第11話 四月一日の急転直下。

4月1日、お婆ちゃん達に言わせると子供の学年割の事とかで大変な日で、人によってはズラして産むとかするのに、迷惑女らしい日だとの事だが当初お父さんとの間違いの日から算出した予定日よりだいぶ遅れて陣痛が来て生まれた渡来愛菜の子供は黒い肌の男の子で産婦人科は騒然とした。


渡来愛菜は愚かにもお父さんに「龍さんとのBabyちゃんの誕生をムービーに収めてね」と言ってお父さんにデジタルビデオカメラを持たせて立ち合い出産をしていたが生まれてきた子は黒い肌。

しかも生まれた瞬間から盛大にお祝いすると言って、田舎から呼んでいた田中のお爺ちゃんお婆ちゃんに相手の親も居て、全員が騒然とするなか渡来愛菜は「か…隔世遺伝だし!」と言ったが通じるわけもない。


産後すぐの弱った身体なのに詰問された結果、「龍さんとした後で妊娠してなかったらダメだと思って数人の男性と関係を持ちました」と罪を自供。

運良くケバブ屋のジェームスが赤ん坊の父親だったおかげでお父さんの子供ではない事が即日判明した。と言うか、なんでそこで人種の壁を越えたのかわからなかった。


まあ、その点も供述は得ていて「最後に気になってた男性とお別れする為に思い出作ったの!ジェームスはすっごくワイルドだったし」と言い、渡来愛菜的にはお父さんと本気で結婚する為に片っ端から気になっていた男性を精算する目的もあって関係を持ち、愚かにも妊娠していた。

それをお父さんの子だと言って迫ってきた関係で飛んだ迷惑を被った。



田中のお婆ちゃんが「麗華!助けて!龍輝の子が龍輝の子じゃないの!黒いの!肌が黒いのよ!」と夜になって私に電話を入れてきて春休みの私達は一気に大慌てになった。


お母さんは薫くんと「ドーナツ美味しいね。今日も帰らないよね?」「えぇ?帰りますよ」とやっているところで「お母さん!お父さんの赤ちゃん!お父さんの子供じゃないって田中のお婆ちゃんから電話!」と言うとお母さんが慌てて電話を取って「よかった…よかったよぉ」とお母さんが泣いて話にならなくなったので薫くんが電話に出てくれてお婆ちゃんから話を聞いてくれた。


「ああ、薫くんが居てくれて良かったわ」と言うお婆ちゃんの声が聞こえて来て薫くんが「病院の先生に証拠とか証言の話をして貰うから忘れないでいて貰ってください」と言って電話を切った後、すぐに「母さん!弁護士さんに連絡して!龍輝さんの子供は違う人の子供だって、なんか、ケバブ売りの外国人だって。結婚の無効とかやれたよね?」と美空さんに電話した後で「ケバブ…美味しいよね。明日買いに行こうかな」とブレない薫くんはお母さんに、「貴子さん、良かったですね」と言ってお母さんは「ありがとう」と抱きついてワンワン泣いた。


こうした素早い連携で、散々バカにされたとお怒りだった弁護士さんの手によって元々襲われていた事から偽装された妊娠、それによって責任を取る為にお母さんとした離婚も無効にできてしまう話になった。


わずか数ヶ月の離婚だったが私とお母さんは元に戻れた。



とりあえずその日からお父さんは渡来愛菜を追い出して家の中から痕跡という痕跡を渡来の家に送りつけた。


向こうの親からは大層な額と謝罪を貰い、今後はお父さんと関わらせないと誓ってくれた。


困ったのはたった数ヶ月であの女は私たちの家をメタクソにしてくれていた。

お父さんと測った身長測定の柱は赤ん坊の為にと塗り替えたりしてくれていて「ローンが残ってるのに住む気にならねぇ!」とお父さんがブチギレて大々的にリフォームをする事になった。

これは大層な額から支払う事になり、それでも収支的にはプラスになった我が家だった。


そして、それを聞いた鷲雄叔父さんは「よっしゃぁ!花見だ!龍輝!田中のご両親も花見だ!泊まって貰えぇぇ!」と張り切ったが全員の日程を考えて田中のお爺ちゃんお婆ちゃんは一度帰って行った。

駅まで見送りに行った私達に泣いて抱きついて良かったと言い、薫くんの手を持って「ずっと貴子さんと麗華を支えてくれてありがとう」と感謝をしていた。

「いえ、俺の方こそ色々教えてもらいました。この前祖父母から立派になったと褒められたのも龍輝さん達のおかげです」

そう返す薫くんも嬉しそうだった。


そしてお花見の日は大盛大…超盛大でお父さんは出所して来たあっちの人みたいに「不肖田中龍輝!戻ってきました!」とやって通報されたのだろう、職質されていた。


お母さんは「バカ、張り切りすぎ」と言いながらも泣いて喜んでいた。

田中のお爺ちゃんお婆ちゃんは昴ちゃんさんと美空さんにも深々と礼を言って分厚い茶封筒を用意してきたがそれは断っていた。


そして始まる宴会。

私はこれでもかと写真を撮る。美空さんとお母さんのツーショット。お婆ちゃん達の嬉しそうな顔。

田中のお爺ちゃんが持ってきたジビエハムに喜ぶ薫くん。

昴ちゃんさんとお父さんのツーショット。

とても嬉しかった。



お父さんはリフォーム中は今の仮住まいに来るようになる。

そうなると「俺はお役御免ですね」と帰った薫くんが「なんか1人つまんない」と言って今までよりはペースダウンしたが10時までウチにいて帰るようになる。


薫くんは「お布団あるから泊まれば?」とお母さんに言われると「…龍輝さんに聞きます」と言う。お父さんは仕事の事とかもあるしリフォームの進捗も気になるからと家に帰る事が多いので、薫くんが聞くと「何遠慮してんだよ。泊まれ。鷲尾のアニキが買ってくれた布団を使い潰せ」と言われて嬉しそうに「お世話になります」と言って泊まる。


そしてお母さんも薫くんが泊まると薫くんと寝る。

薫くんは「貴子さん、龍輝さんに悪いですよ?」と言いながらも顔は嬉しそうで朝にはお母さんを抱きしめてスヤスヤと眠っている。


私はそれを見たさに早起きできる女になった。

勿論写真は必ず撮った。


確かに年末からこっち、薫くんをサラダチキンで引き留めてお母さんと寝るのを当たり前にさせてしまったのかもしれない。


私は申し訳なくて美空さんに連絡したら「うふふ。やっぱり」と言っていた。


「それも大事な事よ。人の温もりが当たり前だと思わない事も。それを守りたいと思う事も大事なこと。薫もこれで恋を意識するかもしれないわね。ふふ、とりあえず今度の休みに昴さんと抱き枕でも見てくるわ」


薫くんは家に届いた抱き枕を見て肩を落としたがそれでも「助かった」と言って家に帰れるようになっていた。



リフォームはあっという間に終わる。

敷金礼金が勿体無かったが私達はさっさと家に帰る。

壁紙から床から全部ピカピカになっていて、ご近所さん達が「お帰りなさい!帰ってこれたのね!」と言ってくれた。

まあ生まれた子供はジェームスの子供だと言うのはすぐに広まった。今回ばかりはお父さんも昴ちゃんさんから「亀川と麗華さんの為にも格好悪いとか言わないでご近所さんに話すんですよ」と言われていてジェームスの子供が生まれてきた話をしていた。



皆で荷物を運ぶと私の部屋に机を持って行った薫くんが「あれ?」と言う。

お父さんと私とお母さんで顔を見合わせてクスクスと笑う。

鷲雄叔父さんも知らないことなので「何笑ってんだ?」と聞いてくる。



「龍騎さん?2階に部屋が増えてますよ?麗華さんの部屋が小さくなってる」

そう降りてきた薫くんに「お前の部屋だよ薫」とお父さんが言う。


聞き間違いだと思ったのか「は?」と言って凄い顔をする薫くん。


「間取り的に物置と麗華の部屋から少し貰うと寝るだけの部屋なら作れるから薫くん用の部屋を作ろうって3人で話したの」

「これなら寂しくねえだろ?お前に貴子達任せてたから1人の家に帰りにくくなったって聞いてな鷲雄アニキの布団が置ける部屋を作ったから寂しくなったらいつでも寝に来い」


「えぇ!?悪いですよ」と薫くんは言うが顔は肉を勧められた時の喜びの顔で、それを見た美空さんが「薫?一人暮らしに意味があるのよ?程々にしなさいね」と言って、昴ちゃんさんも「薫、本当だよ。龍輝さんのご迷惑にならないようにするんだよ?」と言う。


そして昴ちゃんさんは「龍輝さん。薫がすみません。よろしくお願いします」と言って「俺の心の弟分で俺の心の友の息子だから当然だ」とお父さんが返す。


「亀川、薫をありがとう。こんなに想って貰えて薫は幸せ者だよ」と言うとお母さんも「ううん。きっと今回もうまく行ったのは薫くんがあの日龍輝に突き飛ばされた私を助けてくれたからだよ。ありがとう昴ちゃん。ありがとう美空さん、ありがとう薫くん」と言う。


この展開が嬉しかった鷲雄叔父さんが「よぉぉっし!!宴会だ。マッハで引越し済ませてマッハで宴会だ!」と言う号令で秒で、全員一丸となって引っ越しが終わるとそこには田中のお爺ちゃんお婆ちゃんも来た。


「あれ?」と驚く私に薫くんが「俺が呼んだんだよ」と言う。


なんと薫くんはお爺ちゃん達とも連絡先交換を済ませていて「引っ越しの日に来てあげてください」と誘っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る