第2話 田中 龍輝。

写真を片すと出てくるのは次のお正月の写真。


今手にあるのは最初に皆で並んで撮った集合写真。

この日も昴ちゃんさんと美空さん、薫くんが来てくれた。


今度はいつも食べてばかりではと言って美空さんの特製ナゲットが山盛りやってきた。


「お店の奴みたい!」と喜ぶ私や既に何個食べたかで争う虎徹達を見て「うふふふ」と笑った美空さんは「たくさん食べてくれてありがとう。作り甲斐があるわ。今回は昴さんにも手伝ってもらって2人で作ったのよ」と言う。


「俺は形を作って粉をまぶしただけだよ。全部美空さんがやってくれたんですよ?」

「重たい鶏肉も持ってくれたし、フードプロセッサーを担当してくれましたよ」


仲睦まじい姿にお母さんはヤキモチを妬くどころか「美空さん!私も作れるようになりたい!今度一緒に作って!」と美空さんに頼み込んで「はい。じゃあ貴子さんは栗きんとんを教えてくださいね」と言われて「嬉しい!この年でお友達出来た!」と美空さんに抱きついていた。



「なあ薫、お前の母ちゃんは何で貴子に優しく出来んだ?」


お父さんが話しかけるとお父さんの横でビールを飲まされている薫くんが「何でって父さんと貴子さんには何もないし、父さんはキチンと貴子さんに会った後は母さんの甘えに付き合うし、母さんはそれがあるから貴子さんに会うのが楽しいし、母さんも友達らしい友達って聞きませんし」とローストビーフを食べながら答える。


相変わらず小さいなと思いながらも私はナゲットを食べていた。


酔った薫くんは昴ちゃんさんを呼ぶ。

昴ちゃんさんは鷲雄叔父さんに「ちょっとすみません」と言ってから「何?どうしたの薫?」と話しかける。


お父さんは真面目に「なあ、なんでお前の嫁さんは貴子に優しいんだ?」と聞き、薫くんが今の説明をもう一度する。


「ああ、亀川と俺はこれ以上もこれ以下もない仲だからですよ。それに美空さんが甘えてくれるのは大歓迎ですし、美空さんも人として亀川を好きになっているからですよ」


この説明に鷲雄叔父さんは「龍輝、何度でも言ってやる。お前の負けだよ」と喜び、お母さんは「麗華!昴ちゃんと薫くんと龍輝のスリーショットだよ!撮って撮って!」と喜んで美空さんに「良かったよぉ。やっと龍輝が昴ちゃんと薫くんと仲良く話してくれたよぉぉ」と言って抱きついて泣いていた。


「ほら、亀川嬉しいって言ってます」

「おう…、でもこれ以上も以下もってワカンねぇ」


「んー…、龍輝さんの心配するような事はありえませんよって話です。俺は亀川に今以上の何かを求めません。求められても受け入れません。亀川だって俺がもし求めても違うと思って受け入れませんよ。亀川は酔っていない時には基本俺にくっ付いたりしませんよね?」


何という説得力。

昴ちゃんさんの言葉に美空さんはニコニコ笑顔だしお婆ちゃん達も嬉しそうに聞いている。


「だが!だがお前!世界が滅んでお前と貴子だけになったら!」


ガキかよ。

私は呆れてしまう。


「そんなもしもを考えたんですか?でもそれって鷲雄さんだって俺だって美空さんだって何があるかわかりませんよ?」


それはそうだ。

世界が滅んでしまって最後の男女がそれこそ歳さえ近ければお互いを支えにすると思う。

私だって嫌いな食べ物しかなくても生きるか死ぬかなら食べるだろうし空腹には勝てない。

でもお父さんは何でそんな究極まで考えてしまうのだろうか?ガキすぎる。


そんなガキなお父さんに昴ちゃんさんが「龍輝さんは違うんですか?」と聞くとお父さんは「俺は貴子一筋だ!」と即答した。


「なら亀川を信じてあげてください。俺は信じられなくても亀川の事は信じられますよね?」

この返しにお父さんは答えに困って「ぐっ…」としか言えなかった。


「龍輝、俺は何度でも言うぞ?お前の負けだよ」

鷲雄叔父さんの楽しそうな声にお婆ちゃん達も頷く。


ここで美空さんが「貴子さん聞きました?ご主人は貴子さん一筋ですって」と言うと「知ってるよぉ。知ってるのにヤキモチを妬くから変なんだよねぇ。だから冬に暴れた時も変だって言ったのにアイツわかってないんだよ」と言って呆れている。



「知っているんですって」

「…貴子…」


お父さんは懲りたようだが照れ臭かったのだろう。

八つ当たりのように薫くんを酔わせて潰してしまう。

昴ちゃんさんは「あらら、薫は限界の見極めが甘いなぁ。今度はもう少し断り方を覚えないとダメだね」とつぶれた薫くんの頭を撫でながら話す。

薫くんは「断れないよ父さん」と言っている。


「鷲雄さん、今日もすみません」と昴ちゃんさんが謝る時に美空さんがお父さんを見て「本当、ダメダメね。愚かな人」と笑いながら言う。


「え?何の話ですか?」

「だって、薫を酔い潰してどうするの?その場は良くてもほら」


美空さんが指差すとそこには新年早々酔い潰れて眠るお母さんがいる。


「あ…貴子…」

「ほら、自分の手でヤキモチの理由を作ってどうするんですか?」


そう、お母さんも薫くんも起こしたら吐く。

そして二日酔いになる。


夏の再来でしかない。

お父さんはヤキモチを妬いたのにすっかり忘れて目の前の欲だけで薫くんを潰してしまう。


結局今回もご馳走を貰って私とお父さんは帰ることになる。


今回もお母さんは寝惚けて薫くんにくっ付いて眠り「昴ちゃん?薫くん?どっちでもいいや、あったかい」と寝言を言い、薫くんは「貴子さん?また父さんと間違えてるのかな?大丈夫ですよ。父さんから貴子さんが困らないように日頃の恩返しをするように言われましたからね、泣いてくださいね」と言って酔い潰れたお母さんが泣きついていると思い込んであやしていたらしい。


お婆ちゃんとひばりおばさんはそれを見て楽しく笑って居た。


そして今回も恥ずかしそうに帰ってきたお母さんにお父さんはキツい言葉を言わずに「しょうがないな」と言ったら「本当ありがとう龍輝」と言われていた。


お父さんはここら辺でお母さんと鶴田家との付き合い方が更にわかって来たみたいで普通に受験前の追い込み時期には「薫、飯食ってけ。代わりに麗華の苦手な所を面倒見てくれ」と勉強の延長を申し込んでくれて、お母さんは「良かったね麗華!お父さんが麗華の為に薫くんにお願いしてくれたよ!」と言って「ありがとう龍輝!」と言われて「おう」と言いながら頬を染めていた。

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