第7話 チートで俺の人生を設計してみる!

今日こそホテルに泊まろうと思っていたのだが、店先のバランと目が合ったので軽く談笑する。


忙しくて食事をする暇がなかったようなので、露店で買ったカロリーメイトみたいな携帯食を差し入れた。


二人でポリポリとカロリーメイトを齧りながら、「鶏肉の卸が儲かるのか?」を尋ねる。


バランは余程正直なのか、『俺は世間に疎いから分からない。』と答えたので、その話は打ち切った。




その後、ホテルに帰ろうとしたタイミングで内臓回収の荷車が来たので、積み込みを手伝った。


結局、今日の報告をしながら解体道具の片づけを手伝った。


バランは謝礼を渡そうとしてきたが、流石に貰い過ぎなので遠慮しておく。


結構汗をかいたのでシャワーを借りて、ついでに仮眠室を借りることにした。








「チート、なんかゴメンな。 俺、最近ずっと手伝って貰ってるよ。」




『いやいや! こっちは余所者ですんでバランが色々教えてくれて助かります。』




「なんか上手くやってるみたいだけど。  君、商売人をやってるのか?」




『商売人ってほどじゃないんですけど… 転売で楽して喰っていけたらって思ってます。』




「テンバイ?」




『俺の地元で流行ってるんですけど、商品を安く買って高く売るというか…


右から左に転がして利鞘を稼ぐというか…』




「ああ、商社の一人親方だな。」




『あ、はいそれです!』




「じゃあ魔石取引とかも手を出す訳?」




『言いにくいことなんですが


今日、早速儲けさせて頂きました…


あの… 魔石売買ってあんまり良く思われないんですよね…』




「うーん。 俺は解体屋だから魔石を商ってくれる人を悪く言えないんだけど…


嫌がる人は多いねえ。  楽して稼いでる、みたいな。」




『ははは。 怒られるかも知れませんが、俺も楽して稼ぎたいです。』




「怒らない怒らないw 俺だって商才さえあればもう少し楽をするんだけどねw」








そういう他愛もない話をしてから消灯した。


灯りを落してから、バランは何かを考え込んでいたが…






「なあチート。 俺と組んでくれないか。」






と頼んで来たので承諾してから眠った。


かなり動き回った所為か、すぐに熟睡出来た。








朝飯。


異世界人は葛湯みたいな飲み物を朝に飲む習慣があるらしい。


漢方薬みたいな臭いがして如何にも身体に良さそうだ。


ついでに細かく刻んだ干し肉も食卓に出される。


幼馴染が乾燥工房に勤めているだけあって、バランは干し肉に困った事がないらしい。


『何の肉ですか?』


と尋ねると、ホーンラビットとのこと。


バランが冒険者が持ち込んだホーンラビットの余り肉を幼馴染ドランさんに横流しして、ドランさんが干し肉加工したものがバランにお裾分けされるスキームだそうだ。


貧乏な二人はこのスキームで何とか生き延びてきたとのこと。






『昨日の話ですけど。』






「ん?」






『ほた、寝る前に組もうって言ってくれたじゃないですか。


バランなら大歓迎ですよ。』






「おお、深夜のテンションでも言ってみるもんだな。」






『いや、この街に知り合い居ないんで本当に助かります。


俺、今まで働いた事無くてお役に立てるかわからないんですけど。』






「いやいや! チートには凄い商才があるじゃない。


いきなり魔石取引で利益出すなんて凄いことだよ。」






『解体で美品を出せるバランが一番儲かるように見えるんですけど…』






「うーん、解体屋に所有権は無いからねえ。 


美品をどれだけ出した所で、そんなにメリットないよ。」






『解体屋で獲物を買い取ってから、美品魔石を取り出して自分で取引するのはどうでしょうか?』






「元手が無い上に俺は売買の駆け引きとか出来ないから…」






『…そうですか。』






「だからチートに全部任せるよ。」






『?』






「不器用な俺よりも、商才のあるチートが絵を描いてくれた方が儲かると思う。


勿論取り分はチートが決めてくれて構わないよ。


俺は解体以外に取り柄ないからさ。」






『…バランを利用して儲けを産む方法を考えればいんですね?』






「うん、それ。


俺も若い頃あれこれ考えたんだけどさ。


どうやら企画の才能がないらしいw」






『いえいえ。


あ、じゃあ魔石の相場とか業界常識とか教えて下さいよ。


仕事手伝いながら聞かせて下さい。』






「え? 流石に悪いよ。」






『今は情報以前に、この街の常識を覚えて行きたいんです。』






「わかった。 じゃあ、本当に申し訳ないけど毛皮の箱詰め手伝ってくれるか?


午後にはドランが引き取りにくるから。」








こういう経緯があったので二人でぺちゃくちゃお喋りしながら、大型毛皮をクルクル巻いて箱詰めしていった。


ドランさんの勤め先の乾燥工房で衣料用に加工するらしい。


この日バランに聞いた事は魔石の市況事情。








【魔石相場】




この近辺で流通量の多い魔石は以下の5種類。




・ホーンラビット   (一番ポピュラー 食肉・魔石共に需要大)


・ワイルドオックス  (食肉が高く売れる。 魔石は取り出すのが難しい)


・ベア系全般     (討伐報酬が高い。魔石は栄養剤の材料として重宝される)


・トード系全般    (毒袋・魔石に薬品需要。 解体難しい)


・スネーク系全般   (美品魔石は高値で売れるが、かなり解体難しい)




相場に長けた者なら、この5種類の魔石を転がすだけで人並み以上に稼げるらしい。


(そんな名人100人に1人もいないそうだが。)




魔石は基本的に薬剤精製の際に触媒として使用される。


キズの大きさに反比例して触媒としての消費期限が短くなるので、美品とそれ以外では価格が著しく異なる。


冒険者が狩りのついでに美品魔石を狙って解体することもあるのだが、屋外では難しい。


故に解体料を支払ってでも解体屋に魔物の死骸を持ち込むケースが散見される。


なので、魔石を取り出し易い個体や魔石価値の乏しい個体が解体屋に持ち込まれる事はまずない。


先日、アンダーソンが持ち込んだロングスネークなどは解体が難しい上に魔石価値が高いので、珍しい魔物ながら頻繁に解体屋に持ち込まれる。










で、俺が一番知りたかった情報。


『取引量が多く、かつ値動きが激しい魔石』


についてである。






「それならトード系が鉄板だよ。  見るかい?」






そう言ってバランが赤紫色の魔石を見せてくれる。


ラグビーボールの様な形状だ。






「理由は簡単。 万能解毒剤の原料だからさ。


で、トード系の魔石は痛むのが早い。


細かいキズが一本あるだけで寿命が一週間になってしまう。


材料として使えなくなってしまうんだ。


なのでキズ物はポーション屋に買い叩かれる。


でね?


魔石のみならず製剤の万能解毒剤も消費期限が短い。


完璧な保存状態でも6か月を過ぎると急速に効力が低下する。


にも関わらず、軍隊が遠征する際、必ず万能解毒剤を用意しなくてはならない規則がある。


だから常にトード魔石は必要とされる。


でもトード自体は割と弱い魔物で、かつそこら中に沸いている。


だからトード魔石は供給量も膨大で、タイミングによっては魔石買取価格が暴落する。」






『軍需品ってことは、軍の作戦状況に価格が左右されるってことですね。』






「そうなんだ。 遠征が急に中止される事もあれば、リザードやオークとの戦線が急拡大して臨時出撃の編成が組まれることもある。」






『如何にも騰落が激しそうですね。


相場師が好きそうな銘柄ですw』






「トードで破産する人は多いよw


取引もかなり駆け引きが激しいしね。」






『駆け引き?』






「みんな持ってる情報は絶対に出さないからね。


ちょっとした価格情報で本当に相場が動いちゃうからね。」






『バラン。 もしトードの魔石が手に入ったら。


俺に売りに行かせて貰えませんか?』






「いいよ。 客から買い取っとこうか?」






『あ、流石に自腹切ります。


ただ買い取り交渉は俺にやらせて下さい。』






「オッケー。


じゃあトード系の持ち込み客が来たらチートに繋ぐよ。」






『ありがとうございます!』








これは勘だけど。


トード魔石売買はハマればボロい。


そして俺のこの【心を読む】能力があれば、必ずハメることが出来る筈だ。






「補足しておくね。


トードに関しては強さや種類に関係なくサイズで価値が決まる。


大と小の2種類しかない。


大の美品は10万から4万のレンジ、小の美品は8万から1万のレンジで値段が動く。」






『値動き幅デカいですね。』






「そうなんだよ。


しかも普段は下に張り付いている。


そして、ある日突然大暴騰して、数日で底に戻る。」






『陰湿な銘柄だww』






「しかも暴騰を知ってても買い取り側は基本的に情報を隠すからね。


まともな取引をしたいなら美品の現物を見せながら交渉しなくちゃならない。」






地球の株式取引と違って価格が公表されないのはキツいな。


反面、実需があるらしいから石ころにはならない。


結構面白いなw


【心を読む】能力の実験台としては丁度いい案件だと思う。






その日はトード系が持ち込まれなかったので、一日中まな板を洗浄していた。


昼に乾燥工房のドランさんがやってきてナツメヤシのスパイス漬けを食べさせてもらった。


それと、協力者特典ということで、仮眠室のクローゼットを丸々使わせてくれることになった。


物を置くスペースは地味にありがたい。


神の奴も下らない福引ごっこをやってる暇があったら、アイテムボックスの一つでも寄越せばいいのに。




奴らの居場所は標準座標≪√47WS≫


奴らの目的は『狂戦士のプログラム』を入手すること。






改めて脳に刻みなおす。


別に転売ヤーになる事は目的ではない。


楽して遊んで働かずに暮らす事が俺の目標。


で、俺達地球人を利用している≪√47WS≫の奴らに何か報復してやる。


それが第二目標。


まあどのみち、このグランバルドでの生活を軌道に載せる必要があるけどな。






『ドランさん。 この街で金持ちって言うと幾ら位貯金があればいんですか?』




「貯金? ああ手持ち金貨か。 金持ちはキャッシュで1億ウェンくらい持ってる事が多いな。」




『じゃあ俺も頑張って1億ウェン溜めます!』




「ん? 貧乏人が現金持ってても危ないだけだぞ? 


チート君は家も無いんだろ?」




『あ、そうですね。 この街の人ってカネが溜まったらどうしてるんですか?』




「いや、普通は身分を買うだろ。  配当が無いと老後とか大変だし。」






おーう。


ここら辺は地球と全然違って面白いな。


グランバルドには銀行っぽいものが都会にしか存在しない。


なので貧乏人や田舎者はまとまったカネが出来ると身分を買うらしい。


高い階級を買うと配当金が貰えるとのこと。


また身分を売る事も可能なので、市民権や居住権は割と頻繁に売買されている。


これは魔石と違って相場が可視化されており、オープンかつ公正に運用されているとのこと。


(魔石市場がカオス過ぎる所為だが。)






目標が明確化されて、心理的な負担が少し減る。


何だかんだ言って慣れない異世界でゴールが見えなかったからな。




01、魔石転売でまとまった財産を手に入れる


02、身分を買って働かず悠々自適の立場を手に入れる


03、帰還&≪√47WS≫への報復手段を探す。




とりあえず、上記の3ステップを狙おう。


カネはいいペースで溜まってるしな。

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