第3話 2-2

「さて、それでは今回も数当てクイズをやろう」

またかよ!と思いながら恵美と目が合う。しかし、正解すれば帰れるというご褒美が待っているので、

口には出さずにいた。きっと彼女の胸中も同じに違いない。

もっとも、早く帰れるのは正解出来たうえで、私の恵美のどちらかになるのだけれども。


 西岡先生が徐に携帯を取り出し、画面をタッチしている。何かを打ち終わると、恵美のほうに見せた。

私からは画面は見えないが、きっと何かの数字が書かれているのだろう。

「今見せた数字をよく覚えておけよ」

「了解です!」

恵美が敬礼のポーズをとった。先生は再び携帯の画面をタッチし始めた。


 と、その時、ガラガラと教室の後方の戸が開く音がした。

私達三人が振り向くと、そこにはクラスメイトの結菜が立っている。

結菜は一瞬ハッと驚いた顔をしたが、すぐこちらの事情を察知したらしく、

「すみませーん、忘れ物を取りに来ました」

と、申し訳なさそうに笑いながら、そそくさと自分の席に駆け寄った。


 結菜。彼女はこのクラスの学級委員。明るく気さくな性格で、お嬢様のような見かけとは裏腹にサバサバとした話し方をする。

自分の容姿を鼻にかけるような態度もない(そもそも本人も顔面偏差値なんかに興味ないのかも知れない)。

そんなギャップが男子からも女子からも受け、誰とでも仲が良い。勿論、恵美と私も、結菜とは一緒によくお喋りをしたり出掛けたりと、懇ろな仲だ。


おまけに頭も良く、運動もできると来たもんだ。容姿端麗。才色兼備。それらの言葉がピッタリと当てはまる、そんなクラスメイトだ。非の打ちどころがないように見える彼女だけれど、強いて一点だけ短所を挙げるとするなら、好奇心が強すぎて何にでも首を突っ込みたがる点かな。・・・と、結菜の紹介は一先ずここまでにしておく。



「じゃあ、仕切り直しだ」

と、西岡先生が私の方に携帯の画面を見せて来た。今度は恵美からは画面が見えないように。真っ白なディスプレイには数字の「5」が映っている。

「聡子も今の数字をしっかり覚えておけよ」

「はーい」

私に見せられた数字は「5」。心の中で改めて呟く。

「よし。今からこのクイズ・・・、というよりも、ゲームにも近いかな。そのルールを説明しよう」



西岡先生が説明してくれた内容は次の通り。


・私と恵美に見せた数は「1」以上の数(整数)

・私と恵美には連続した数字をそれぞれ見せた

・制限時間は十分

・対戦相手は恵美(恵美からすれば私(聡子))

・制限時間内に、相手側の数を答えられた方が勝ち(補修なしで帰れる。ここ大事)

・自分が外せば相手側の勝ち(相手が補修なしで帰れる)

・それ以外は引き分け(二人で仲良く補修を受ける。が~ん)

・制限時間をオーバーしても引き分け

・クイズ(ゲーム)中、私と恵美の間での会話は勿論のこと、何か合図を送り合うのも禁止(こちらも引き分け扱い)

・回答の発言権はゲーム中一回のみ


「先生はこのクイズのからくりを知ってるからな。当然っちゃ、当然だけど」

絶対に勝てる訳じゃないけど、どう振る舞うのがベストなのかを知っている。

そう告げると、含みのある笑顔を浮かべた。


私に見せられた数は「5」だった。だから恵美が見た数は「4」か「6」という事になる。それぐらいは私にだってわかる。

 だけど、・・・どっちだよ?からくりなんて、そんなものあるの?考えて分かるわけ?矢継ぎ早に脳内を疑問の渦が駆け巡る。

「ってか、分かるわけないじゃん!確率でしょ、こんなの。一か八かの五十パーセントでしょ!?」

私の頭よりも口が先に喋り出す。


先生は含み笑いを浮かべたままだった。

「では、始めようか」

西岡先生が私と恵美を見回した。

「負けないよ~聡子!」

意外にも恵美は冷静だ。

「あ、あたしだって!」


私も何とか平静を装う。まさか、恵美はもうこのゲームのからくりに気づいたの?

・・・いや、申し訳ないけど、そこまで頭がキレッキレの訳はない。

だって、一緒に数学の補修を受けているくらいだもの。そうでしょ?落ち着け、落ち着くのよ。聡子。

このゲームには心理戦の要素も含まれているのかも知れない。


「ゲームスタート!ッ」

先生が勢いよく告げると、いよいよゲームの幕が切って落とされた。


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