコイツと話してんだ!」
「ひっひぃぃ!! 危険を察知ィ!」
気に食わん、女の癖に口調が厄介オタクだ。それに俺は仮にも勇者だ、少しはリスペクトというものを・・・・・・。
「ちょっと! 落ち着いて!」
「全く、昨日の夜語り合ったことを既に忘れているのか」
スレイが呆れ返る。
俺としたことが、ついカッとなってしまった。だが、この状況。本当は斬りかかってやりたいぐらいに情緒が不安定になっている。
「あぁ・・・・・・、その通りだな。おいケイン! お前は一体、何の能力を持ってたんだよ!」
「あぁ、俺もお前たちと別れてからようやく分かったんだ」
ん、なら俺たちに隠していたとわけではないのか? だが、5年もやってきて、気づかなかったようなことが急に分かったりするようなものなのか。
だが、俺たちも昨日は色々なことを悟った。疑うことは出来ない話だ。
「はい、ケイン様のスキルは『スタートダッシュ』『全パラ2倍』『同時魔法補助』『魔力回復強』『転移魔法上級』『魔法無効化』等々・・・・・・」
待て待て・・・・・・。スキルがない俺たちに比べて、異常な程にスキルを掛け持ちしてるじゃねえか!
「は? はぁ!? 何でそんなにあるんだよ!」
「続けます。『スケルトンキラー』『アンデッドキラー』『カビキラー』『ゴーレムキラー』」
話の一部分を聞くだけでも分かる、どうやら全てのモンスター、魔物に耐性があるらしい、もう聞くのも億劫だ。
「もういいもういい! 何でそんなにスキルを持ってるのかを聞くのが先だ!」
「なんか変なの混じってなかった?」
「しーにゃ、ツッこんじゃだめにゃ」
おそらくカビキラーの所の話をしているんだろう。キノコ系統の魔物なんか聞いたことないからな。
「俺も詳しく知らないと前から言ってるだろう。とまあ、俺のスキルはこんな感じだ。お前達のスキルはどうなんだ?」
「教えろも何も、ルシアが持ってる補助魔法みたいなの以外、俺たちにスキルといったスキルは無ぇんだって!」
「ほう、てっきり隠してるものかと」
隠す必要なんかないだろ!
やはり、ケインは俺たちに何かしらの疑念を持っていたか、仲間として認識していなかったか・・・・・・。そんな節があったのだろうか。
それとも、単に嫌味を言うつもりで出てきた言葉か。
「まさに俺TUEEEE状態ですな、流石ですぞケイン殿」
「お前はマジUZEEEEE状態だ! 黙ってろ!」
「あぁ・・・・・・おやめくださいレイズ様、カリン様は常日頃、このような語り口調なのでございます」
まあ個性として受け入れてやろうじゃないか。
だが、それでもやっぱり気に食わない。
「ホントに、変な喋り方だにゃー」
お前が言うのか。猫娘。
「おいミロル、それ、ブーメランやないかーい!」
────・・・・・・。
ケイン。お前は何を言っているんだ。
無口キャラの萌え要素にしては少し寒すぎるぞ。
と、ここで俺自身もあのオタク女と変わらないことを自覚する。そんな自分に苦笑する。
「ケイン様の新しいスキルでしょうか、言うなれば・・・・・・。『凍結魔法』?」
「黙れぇぇええええ!!!!」
あまりのくだらなさと話の通じなさ。そして俺は嫌になって走り出していた。
クッソ、ケインのヤツふざけやがって・・・・・・。
俺が走った先には大聖堂がそびえ立っていた。少し遅れて二人も俺に着いてきた。急に走り出して、少し申し訳ない。
「結局、振り出しに戻ったな。他のヤツとチームを組んでいた、おそらく、既に勇者を脱退しているだろう」
の癖に、指名手配とかされてないで、普通に街をぶらついてるよな。相変わらず訳が分からない。
勇者ってものは、一体何なんだ。
「てか、そもそも脱退ってどうすんだよ。窓口で紙に記入すりゃあいいのかよ」
「確か大聖堂で神父様に言うんだとか」
スレイがその場で俺の後ろに視線を向ける。
偶然にも、俺たちの目の前にあるそれが、話にあった大聖堂だ。
「そうだな、話を聞いてみよう」
俺たちは早速、目の前にある大きなドアを開ける。この大聖堂は、何故か馴染み深い。大して来た覚えはないんだがな。
「神父、ダルカリア《こんにちは》」
ここで言うダルカリアというのは、この周辺独自の挨拶だ。かつて、この大陸を守った伝説の神につけられた名前とは聞くが、どうやら挨拶になるほどに偉大な存在らしい。
これまた、何故か馴染み深い挨拶となっている。結局のところは宗教用語だが。
「ダルカリア、今日はどうなさいましたか」
「ここにケインのヤツが来なかったか?」
「はい・・・・・・2日前、勇者を脱退すると・・・・・・」
やはり、勇者は脱退しているはずだ。それも2日前、ちょうど俺たちと分かれた後のことだろう。
「だよな? だがおかしい。勇者を脱退した者は指名手配され、捕まれば即死刑だって話じゃねぇか」
「はい・・・・・・その通りでしたが、その必要は無くなったのです」
無くなった・・・・・・?
「はあ? どういうことだよ」
「勇者さまが、再び、誕生されました」
「は・・・・・・」
「「ハァァァアアア!?!?!?」」
俺とルシアの二人は思わず叫んでしまった。そこでスレイは落ち着いて一言。
「これは・・・・・・。驚いたな」
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