第4話 始まっていた手遅れ。
暗いお父さんを心配して昴ちゃんさんがビール片手にお父さんに話しかける写真を見ていた。
お母さんは嬉しそうに「麗華!」と言うので私が撮った写真。
昴ちゃんさんは真面目で優しい。
あんなに嫌われていたのにキチンとお父さんの言葉を聞いてお父さんの悩みを引き出してくれて、最後にはお母さんを横に呼んで「亀川、龍輝さんの悩みを共有してあげて」と言ってくれた。
そして狼狽えるお父さんに「龍輝さん、無理をすると歪みます。キチンと話してあげて一緒に考えるんです」と言ってお父さんはしどろもどろにお母さんに話した。
途中、格好つけるお父さんに「龍輝さん」と注意をして、パニクって間違えた時には「さっきと違う風に聞こえますよ?」と軌道修正をする。
その結果お父さんは職場に入ってきた新人さんに好かれていて言い寄られて困っていた。
マジかと思ったがガサツ界隈ではお父さんはモテるらしく鷲雄叔父さんは「アイツもブイブイ言わしてた」と言っていた。
お父さんは魚を加工する会社で真面目さがウケていてそこそこの地位にいるらしい。
なんかそれは子供の頃に宿題で書くために聞いた。
「俺が何とかするから任せろ!」
「いいからまずは動け!」
「安心しろ!」
「お前達は俺の指示に従っただけだ、責められるのは俺だ」
そんな感じで部下の信頼は厚く、繁忙期でも風邪やインフルエンザの部下はさっさと帰して自分が率先して働いたりしている。
それは知り合いの多い鷲雄叔父さんが教えてくれた。
最初別人の話をしているのかとおもったが私のお父さんの話らしい。
そんなお父さんに惚れたのは今年28歳の渡来愛菜さん。
お父さんを「龍さん」と言って慕い、入社してすぐに告白をしてきたらしい。
お父さんは無論お母さんと私がいる事を告げて断ったが愛菜さんはノーダメージで「諦めません!」と言って、日々ご飯に誘ったりお弁当を作ってきたりするらしい。
それに参って暗くなっていたお父さんに昴ちゃんさんは「龍輝さんは隠し上手ですね」と言い、「仕事先での苦労を麗華さんに聞かせないなんて本当に凄い」と言ってビールを飲ませる。
「あ?麗華?」
「亀川は鷲雄さんから聞いていると思いますけど龍輝さんは言いませんよね?」
「うん。鷲尾からは聞いていたけど龍輝は何も言わないよ」
「だから苦しくなると、家族がわかってくれないと思って俺ばかり頑張っていると言ってしまうんですよね」
「わかってくれるのか!?」
何と言う事だ。
あの「俺の稼ぎで」発言にはそんな裏側があったのか?
「わかりますよ。でもキチンと伝えてあげた方が良いこともありますよ」
そう言って昴ちゃんさんは美空さんに「ね、美空さん」と微笑みかけると美空さんも「はい。私も昴さんがどんな事をしてるか知れて良かったです」と返す。
「亀川も麗華さんも龍輝さんの話を本人から聞きたかったよね?」
「うん。キチンと言えば良かったんだよ龍輝」
「私も、初めて聞いたし」
私の言葉にお父さんが目を丸くして「え?麗華は知らなかったのか?」と聞き返してくる。
何で自分の事を皆が知ってると思うんだよ…子供かよ。
私が「言わなきゃ知らないよ」と言うとお父さんが「マジかよ…」と言うのでお母さんが「龍輝?アンタ田中のお父さんの事を全部知ってるの?」と呆れ顔で聞く。
お父さんは数秒固まった後で「………知らねえ」と言ったので、私はお母さんの真似をして呆れ顔で「お父さん…少し大人になってよ」と言った。
「龍輝さん。キチンと隠さずに話せば亀川も麗華さんもわかってくれますからね。格好悪いとかじゃないですよ」
「おう…。あんがとな…す…昴」
お父さんはデレた。
これにはお母さんが我が事のように喜んで美空さんや鷲雄叔父さんに報告して回る。
「まあ亀川に言いにくいこととかあれば先に話は聞きますから言ってくださいね」
「…いい奴だな。すまなかった。頼りにさせてもらう」
このやり取りに鷲雄叔父さんは薫くんの肩に手を回して「本当に鶴田家は亀川家の救世主だ!」と感謝しながらワインを飲ませていた。
薫くんはワインは渋いと言っていたが肉と食うと美味いぞと言われて最後には壊れた。
そしてお父さんが「薫、お前ウチで寝てけ。1人じゃ無理だろ?貴子、味噌汁作ってやれ」と言っていてお母さんは泣いて喜んだ。
だが、手遅れは始まっていた。
私の写真はここで止まる。
お父さんは昴ちゃんさんにお母さんに話そうと言われた時、「格好悪い事を言えない」と言っていた。
それは本心の口癖で、職場の部下達には「俺も嫁さんの尻に敷かれてるんだ」と言った感じの自虐ネタは言えても「最近仲よくてヨォ」みたいな惚気ネタは言えなかった。
そして本人はろくに覚えていないらしいがこの約2年半を酔った拍子に愚痴ってしまったらしい。
主にお母さんが初恋の人を忘れられず、その息子と偶然出会って再会した鶴田家は亀川家にもくるし、息子は田中家で娘に勉強教えてたと言った話をしたらしい。
普段から弱音を吐かないお父さんの弱音に部下の人達は一肌も二肌も脱いで余計なお世話に乗り出した。
それは約2年前の田中のお爺ちゃん達と同じ事を思ったらしい「想いが伝わらない相手より、通じる相手にして幸せになってもらいたい」と…。
これによりお父さんは私たちと無事に和解をし、鶴田家を心待ちにする人になったのにそれを知らない職場の人達の手によって渡来愛菜さんと急接近させられるように仕組まれていった。
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