第3話 出来上がった形。

懐かしい写真達、次に出てきたのは卒業式と入学式、私が選んだのは1年前からは考えられないくらい偏差値の高い学校で、背伸びしたらもう一段上まで行けたが私はそれをしなかった。


お父さんは「勿体ねえ」と言い、お母さんは「うん。麗華の好きにしてね」と言って、薫くんは「うん。それが良いよ。3年間頑張りすぎるのは疲れるからね」と言ってくれた。


そしてまた次のお花見。

これは皆して「外だから薫くんと貴子は酔い潰すな」と決め合って宴会をして最後に皆で写真を撮る。

ここでお爺ちゃんが「麗華、去年の写真は見れるのか?」と聞いてきて、フォトブックを作る流れになって私の大まかな進路が見えた。


まあ申し訳ないのは4月に言われて渡したのは8月だった事だろう。

学校も忙しかったし、写真の選別に加え写真に書く言葉を考えていたから遅くなる。普段なら7月には出来たかも知れないが7月は受験を理由に2月に行けなかった田中の実家に行ったから忙しくて完成が延びた。


田中のお爺ちゃんお婆ちゃんは離れていても親なのだろう。

お父さんの顔を見て憑き物が落ちたと喜ぶ。

何があったかを聞かれてもうまく答えられないお父さんの代わりに薫くんが来てからの話をしたら、焼肉ホテル連れ込み未遂事件から勉強を見てもらって平均点が爆上がりして今の高校に入れた事に感謝をしてお礼を言いたいと言い出す。


お母さんは「え!?薫くんは人見知りっぽいような…」とやんわりと断ろうとしたがお父さんがすぐに電話して「おう薫、済まねえな。俺のオヤジとオフクロが麗華の事で、お前に礼が言いたいらしいから聞いてくれ」と言ってお婆ちゃんに電話を渡してしまう。


後で薫くんから聞いたら「何を話してもありがとうと龍輝さんがすまなかった。麗華をよろしく頼むばかりだったよ」と教えてくれた。


そしてお婆ちゃんはお母さんに「今の形ならずっと続けてくれる?」と聞くと、お母さんは「今のところは、私は去年…初めて自主的に努力をして良い点数を取った麗華を誉めずに「どんな手を使った?」と言った龍輝さんが許せないんです」とハッキリ言った。


横で聞いていたお父さんは真っ青な顔で「え?それ?そんなに?」と言うとお爺ちゃんが「この馬鹿野郎!」とお父さんを怒鳴り、お婆ちゃんも「なんて事を言うの!?それは嫌われても仕方ない!謝りなさい!麗華と貴子さんに謝りなさい!」と続いた。


「えぇ?そんなに根が深いのかよ?」と言って燃料投下したお父さんはコレでもかと怒鳴られてから謝って、お母さんは「ようやく謝ったか」と言った後で「本当、次はないからね?」と言う。

私は「薫くんが怒ってくれたからそんなに怒ってない。でも勉強を教えてくれた薫くんをボコボコに殴って蹴った事は許してないかな」と言った。


これにまたお婆ちゃんが「薫くんに!?このバカ!電話を貸しなさい!謝らせなさい!」と言い出して大変だった。


「麗華…、薫の奴は角煮とチャーシューで手打ちにしてくれたぜ?」

「足りないね。お土産にジビエハンバーグを買って帰ってあげたらまた少し許してあげる」

「龍輝、自腹だよ」


このやり取りにお婆ちゃんもお金を出してくれてジビエハンバーグを買って帰ると薫くんは飛んで喜んで「龍輝さん!ありがとうございます!スマホ貸してください!」と言って自分から田中のお爺ちゃん達に電話をしてハンバーグのお礼を言った。


お母さんはお爺ちゃん達から「嫌になったら仕方ない。でも許してくれてありがとう」と言われていた。


今私の手元にはジビエハンバーグを手に持ってニコニコ笑顔の薫くんがお父さんと撮った写真がある。

これは田中のお爺ちゃん達に送ったら喜んでいた。


ここがお父さんとお母さん、そして私の絶頂期だった気がする。



この後も写真は続く。

本来、4月までの写真でフォトブックを作ったからもう写真プリントの必要はないが亀川のお婆ちゃんやお母さん達からお爺ちゃんが毎日フォトブックを見て喜んでるから第二巻を頼むと言われていてその後もこうして写真を出している。

一年一冊のペースだから次もまた春まで溜め込もうとしていた。


そんな私の手には冬の写真がある。

何度見ても笑ってしまうが虎徹の受験戦争が追い込みに入ると加湿器と暖房の前で勉強をする虎徹と虎徹に勉強を教えている薫くん。横で旗を振る鷲雄叔父さん夫婦。そして自撮り風にピースサインで映り込む正宗と宗光。

この頃は追い込み時期で薫くんにはあまり会えなかった。

それでもお父さんは週に何回かはお母さんと私の為に「貴子が亀川のオヤジの所に遊びに行ってるから迎えに行くついでに送ってやるからアニキに頼らずに待ってろ」と言ってくれて私を助手席に乗せて車でお母さんを迎えに行きがてら薫くんを拾って家まで送ってあげた。


「薫、虎徹はどうだ?大丈夫そうならどっかで麗華を見てくれよ。俺にはわからないがずっと1人だと点数落ちかねないだろ?」

そんな事まで言ってくれた。


虎徹は私と同じ高校に来た。

虎徹は少し背伸びをしたが「麗華が楽しそうだから行きたい」と言う事にして私には「面倒な先生とかポイント教えてくれよな」と虎徹なりに楽をする気満々だった。


私と虎徹が何故か並んだ入学式の写真。

在校生は休みなのに鷲雄叔父さんに連れて来られる。

そしてそこには薫くんも居た。

それを見かけた連中は薫くんが中学の時に担任達を蹴散らした大学生と知って色めきだった後で「麗華はいいなぁ、あんなお兄さん居たら彼氏要らないじゃん」と言われた。


私は元々彼氏はいらない。

薫くんも彼女はいらないと言っている。

なんだそれと思ってしまった。


そんなに彼氏彼女が欲しいかね?



きっと普通の人は欲しいのだろう。

だからこんな事になった。


この年は運悪く土日は雨続きでお花見が出来なかった。

ようやくゴールデンウィークにバーベキューをする事が出来た。

そのバーベキューの写真を見る。


お父さんの顔は暗かった。

もうこの時には手遅れは始まっていた。

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