第6話 チートでプロ(笑)の目利きを超える!

冒険者ギルドに入って、併設のラウンジで休む。


先日は意識しなかったが、確かに《冒険者》とは別種の《冒険者の取り巻き》っぽい連中が存在した。


心を読んでみると、取り巻き連中は冒険者に対して洗濯や掃除、武具の手入れを請け負っている業者だった。


商店の店員も居ればフリーランスの者も居る。


彼らは午後になると冒険者の帰還を待ち、馴染みの冒険者に営業を掛ける。




で、魔石も普通に売買されていた。


冒険者ギルドの買取価格が低い為、どうしても転売サービスが横行するらしい。


相場が結構動くらしく割と派手にカネが動いている形跡があった。






『あのお。 魔石…』






ラウンジの隅に陣取っている転売ヤーの群れに話し掛けてみる。


談笑していた彼らは一斉に沈黙してこちらを睨む。


冒険者ほどゴツい者は居ないが、全員要領の良さそうな顔をしていた。






「何か用か坊主?」


【見慣れない顔だな】






転売ヤーのリーダーらしき白髭の老人が警戒を隠さずに問いただして来る。






『魔石の取引って誰でも出来るんですか?』






「ウチらは素人さんお断りだよ!」


【ふー、焦ったぜ。 ギルドからのクレームかと思ったじゃねえか】






『素人じゃないです。 少なくとも相場は俺の方が皆さんより詳しいですよ。』






「ハア!? 舐めてんのか小僧!」


「この業界は青二才がどうこう出来るほど甘くないよ!」


「居るんだよねぇ。 聞き齧った知識で勘違いする子。」






改めて見渡してみると、みなそれなりに年齢が行ってる。


一番若そうな男でもどう見ても30代だ。


ある程度経験が必要とされる業界なのかも知れない。






「相場は遊びじゃねえんだ。 


アンタみたな若い子から見れば割のいい小遣い稼ぎに見えるかも知れないが。


我々はこの街の流通の一端を真剣に担っている!」


【まあ、それは言い過ぎだが、真剣なのは確かだ。


実際問題、魔石売買は難しいわりに利幅も薄いしね。】






まるで株式取引だな。


などと思ってると、突然リーダーの隣にいた小太りの男が寄って来る。






「相場は水物だ、遊びで触ると火傷するぞ。


安定している筈のホーンラビットの魔石だって今日みたいに暴落するケースがある。」


【ケネスのパーティーがアホみたいに乱獲して持ち込んだ上に、商都がいきなりダース入荷して来やがったからな。 当分はポーション屋も買い取りを渋るんじゃないか…】






『確かにケネスさんのパーティーがあんなに狩るなんて思いませんでしたよね。


商都からの大量入荷と被ってしまいましたし。』








小太りの男は驚愕して声を漏らす。


周囲がざわつき始めた。






「お、おまえこのレベルの最新情報をど、どこから…」


【嘘だろ? 何で? 商都の馬車は昼過ぎに着いたばかりだぞ?】






どこから、と問われれば《貴方の心です》としか答えようがない。


勿論、そんなバカげた回答はしないが。


今度は老人が威圧する様に一歩前に出る。






「坊主。 ワイルドベアの魔石は幾らだ?」


【美品で8万、キズ物で1万が今の相場だが、どう答える?】






『美品なら8万くらいでしょうか? キズ物なら1万がいい所ですね。』






「おおお!」とメンバーがどよめく。






「この程度で騒ぐんじゃない!


肉屋の息子ならこの位の知識はある!」






老人がメンバーを一喝する。






「次の質問だ。


ランドケロッグの美品が品不足なのは何故だ?」


【帝都でB型解毒剤の大量生産が始まったからだが…


恐らくは中規模の遠征隊が編成中なのだろう…】






『B型解毒剤を帝都が大量に作ってるからだと思います。』






「答えになってないな。


それは表層的な理由に過ぎない。」


【それだけなら薬屋の丁稚でもわかることだ】






『遠征隊… それも中規模のものが編成中なのではないでしょうか?』






「なるほど。


その歳にしちゃあ、お勉強はしてきているようだな。


だが、そんな事は知識や情報さえあれば素人でも答えられる。


俺達プロはそれだけじゃやって行けねえ。


経験に根差した目利きが出来なきゃ通用しねえ。」


【知識面は合格、だな…】






リーダーの発言に周囲が湧きたつ。


「そうだそうだ、プロは目利きよ!」


「情報3年 目利き10年の世界だからよお!」


「素人さんに目利きは無理!」






一通りメンバーに騒がせるとリーダーは机の上に20個の魔石を並べた。






「この魔石がキマイラだということはわかるな?」


【実はキマイラ魔石に似ているがサンドキャンサーなんだよなあ。


東に行けばポピュラーな魔物だが、この街じゃ存在を知ってる奴の方が少ない。】






『あー、これはサンドキャンサーですね。』






「…初歩的な詐欺対策も出来ている、か。


若いのに中々のモンだ。


じゃあ、ここからが本題。


ここにある20個の中に一つだけキマイラ魔石を混ぜてある。


それを当ててみろ。」


【ふっw 我ながら意地の悪い問題を出しちまった。


何をムキになってるんだろうな俺w


通常、サンドキャンサーとキマイラはサイズの違いで判別する。


だが幼体キマイラの魔石となると、丁度サンドキャンサーの魔石とサイズが被ってしまう。


故にプロでも判別には苦しむ。 


俺くらいになると光の反射率の僅かな違いで見分けるがな。】








「リーダー大人気ないぜえ。」


「ははは、こんなの俺でも苦しむのに。」


周囲がぼやき始める。


まあ難題なんだろうな。








「最終試験だ!


これに正解出来たら取引に入れてやるよ。


この中にあるキマイラの魔石を当ててみろ。


おっとただ選ぶだけじゃ駄目だ。


5万ウェンで買い取れ。


もしもキマイラを当てたら最低でも70万ウェンの大儲けってことだ。


まあサンドキャンサーみたいなゴミ魔石に5万は痛すぎると思うがなw


どうだ?


この尻尾を巻いて逃げ出してもいいんだぜ?」


【よし左から2番目。 何度も確認したから間違いない!


もう一度水平に…  よし左から2番目以外にあり得ない。】






俺は無言で左から2番目の魔石を掴むと、その場所に5枚の金貨を置いた。








「なっ!? ノータイムだと!!!????」


【ば、馬鹿なあああああ!!!!!】










『しばらくこの街に居るんで、また色々と教えて下さい。』








俺は彼らに会釈すると買取カウンターには寄らずに冒険者ギルドを出た。


そこに居た全員が心の中で【キマイラの魔石なら城門側のゴードン雑貨店が高く買い取ってくれる】と言っていたからだ。


プロがそういうのだからそうなのだろう。




ゴードン雑貨店を探し出して驚いたのは、さっきの古道具屋が番台に座っていたからだ。


隣の老婦人は奥様だろうか?


ゴードンには正直にギルドでの経緯を話した。


どうせこの男に貰った情報だ。


買い取りを拒否されても諦めがつく。






「凄いねキミw


さっき別れてから1時間くらしか経ってないんじゃない?


丁度今帰って来て、妻にキミの話をする所だったんだよ。」


【話が出来過ぎているが…


誰かの仕込みか?


キマイラ魔石を高く売る為の?


いや、勿論これは本物だから欲しいんだけどさ。】






『すみません。


何か引っ込みつかなくなってしまって。』






「しかしキマイラ魔石なんて相場がブレる物を…


これ一種の博打だよ?」






『70万でいいですよ。』






「おいおい70万って言ったら」


【この子相場わかってんのか?】






『最低価格なんですよね?』






「いやいや!


だったら!」


【ポーションを自作できるウチなら


今の相場なら95でも美味しい買取値なんだが…】






『さっきの授業料です。


これからも色々教えて下さい。』






ゴードンは大金貨7枚と金貨5枚の計75万ウェンを並べると、小奇麗な異世界風の衣装をおまけにくれた。






うーん駄目だな。


今回は0点!


確かにチートを利用した金儲けだが、イレギュラー過ぎる。


こんなイベントが毎回発生する筈もないし、第一目立ちすぎる。


俺の目指すチート金儲けというのは完全ステルスでなくてはならない。




魔石売買グループには小まめに挨拶するとして、もうちょっと目立たない手法を考えなきゃな。



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【前回までのネタバレ】


・主人公が飛ばされた場所は実は異世界ではなく、月の内側に作られた人工世界


・「神」を自称する者の正体は、標準座標≪√47WS≫の下級公務員


・標準座標≪√47WS≫は地球を全宇宙会議に招聘する義務を遂行せず、戦争奴隷の製造工場としている。(宇宙憲章違反)


・転移先に存在する《魔族》と呼ばれる人型モンスターは遠方の惑星から転移させられてきた異惑星人。


・標準座標≪√47WS≫は戦争奴隷を量産する為に《狂戦士バーサーカー》のスキルを探している。

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