5. スターマイン

 女王の国では日暮れに音楽、宵闇のお香、そして夏は空いっぱいの打ち上げ花火。

 隔離され、娯楽の少ない私たちを楽しませるためには少なくない税金が投入される。楽しませるためというより、変化の少ない「女王の国」の娘達が、退屈から余計な好奇心を抱きすぎないようにするためだろうけど。主に監視ロボットの目を欺ける死に方とかに対する。

 「国」の外では賛否両論あるらしいが、私としては有難い使い道だ。一応、一晩の退屈は紛れる。

 別荘の自室から華やかなスターマインを眺める。三連発。

 花火を横目にいったん窓際を離れた。

 サイダーを冷蔵庫から出してグラスに注ぎ、扉を閉じる。グラスを持ったまま花火の良く見えるテラスに出る。

 設置した白い布とライトには蛾が数匹群がっている。 今夜もいつもの羽模様だ。 毎年のことで、窓に寄ってくる種は取りつくしてしまったのかもしれない。

 見知った彼らを眺めながら冷えたグラスに口を付けた。甘くしゅわしゅわと口の中で弾ける炭酸には、花火に必要な風味がなくて物足りない。

 ラムネの味はどんなふうだったろうか。思い出せない。


 博士と出会い、運命が変わったあの夏。

 それより前の記憶はまるでどこかで見た古いアニメか映画のように非現実的でひどく遠い。


 盆踊りだとか、花火だとか、母に着せられた金魚柄の白と赤の浴衣だとか。

 もしここで私が浴衣を着てみたいと望めば多分手には入る。でも誰が私のうなじにドキドキして手を握ってくれるのだろう。

 ロボット?人外に恋をするほど冒険的にはなれない。

 女王の国には夏の夜も花火も(ひょっとしたら)浴衣もあるかもしれない。

 でも酔っ払ったおじさんの呼び声や屋台のソース焼そば、手を引く母にカキ氷をねだる幼児達の泣き声は、私の記憶の中に響く祭り太鼓は、もはやどこにもない。

 本当に私にあった出来事だったのだろうかとさえ思う。

 夜風が頬を冷やす。

 一階のガーデンテラスでは二十歳をすぎた女性達のグループがビール片手に踊ったり歌ったりしていた。

 木陰で性交をしている同性カップルもいる。


 そうしないとやっていけないのだ。

 私たちは。


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