第3話 2-3

「因みに、もう分かった?」

と先生からの不意打ちがーッ。

「分かる訳ないじゃん!」

私と恵美の声が静まりかえった教室内でシンクロする。

「だよな」


「・・・ねえ、先生。ヒント下さいよ」

恵美が上目遣いで先生を見やる。

「だめだね」

「ケチ!」

西岡先生はヘラヘラ笑っていた。


 この程度であれば先生との会話も許されるし、回答の発言としては見なされないって事ね。勿論、恵美との会話や意思疎通はNGだろうけど。てか、対戦相手にそもそも自分の数をばらすような行為なんてしないし。


「数学の基は論理学だ。先ずは必死こいて考えてみな」

ろんりがく??何ですかそりは?

「で、どうよ?分かったかな?」

間髪入れず、先生から次の「分かった?」だ。

「だから分からないですってば!」

私は半ばムキになって膨れっ面になると、

「そうだよな~」

と、落ち着き払った顔で先生は仰った。

 


 カーン。カーン。またも心地の良いバットの音。しかも今度は二連発。

その音を合図にしばらく沈黙の時間が流れる。時間にして一、二分だっただろうか。

「苦戦しているようだけど、どうだ?お互いの相手の数は分かった?」

西岡先生の問いかけに、私と恵美は合わせて首を横に振る。どちらも声を発しなかった。

「まあ、そうだよね」

と、腕を組んでから考える素振りを見せる。


しょうがないな。そんな前置きがあり、

「ヒントをやろう」

と、ささやかな天のお恵みが降ってきた。

「よっしゃ!」

恵美がガッツポーズを取った。私はあまり反応を示さなかったが、恵美と同じく心の中でガッツポーズ。

「一から考えてみな」

「え?イチから?」

反射的に私の口が動いた。

「そう。そのままの意味だ。『1』から考えてみろ、って事だ」

「『1』から考えてみろ?」

オウム返しの恵美。西岡先生が力強く頷く。

「以上。ヒントおしまい」

「え~!今のがヒント?全然分かんないんだけど・・・」

私がこのように申し入れても、先生はそれ以上口を開こうとはしなかった。



 なになに?「1」からってどーゆー事ッ!?何言ってんの?サッパリだよ。もう嫌。数学なんてホント嫌い。

いっそのこと、当てずっぽうに賭けてみよう。だって五十パーセントで当てられるもん。


 ふと、恵美のほうを見る。彼女は腕を組み、思案顔を浮かべていた。もしかして恵美はこのクイズのからくりに気付きつつあるの?再度ちらっと恵美の表情を伺う。分かっていないのか。それとも何かを掴みつつあるのか。どちらなのか、結局分からなかった。案外、恵美はポーカーフェイスなのかも知れない。まさかこんなゲームで恵美の新たな一面を垣間見る事になるとはね。


 よし!と、心の中で呟く。もう少しだけ考えてみよう。恵美にそう簡単に負けてたまるもんですか。

再度、西岡先生からのヒントを思い出す。「1」から考えてみろ。・・・「1」から考える?「1」から。

 ・・・ん?待てよ。もし私が見た数字が「5」ではなく、「1」だったらどうなるんだろう。その場合、恵美が見た数字は「0」か「2」になる。



 あ!「0」なんて有り得ないじゃん。だって「1」以上の数なんでしょ?すると、すぐに恵美が「2」だって分かるじゃない。だから先生に「分かった?」と訊かたらすぐに答えられるよね。「1」だったら別に訊かれなくてもすぐに答えられるか。でも、もしかすると「分かった?」と訊かれる事に何か意味が有ったりするんじゃない?


思ったんだけど、分かった?と訊かれて「分かるわけないじゃん!」て返すと、「だよな」とか「そうだよな~」って言ってたのは何でだろう。訊いてくる回数に何かからくりがあるのかも!

 

 良いじゃん良いじゃん。光が見えてきた。解けるかも!晴天のお正月の元旦みたいな、スカッと心が晴れ渡るこのカンジ。待ってましたぁ!やれば出来る子なのよ。聡子は。さあ、レッツロジカルシンキング!・・・えっと、じゃあ次は「2」だった場合はどうだろう。その場合、恵美の数は「1」か「3」になる訳だから・・・。



カーン。



 ダミだ。分かんない。ロジカルシンキング?論理学?何ソレ。食べ物?そういえば、朝ごはんは何食べたんだっけ?それすら朧気だわ。何でだろう・・・。

 そうだ。テレビ観ながら食べてたからだ。占いに気を取られてたんだっけ。


確か、今日の私のラッキーナンバーは「4」。


 「4」!?そうだわ!私の今日のラッキーナンバーは「4」なのよ。ボールがバットに当たる心地良い音も、さっきでちょうど「4」回目じゃない!


「どうよ?分かったか?制限時間も残り四分になったぞ」

西岡先生の「分かった?」も、今ので「4」回目を迎えた。そして制限時時間も残り「4」分。


 従って、恵美が見せられた数字は「4」。



・・・そうよ、そうよ!「4」に決まってるのよ!論理よりも、私にはラッキーナンバーがある!!ッ。

恵美の数字は「4」。それしか有り得ない。

 他の人から見れば当てずっぽうだったとしても、確率的に五十パーセントだったとしても、私にとっては百パーセント「4」なのよぉーーッ。

 

 興奮が抑えられなくなって来た。思わず息が荒くなりそうだ。落ち着け、落ち着くのよ。聡子。ラッキーナンバーの「4」に全てを委ねるの。

 

 不意に先生の「4」回目の「分かった?」から、結構な時間が経過したような感覚を覚えた。これまでの流れからして、制限時間までに次の「分かった?」が来る。きっと来るッ。いけない。いけないわ、聡子。急がねば。「5」回目の「分かった?」が来るその前に答えるのよ。「4」回目の「分かった?」の内に回答するの。

恵美の数字は「4」だって答えるのよッ。


早く。

早く早く。

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く。

 よおし!答えるぞぉぉおーーーッテュ。

「4」だって答えてやるゥゥウウウーーーーーーーーーーWRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――――――――ッ。



「先生、分かりました!恵美の数字は『6』です!!」


西岡先生は今日一番の苦笑いを浮かべた。




問:この勝負の結果はどうなったでしょう?

  ※聡子の心境に嘘偽りはないものとします

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