第14話 おまけ・貴子の冬。(中)
麗華が冬休みに入ってすぐに引っ越しをしたので今年も残すところ1週間。
テレビは賑やかな年末特番。
引っ越してきた事を何処で調べてくるのかポストには特売のチラシが入ってくる。
薫くんは泊まった翌日は帰っていった。
やはり夜は寂しくて初めて迎える自室での夜は心細くて泣いてしまいスマホを取り出して写真を見る。
薫くんと撮ったツーショット。真っ赤に照れる薫くんと涙でグシャグシャですっぴんおばさんだけど笑顔の私。
昨日の事を思い出して頑張って眠るが何回も目を覚ます。
今回の事は私の罰だと思う。
やりようはいくらでもあった。
現に龍輝は昴ちゃん達に触れて変わった。
最初は昴ちゃんをボコボコにするなんて言っていたがボコボコにされたのは龍輝だった。
とても寂しい。
美空さんが言ってくれた耐えなさいって言葉の意味を身をもって知った。
甘えちゃいけないのに何回もスマホを手に取っては「寂しい」と送りたくなる。
誰に?
脳内には昴ちゃん、美空さん、薫くんが出てきたけど我慢しなければと思う。
その時スマホに着信がくる。
それは薫くんだった。
「平気ですか?」
この一文にまた新たに涙が出た。
「寂しいよ。今も泣いてた」
「やっぱり。父さんからも多分貴子さんは我慢して辛いって言えないし遠慮するからタイミング見て連絡するように言われてたし、俺も心配してました」
嬉しかった。
昴ちゃんはわかってくれていたし薫くんも心配をしてくれていた。
「良くないかも知れないけど年内は貴子さんと麗華さんがいいって言ってくれたら泊まります。母さんの背追い込み過ぎもわかるから年が明けたら帰る日を増やしますけど年内はとりあえず背負います」
もう涙が止まらなかった。
「本当?」
「はい」
「嬉しいよ」
「良かった。でもサラダチキンはくださいね」
薫くんの照れ隠し。
少しでも私を笑わせようとしてくれる。
「うふふ。ブレないね。わかってるよ」
「じゃあ麗華さんと決めて呼んでくださいね」
「ありがとう。夜中なのにごめんね」
「良いですよ。俺も気になって眠れていませんでした」
薫くんがまた来てくれる。
そう思うと何となく頑張れる気がして眠れた。
翌朝1番に「麗華ゴメン。サラダチキン買いに行こう」と言い「うん。お母さん顔酷いからすぐ行こう。薫くんを誘って冬休みの宿題をウチでやろう」と麗華が言う。
早速呼ばれた薫くんは「うわ。サラダチキンが山盛りだ」と言って年内は1日だけ家に帰ってそれ以外は着替えにだけ帰ってスマホの充電器まで持ってウチの子になってくれた。
薫くんは昴ちゃんに似て紳士で決して手伝い以外では私の部屋にも麗華の部屋にも入らない。
引越しの時に家具を入れる為だけに入ってくれたくらいだし入る時はドアを開けていてやましさがない事をアピールした。
これは龍輝にはない事だしすごい事だと思った。
でも夜になるとこれの為に困る。
新居のリビングは広い。
これは龍輝から生活レベルを下げるなと言われて広い部屋に引っ越したからで、この部屋で寝ると寒い。
薫くんと2人で掛け布団に包まるのは暖かいがそれでもソファの上は寒くて風邪をひいてしまいかねない。
「薫くん…ごめん。お願い聞いて」
「貴子さん?」
薫くんが4回目の泊まりの時に私は限界を告げた。
「私の部屋で寝よう?」
「え!?」
「何もないよ。このままじゃ風邪ひいちゃうよ」
「えぇ…、それは」
「それは?」
「龍輝さんに悪いですよ」
「大丈夫。お願い。龍輝が帰ってきたらキチンと言うし、何も言わないと思うけど言われたらあの女との事を言うから平気だよ」
渡来愛菜の事を言うと薫くんは困り顔で「可哀想ですよ」と言った後で「貴子さん、貴子さんは俺を信じてるんですよね?」と聞いてくる。
「うん。薫くんは昴ちゃんと一緒でそれ以上もそれ以下もない…と言うか、こんなおばさんと何かあるなんて思ってないよ」
この返しに「…はぁ……」とため息をついた薫くんが「貴子さん?俺は恋愛とか興味ないですけどそれでも貴子さんは可愛い人だから緊張しますし照れますからね?今だってドキドキしてます。だから年上だからそんな事はないの考えは危ないですからね?」と真面目な顔で言う。照れた私は「…うん」としか言えなかった。
薫くんは困った顔のまま「わかりました。風邪をひかれては申し訳ないので行きます。でも変な感じになったらリビングに布団を持ってきてそこで寝ましょう」と言った。
「え?わざわざソファをどかすの?」
「はい」
「もう、真面目だなぁ」
私は笑うと立ち上がり薫くんも立ち上がると掛け布団を手に持つ。
ここで私は薫くんの顔を見ると真っ赤になって緊張していたので少しだけイタズラ心がでてきてしまう。
「薫くん、行こう」
そう言って手を差し出した。
「え?貴子さん?」
薫くんは焦った声を出す。
「手を繋いで入ろうよ」
その声に薫くんは震えて汗ばむ手で私の手を握ってくれる。
こんな20も年上のおばさんを捕まえてこんなに緊張してくれるだけでも嬉しくなってしまう。
私が扉を開けて薫くんがついてくる。
「ようこそ私の部屋へ」
そう言うと薫くんは「恥ずかしいです」と言ってついてくる。
「さあ、寒いから入ろう?」
「先に貴子さんからですよ」
「え?でも私の方が朝早いから外側の方が良くない?」
「ダメです。落ちないように俺が外側です」
「もう、優しいなぁ」
私は照れながら先にベッドに横になると薫くんは持っていた掛け布団を掛けてくれる。
子供に戻ったみたいで少し嬉しい。
そして薫くんは小さく深呼吸をすると「じゃあお邪魔します」と言って入ってきた。
やはり布団は偉大だ。暖かい。
暖かくてゆったりしているのに近くに薫くんがいる。
薫くんは眠いのに私が眠るのを待っている。
話しかけたら止まらない。
でもひとつだけ話したくて「薫くん」と声をかける。
「貴子さん?どうしました?」
「私タバコ臭い?」
一瞬固まった薫くんが「あれ?気になりません」と驚くので私は嬉しくて「へへ、良かった。龍輝の敷金だから台無しにできないって思って本数減ったのとね。薫くんと寝る時に臭いと悪いからお風呂前に吸ったら後は朝まで吸わないんだよ」と努力を伝えた。
「凄い」
「でしょ?だから褒めて」
「本当凄いです。でも無理をさせてごめんなさい」
「もう、昴ちゃんみたいに謝るんだから。これを機会に減らしたいから一緒に寝ててね」
「わかりました。じゃあ近づいてきてください。それだと寝てる時に目が覚めるやつですよ?」
「そうかな?じゃあ近付くね」
私がもぞもぞと薫くんに近づくと薫くんは「うん。それくらいならいいと思います」と言う。
「ありがとう薫くん。おやすみなさい」
私がおやすみと言って静かになると薫くんはすぐに寝た。いくら若くて元気でもこれだけ気を張って疲れて寝不足で寒いと風邪を引く。
それは薫くんだけではなく昴ちゃんにも美空さんにも申し開きが立たない。
まだこの部屋で寝たのは一晩だけでまだ他人の部屋って感じがする。
私はそんな事を思いながら横で眠る薫くんを見て昴ちゃんを探してしまう。
大筋は昴ちゃんだが、やはり美空さんも居る。
2人の子供。
もう約1年前になるが昴ちゃんが龍輝に説明していた言葉が蘇る。
あれは麗華がムービーを撮ってくれていて後で見せてくれていた。
私の事でヤキモチを妬く龍輝に昴ちゃんが「俺は亀川に今以上の何かを求めません。求められても受け入れません。亀川だって俺がもし求めても違うと思って受け入れませんよ」と言っていた。
それは聞いていて悲しいと言う気持ちは出てこないで「確かに」と思えた。
私は仮に昴ちゃんとお付き合い出来てもキスまでは想像出来るがその先は想像出来ない。
そもそも昴ちゃんが美空さんが居るのに私とキスというのも想像できないし、その先も勿論想像できない。
それは何年も時間をかけるか、それこそ龍輝が世界が滅んで地球の最後の男女が私と昴ちゃんなら想像できるのかも知れないが今はない。
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