第7話 龍輝の決断。

お父さんは昴ちゃんさんの言葉を受けた事もあって悩みに悩んだ。


悩み過ぎて再び会社を休んだ。

会社には弁護士さんから事情を説明して貰った。


鷲雄叔父さんも同じ会社の知り合い達に渡来愛菜が強硬手段に出た事と、これ以上関わらないように言ってくれた。


今回、亀川家は初めて夏の集まりを取り止めた。


そして一度弁護士事務所でお父さんとお母さん渡来愛菜で話をした。

渡来愛菜は終始お父さんに「龍さん会いたかったよ」「アタシ待ってるよ」「お腹大きくなって来たよ」と話してお母さんを睨んで「龍さんを解放してあげて。アンタが居るから龍さんはこんなに疲れてんだ。龍さんは仕事が大変なのに家でアンタに気を遣っていたし、年下の男を家に上げてたって悩んでたんだ」と言った。


お父さんはキチンと「違う!薫は亀川家のファミリーだ。だからウチにきて貴子の手伝いをするのも麗華の勉強を見てるのも間違いじゃない!仕事のことにしても俺が家で話さなかっただけで、話さなくても察してくれると思っていただけだったんだ」と説明したが渡来愛菜は「アタシも龍さんの事を察してあげる。キチンと奥さんするから私と結婚してBabyちゃんのパパになってよ」と言っていて話にならなかった。


帰って来てすぐに「龍輝、ごめんね。あの子の言っている通り、私がダメだから龍輝を困らせてた」と言ってお母さんは泣いて謝るとお父さんも「そんな事はねえ!俺が全部悪いんだよ!」と言って謝った。



そしてその日からお父さんとお母さんは沢山話し合ってお父さんは責任を取ると言ってお母さんと離婚をしてあの女と再婚をして生まれてくる子の父になると言った。

私は今までの態度からしたら虫のいい話だが泣いて拒んだ。


「済まねえ麗華。俺はお前達と幸せになる権利はない。生まれた子供の父親として子供を育てないとダメだ。貴子は本当にできた女だったんだ。だから麗華はマトモに育ったが産まれてくる子供はとてもマトモに育つとは思えない。

だがその子供の父親は俺だから俺が何とかしないとダメだ」


私はワンワン泣いて嫌だと言った。

最後にはお母さんまで泣いて家族3人で抱きしめあってから、お母さんが「麗華はずっと龍輝の娘だよ。龍輝をお父さんって呼んでいいんだよ?」と言ってくれた。


「お母さんは?」

「私は麗華のお母さんだけど…龍輝の奥さんじゃなくなっちゃうね…。でもこの日々は残るから大丈夫だよ」


こうしてずっと泣いた後、3人で話して亀川家に行ってお父さんが赤ん坊の為にお母さんと離婚して渡来愛菜と再婚をすると説明した。


集まった鷲雄叔父さんや薫くんはすごく怒ってた。

それはお父さんにではなくて渡来愛菜に怒ってくれていた。


一番最初に口を開いたのはお爺ちゃんで「わかった。貴子と麗華は俺たちに任せろ。それでこそ龍輝だ」と言う。


「オヤジ…」

「バカヤロウ、赤ん坊と貴子と麗華を比べてどっちが大変か考えたろ?大変な方に行くのが龍輝らしい。だからそれでこそ龍輝だ。だがお前は俺たちの家族だ。またいつでも顔を出して連絡しろ、これで終わりにはさせねえぞ?」


お父さんは泣いて土下座をしながら「すんません。オヤジ!すんません!」と言った。

お婆ちゃん達も誰もお父さんを怒らずに私とお母さんの事は安心しろと言ってくれた。



鷲雄叔父さんは「龍輝、言いたい事は全部親父が言っちまったから言えねえが嫌じゃないならこれからもアニキって呼んでくれ」と言う。


薫くんは「父さんから龍輝さんはそうする気がするって言われてて、その時にはキチンと応援しろと言われたけど俺は嫌です。折角の家族なのに…」と言って泣いてくれた。


「薫…。お前、本当にいい奴だよな。悪いけどこれからも貴子と麗華を頼んでいいか?いや、自分の人生最優先でいいんだ…。ただ俺が見れない部分で男が必要な場面で助けてやってくれよ」

「嫌ですよ!いいじゃないですか!その女は好きにさせて見ないフリしてください!またこれからも皆で肉食べましょうよ!」


「お前は肉ばっかりだな…。泣いてくれてありがとな。お前の父さんの言葉も胸に刺さったがお前の言葉も刺さったよ。お前は俺みたいになるなよ?結婚は楽しい。幸せだ。恋愛だって普通にできれば幸せで楽しい。興味を無理に持てなんて言わないけど幸せになってくれ」


薫くんは「嫌です」と言ってお父さんにしがみついて泣いてくれた。

お父さんも「ありがとよ薫」と言って泣いてお母さんも「ありがとう薫くん」と言って泣いて私も泣いた。



次の日、無理をして田中の家に行く。

皆で泣き腫らしてすごい顔で訪れて普通じゃないと察したお爺ちゃん達はお父さんの話に愕然とした。

そしてお父さんに「非情になれ」「こんな泣いてくれる家族は居ないぞ」「思い直せと」と言ってくれた。


「やめてくれよ親父。ただでさえ薫の奴に泣かれてグラついてんのに決意が揺らぐ」

こうして薫くんが本気で泣いて止めてくれた話をするとお婆ちゃんも泣いた。


「貴子さん、もし今から龍輝がやり直したいって言ったら…」

「私もやり直そうって言いましたがどうしても赤ん坊を見捨てられないって言うんです」


そう言ってお母さんはまた泣いた。


「龍輝、考え直しなさい。貴子さんも麗華も亀川さん達も薫くん達も居てくださるのよ!」

お婆ちゃんがそう言ったがお父さんは泣いて「俺は幸せもんだ。これで子供の父親になる覚悟が出来た」と言った。



そこから話が動いた。

お父さんは渡来愛菜に以下の事を飲むなら結婚を考えると言った。

一つは私の親権や養育費についてで成人後も二十歳までは払う事、年に数回、後は卒業式や成人式なんかの特別な日に会う事を認めてもらう事、慰謝料として貯金からお母さんと私に結構な額を払うからお金がなくなる事。

そしてキチンと責任として私が働くまでの学費や引っ越し先の敷金礼金は払う事。

そこら辺の要求に対して渡来愛菜は即日OKを出してきた。


その理由は簡単だった。

渡来愛菜は資産家の娘だった。

なんならお父さんの全財産を私達に渡して身一つで来てくれればいいと言った。


そして私の事も「娘ちゃんもアタシと仲良くしたらお金の心配いらないし、幸せになれるよ?あの女と別れる時に連れてきてあげなよ」と言ったらしい。


お父さんは「麗華、嫌だとは思うが実家まで俺と渡来愛菜と来てくれないか」と言い、翌週も田中の家に行った。


その一日の全ては苦痛の一言だった。

終始お母さんを悪く言って自分は違う、良妻になると言い続ける。

お父さんは途中のパーキングで休憩する時にもお母さんは「ゆっくり休んで」と言って10分だけでもお父さんを1人にしたが渡来愛菜はそれもせずにお父さんにベタベタとくっ付いていた。


そして私を空気扱いしてきてまるでそれでも懐くなら飼ってやると言われている気がしたし、間違いなく赤ん坊が邪魔になったら私に世話をさせる気だと思った。


田中のお爺ちゃんお婆ちゃんは渡来愛菜を歓迎しなかった。

挨拶は良かったがお父さんにベタベタくっ付いて聞いても居ないのに「アタシが龍さんを幸せにします!」「Babyちゃん産まれたら沢山世話してくださいね」と言っていた。


こうしてみるとお母さんはお父さんを放っておいたがキチンとお婆ちゃんのお手伝いもしたし、聞かれた事にキチンと答えていた。


私がお茶の手伝いをするとお婆ちゃんが泣いて「麗華ごめんなさい」と謝ってきた。


私もお婆ちゃん達にごめんなさいと謝る。

「あんな子じゃ誰も幸せにならない」そう言ってお婆ちゃんは泣き崩れた。

それでもお父さんの前では「やり直すのだから今度はキチンとしなさい」と言っていた。



お父さんは帰ってから吐いた。

お母さんにあった事を伝えるとお母さんも「考え直してよ龍輝。美空さんが教えてくれたよ?裁判で同意がなかった事や証拠を集めて無効に出来るって…」と言ったが「貴子、本当にお前は最高の女だよ。ありがとうな。お前の物足りなさは優しさだったんだな。パーキングでも思ったし、オフクロの所でも思った」と言ってから私を見て「麗華もごめんな。嫌な1日だったよな。万一麗華が上手くやれるならって甘ったれたけどアレじゃあ無理だ。麗華が絶対不幸になる」と言ってくれた。



この後はいろんな手続きをして年末に離婚をして私達は新しい家に引っ越しをすることになった。

そうしたら世界が変わった。


まずお祭りに行ったらお父さんの楽しみ方が変わっていたし帰りに寄ったファミレスでも横柄な態度じゃなかった。


私は不思議に思って「お父さん、なんで今日は横柄じゃないの?」と聞くとお父さんは呆れ顔で「別に俺は…貴子を笑顔にしたかったから店員が腑抜けてると文句を言っただけだって」と言う。


これにはお母さんが目を丸くして「え?私の為なの?」と聞き返す。

お父さんはお母さんも気付いていたなかったことにため息交じりに「そうだよ。俺はお前を笑顔にしたかったんだよ」と言った。


「じゃあお祭りは?」

「アレは前に昴から貴子の喜ばせ方を教わったんだよ」


これがずっと続くのなら外出は嫌じゃない。

楽しいとすら思えた。だから私はそれを言おうとして「…お父さん…」と言った所でお父さんが「麗華、それ以上言わないでくれ。俺だってお前達との生活が楽しくて幸せすぎるんだよ。今気づいた事もあるし本当悔やまれる」と言って頭を下げてきた。


「私、この家族なら恋愛したいって思えたよ?」

「ごめんな麗華」


お父さんはそう言って泣いてからハンバーグを食べた。私達も泣きながら食べた。

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