第1話 2-2
それだけ雪かきに集中していた、ということになるのだろう。
怜希が家の扉を開ける。玄関の靴脱ぎには長靴が四足とも綺麗に並べられていた。
四つ子達は友達の家や親戚の家など、他人の家に行った際は必ず履きものを揃えるよう躾けられている。
四女は雪だるまを作ったすぐ後に家の中に入っていったため、
恐らく彼女のであろう長靴は、既に完全に乾ききっていた。
他の三足の長靴も乾き始めている。しばらく長靴を見つめていた怜希は、
ふとその四足の中の一足が気になった。
そして、なるほど!と納得顔になり
「雪だるまにイタズラしたのは、ついほんのちょっと前ってことね」
と呟いていた。
怜希はすぐさま四つ子達を玄関先に呼び出すと、雪だるまがイタズラされていたことを説明した。
「あなた達の誰かがイタズラしたことは分かっているんだからね」
怜希が順に四つ子達の顔を見渡す。
「え~、やってないって」
四つ子達は皆一様に否定した。
「正直に言いなさい」
怜希が強めの口調で言い放つ。四つ子達は皆少しすくみあがった様子だ。
しばしの間の沈黙。
正直に名乗り出て欲しかったが、一向にその気配はなかった。どうやらイタズラ犯は
どうしても自分の犯行を隠し通すつもりらしい。
三女「ママ、誰がイタズラしたかなんて絶対に分からないと思うよ」
と、ここで三女が口を開いた。
「いいえ、実はママには誰がやったのか目星はついているのよ」
怜希はそう言うと、四つ子のある一人の娘を見つめた。そして、
「あなたがやったんでしょう。今なら正直に言えば許してあげるよ」
と続けた。
するとその娘はびっくりした様子で
「え? あたしじゃないよ!」
と返してきた。
「嘘おっしゃい。正直に言いなさい」
「嘘じゃないよ」
「・・・本当?」
「本当だって!」
怜希は自分の考えに迷いが生じるのを認めながらも、
一応もう一人の別の娘にも同じ質問を試みた。
案の定、前の娘と同じような返答だった。
必死に訴える二人の娘達の目を見ていた怜希は、この二人は本当に雪だるまにイタズラしていないのではないか。
そう思い始めていた。
自分がおなかを痛めて産んだ子供達だ。表情や話し方の特徴から子供が嘘をついているかぐらい、見分けられる自信がある。
この二人ではない。怜希は確信を持った。
では、雪だるまにイタズラをしたのは一体誰なのか?
雪だるまの頭が置かれていた場所から玄関へと続いていた一人分の足跡の大きさは、
確かに四つ子達のサイズに間違いない。怜希は思案顔になっていた。
しかし、ここで怜希の脳裏にある言葉が思い出された。
その瞬間、軽い電気ショックを受けたような気分を味わった。
怜希が言葉を発するまさにその直前、一人の娘が、
「ママ! 誰が雪だるまにイタズラしたのか分かったよ」
と叫んでいた。すると怜希も、
「ママも分かったよ」
とその娘に向かって返答していた。
先程の娘が怜希を含めた四人の前で自分の推理を述べる。
それは怜希の考えたそれとほぼ同じ内容のものだった。
「つまりイタズラをしたのはあんたね」
そう言いながら、推理をした娘がイタズラ犯を指差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます