〜樹海〜
✡✡✡
彼女は歩いている。
それも今にも異界の霊が出そうな気味の悪い場所を一人で
ただ何かを求める様にふらふらと歩き続ける。
産まれたての子鹿のように 否、それ以下の物の様に。
草々が彼女の冷えた足元にぴとりとくっつく。
彼女に何かを求める用に、助けを求めているかのように。
けれど、彼女はやはり気づかなかった。
まるで存在のない 影のように
彼女は歩いている。どこか操られているかのように歩いている
playerが操作しているキャラクターの様に。
混沌を抱いた様な樹海の中に何故か自販機が置かれていた。
しかし彼女には果てしない一本道に時々自販機が置かれているのを知っていた。それは幸運でハッピーな象徴ともされる黄色がペンキでこれでもかと塗りたくってあるのだ。
彼女は今までにそれを何度も見てきては恐ろしく使おうとはしなかったが、今まるで魅力に騙されたかのように、或いは、
蝿取草に近ずいてくる蝿の様にその自販機に行ってしまった。
そして彼女は、慣れたような手つきでその自販機から何かを買った。 それは人形。でも決して可愛い人形、という訳でもなく 色は紫色の左耳が少し欠けているどこか奇妙な哺乳類の人形だった。 それに彼女はまた、喜んだ様な仕草を見せた。
はずがしがりやのように、小さく。黒く。
彼女は歩いている。一人で。黙々と。
やがて茂みの数が減り、生い茂っていた草々が嘘かのように消えていた。
彼女は雨で濡れたレインコートをパッパと払った。
不意に下を見る。彼女は少し疲れたように見えた。
人は常に歩き続けると何いずれは疲れるものだ。
その言葉通り、彼女はキョロキョロと光の見えないその目で当たりを見渡すと丁度、雨宿りができる場所を見つけ、
そこに潜り込み深い深い眠りへと落ちていった。
人間に睡眠は大切だ。例えどんなに超人でも眠らなければ死んでしまう。 かといって人間に必要なのは睡眠だけでは無い。
運動しなければいけない。それを最低級として表すと
「歩く」 という事になる。
歩くことは人間にとって最も簡単で最低度の運動方法だ。
否、人間は常に歩いている。歩かねばならないのだ。
言えば歩くことは人間との共同生命体であるのだ。
歩く、歩く、歩く、
考えれば考えるほど気難しいもの。
彼女にはこの気難しいものが全く耳に入っていないかのように
健やかに眠っていた。
✡✡✡
早朝、彼女が目が覚めるとそこあの樹海ではなく田々が広がっているあぜ道になっていた。
それは朝だからなのか不思議な世界だからなのか分からないが
薄々と白銀の霧が立ちこめている。
しかし彼女は歩続ける。恐怖心など無いかのように。
やがてひとつの家が見えた。
洋式の古臭い家。誰も住んでいないのか草々が家に絡まりついている。 だけど二階の窓にだけ明かりがついていたのだ
彼女の顔は霧でよく見えない。表情がない。
そしてまた冷酷な兵士の様にずかずかと歩き出した。
必ずしも前が正解とは分からない 「後ろ」という選択肢も会った。
しかし人間は興味心が強い生き物。気になるものがあればなんでも見たくなるものだ。それと同様彼女も前へ前へと歩き出す。
この古臭い家がこの無限的道路のゴールなわけがなかった。
霧がだんだん濃くなっていく やがて視界が白で埋め尽くされる。
彼女は目をこすった。 そして何処かから声がする。
[あの....。お客さんですか?]
✡✡✡
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