第12話 (最終話)刻まれた温もりと尊いキス。
引っ越しが終わって始まった宴会。
まあ皆酷いもので薫くんは部屋があるから酔い潰して構わないと言って飲ませた。
お母さんも久しぶりに記憶をなくす。
お母さんの喜びようにどっちのお婆ちゃんも喜び、「あ、そうだ」と言った昴ちゃんさんがお母さんが酔い潰れる前に「亀川、ありがとう。亀川と麗華さん、龍輝さんのおかげで恋愛や結婚に興味を持てなかった薫が人との繋がりや温もりを知って変われたんだ。本当に俺と美空さんでは教えてあげられなかった事を教えてくれてありがとう」と言ってからもう一度皆に感謝を告げる。
薫くんはなんだかわからずにジビエハンバーグに「君はなんでそんなに美味しいの?」とか語りかけている。誰が見ても限界間近だ。
そんな薫くんを皆で見て逆に薫くんのおかげで今回もなんとかなったし私や虎徹の学校のことなんかも感謝しかないと言われる。
途中でお父さんが台所の換気扇下に行く時に「貴子、吸わねえのか?」と声をかけるとお母さんは「あー…、なんか本数減ったから今平気」と返す。
これにひばりおばさんがビックリして不調を疑うと「違うって。ほら今回龍輝居ないし、麗華もタバコ嫌いだし、後はタバコを吸うと敷金が帰ってこないって聞いたからそう考えたらタバコって金食い虫だって気付いて我慢できるようになったんだよね」と言って笑う。
「お姉ちゃん、けちん坊だから…賃貸に住めば禁煙出来たかもね」
この言葉にお母さんは初めて気づいて「しまった!その手があったか!」と言って笑った。
宴もたけなわ。
私は色々武士の情けをかける事にする。
普段ならこのまま放置するとお皿のお肉とコップのビールを片付けた薫くんは「ごちそうさまでした」と言ってバタンキューをしてお母さんも釣られて倒れる。
「お母さん、薫くん限界近いから上連れてってあげようよ。布団敷いてあげなきゃ」
この言葉に、まだ余裕そうに見えるお母さんは「わ、そんなに飲んだの?」と薫くんに声をかけると「ジビエハンバーグが龍輝さんのお父さん達に会わないと食べられないからつい嬉しくて」と答えるがお母さんを見ていない。視線はハンバーグに釘付けられている。
お母さんが呆れ口調で「もう、まるでハンバーグ食べたさに呼んだみたいに聞こえるよ?」と言うと薫くんは「えぇ?違いますよ。貴子さんと龍輝さんと麗華さんの仲良しを見てもらって安心して貰いたいんですよ。本当に見て貰えて嬉しくて、だからついハンバーグも食べ過ぎちゃいました。今のもひばりさんが分けてくれたんですよ。ちなみにウチも俺と父さんと母さんで行くと爺ちゃんも婆ちゃんも嬉しそうなんですよ」と返す。
それは皆知ってる。
薫くんは皆を見てて皆を喜ばせようと必死に頑張ってくれている。
だから皆薫くんが好きなんだ。
お母さんに促されて立ち上がったところで虎徹に「おやすみ」と声をかけられると「え?寝ないよ」と言いながらも意味もわからずに大人しく上に連れていかれる薫くん。
私は布団を敷いてお母さんに「後よろしくね。気持ち悪くならないかちゃんと寝るか見てあげてね。家だと勘違いしてトイレ探すと大変な事になるよ」と言うとお母さんは困った顔で「え?お母さんが?ここに居たら寝ちゃうよ」と言う。
「薫くんは私と2人きりなんてなったら責任感じてウチに来なくなっちゃうよ」
この言葉に「確かに」と言ったお母さんはあっという間に薫くんと同じ布団で眠る。
そして話しかけても反応しないくらい深く眠ったお母さんは「薫くん」と声をかけながら薫くんの頭に手を回して娘の目の前でされたら困る長めのキスをした。
薫くんは苦しそうな顔もせずにスヤスヤと眠りながらそれを受け入れている。
下でこれをやられたら大惨事だ。
だから武士の情けでこうなる前に退避させた。
これは後でお父さんに説明しておこう。
薫くんは本気で何も知らない。
寝た後のことで何も知らないからこそ何ヶ月もウチにいてくれた。
お母さんも無意識かもしれない。
初めて見た日はまだ布団もなくリビングのソファで寝ていた時、夜明け空が綺麗で寂しい光がカーテンの隙間から差し込む寒い真冬のリビングのソファで、お母さんが落ちないように背もたれ側にお母さんを寝かせてあげている薫くんの頭に手を回してキスをしたままお母さんは眠っていた。
空気の冷たさと差し込む日差しの綺麗さもあって、なんだか凄く綺麗な絵のような2人に私は言葉を失った。
何時間でも見ていられるようなキスだった。
いやらしさとかない尊いあのキスを私は忘れない。
だがすぐにキスの相手がお母さんと薫くんと気付き、物音を立てたら色々まずいと思った私はコッソリとトイレに行って流した音でお母さんは唇を離したのか見た時は薫くんの胸の中で眠っていた。
当然見てしまった日はかなり焦った。
そして翌朝ソファを見たら「おバカ、まだ勘繰ってんの?」とお母さんに小突かれた。
そしてそれからお母さんの部屋で寝た数日は知らないがリビングで眠る日は毎回かは知らないがお母さんは薫くんの頭に手を回してキスをしている。
まあ知らないキスがあって一晩中抱き締めていた生活で薫くんは1人で寝れない子になってしまった。
もしかしたら眠っている薫くんはお母さんとのキスが好きになっているかもしれない。それは男の子として女の人とのキスが嬉しいと本能が言っていたり、美空さんの言う通り温もりを知って変われたのかもしれない。
そんな薫くんだから喜んで泊まってくれるのかもしれないなと思った。
私は下に降りると「お母さんもダウン。そもそもこの家に慣れてないで寝ぼけた薫くんがトイレ探してお父さんのベッドをトイレと思い込まないように監視して貰う予定だったんだけど…まあ音がしたら見てくるよ」と言う。
「あらあら」と呆れる亀川のお婆ちゃんとお父さんを見て「アンタ、ヤキモチなんて妬くんじゃないよ」と釘を刺す田中のお婆ちゃん。
お父さんは「妬かねえよ。薫は俺の心の弟分だ」と言ってビールを飲む。
確かにお父さんはヤキモチの顔をしていない。
そして何かを察した美空さんは「ありがとう。この家にも抱き枕を送るわね。麗華さんが居てくれて良かったわ」とコッソリとメッセージをくれた。
美空さんにバレている事実に私はすごく冷や汗をかいた。
とりあえずようやく戻ってきたこの家で始まる新しい日々を期待しながらもう一度写真を撮る。
そして新しいフォトブックには恥も何も関係なく全部の写真を入れてやろうと思った。
私は実はキスの写真を何枚か持っている。
初めて見た日みたいな尊さは少し足りないが、それでも十分に尊いキス。
赤ちゃんが起きないためにシャッター音を消すアプリのおかげで沢山撮れた初々しいカップルみたいな写真。
まあ2人とも眠っていて2人とも知らないけど。
あー…でもこれのせいで薫くんこなくなると困るからこれはやめるかと思った。
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