3. 人工的な処女
緑が濃い。
汗がじっとりと腿の裏を伝う。
転落防止のネット越しに、遊歩道の柵と白浜、色とりどりのビーチパラソルがおもちゃのように小さく見える。
実際に海で泳ぐことは禁じられている。塩味のする人工プールで我慢しなくてはならないと聞き、私はますます海沿いの別荘地への興味を薄くしていた。
好きでもない男、というか監視ロボットのカメラに水着を見せつける趣味もないし。私たちに人を好きになったりデートしたりする自由はもはやないと分かっているけれど。
この女王の国には、乳幼児から三十代くらいまでの女性が数百人暮らしている。
日本には八つの「女王の国」が設置されており、おおまかに年代別で区切られている。他にもいろいろなデータを総合的に判断して「国分け」されているらしいけれど、よくは知らない。この国は私よりも年上の女性が多くて、ここで生まれたという娘も何人かいる。
今ではノンキャリアの女性は世界中で貴重な存在になったのだ。
まるで保護しなければならない、絶滅危惧種の昆虫達みたいに。
定期的に健康診断と実験時間を設けられているし、生殖可能年齢になったら卵子の提供もしなければならない(私もしている)。どこかに私の遺伝子を引く子どもがいるのかもしれないけれど、肝心の母親は処女なのだ。
すでに決まった伴侶が居て、奇跡的に夫婦ともに感染せずに生き延びた人たちを除いて、セックスも許可されていない。 卵子を提供するだけして、私生活では永遠の処女。 誠に遺憾ながら、私が医学の発展を祈る理由には「セックスができるようになりたい」というのも含まれている。この国にいる限り、恋人は否応なしにノンキャリアの女性限定だ。そうやって性別を超えた真実の愛を見つけた子達だっているかもしれないけれど。
年頃の女の子みたいな興味を抱くことくらいは許してほしい。このままでは私の一生に知り合った成人男性が、博士と菊地くんの二人だけになってしまう。
女性だけが保護される理由。
それは、女性には炎天死病の予防措置はできても、治療がほとんど不可能だからだ。
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