第5話 心を読むチートでカリスマ転売ヤーになる!
【今回の設定厨】
01.この異世界は月の内部に作られた人工世界
02.地球からの転移者は概ね《前線都市》なる城塞都市周辺に着地する
03.《前線都市》はグランバルド帝国なるほぼ人間族のみで構成された国家の最辺境
04.帝国の通貨単位はウェン。 物価指数的に1ウェン=1円のレートと言っても過言ではない
05.主人公は【心を読む】スキルを身に着けている。 対象の内面を活字と音声で確認可能
06.魔物の体内には魔石と呼ばれるエネルギー結晶体があり、製薬や動力源に用いられている
07.主人公は不細工でひ弱でコミュ障。 考えられる限り最低スペック。
08.主人公はガチの生ポ民、祖母・父・自分と3代に渡って公共の福祉に寄生し続けて来た。
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父の厳格なニート教義では転売すら禁止されていたが、俺は転売くらいは労働に該当しないんじゃないか、と思っていた。
「駄目だよ! チート君! 転売も立派な労働だよ!? どうしてそんなことするの!
パパが生ポを貰えなくなっちゃうじゃない!!!」
父の叱責により密かな夢であった転売ヤーへの進路を断念していた俺ではあるが、異世界に来てしまった以上もう慮る必要はない。
元手もある、心も読める。
この状況下の転売くらいなら、父の教えには背かないのではないだろうか?
解体屋の手伝いで入手した20万ウェン。
俺のチートスキルを駆使すれば、転売で大儲け出来る筈なんだ。
要は恒常的に買取が行われている商材を安く買い取る事が出来れば成功なのだ。
無論、作戦も思いついている。
と言っても複雑なギミックではない。
「この店って買取もやってるの?」
と覗いた商店で聞いて回るだけ。
回答の是非は関係ない。
コアな情報は相手の【心の声】に浮かぶに決まっているのだから。
まずは食品露店だ。
異世界堪能も兼ねて一番安いものを買い食いし続けていく。
地球に居た頃は父さんが無駄遣いをさせてくれなかったから、美味しそうな食べ物をチョイスしていく作業がそもそも楽しい。
焼き鳥っぽいものを売ってる店。 (3本1000ウェン)
ドロドロのお茶っぽいものを売ってる店。 (1杯500ウェン)
蜂蜜を乾燥させて固めたようなものを売ってる店。 (1袋1000ウェン)
一昨日ホテルで食べたカロリーメイトを売ってる店。 (1箱500ウェン)
結構、ボリュームあるな。
買ったはいいが、食べきれないのでカロリーメイトは蜂蜜袋に仕舞う。
露天商たちの反応は予想通り。
【こんな小商いで買取もへったくれも無いだろう】
との心の声。
お茶屋には面と向かってそう言われた。
唯一、焼き鳥屋だけが【誰かが横流ししてくれたら独立出来るんだが…】と心中でぼやいた。
そう、俺はこういう情報を集めたいのだ。
つまり焼き鳥の露店商は自由に食材を入手出来てない。
恐らくは経営者から高値で食材の仕入れを強要されているのだろう。
で、精肉店なりなんなりが裏ルートで食材を仕入れさせてくれたらペイする、と。
俺は試しに探りを入れてみる。
『それにしてもこんな大量の肉を焼くなんて大変ですね。 仕入れだけでも相当な額になっちゃうでしょう。』
これで十分。
焼き鳥露天商は嫌でも仕入れを意識する。
「いやあ、まあこれが仕事だしねえ。」
【元締がエグいからなあ… フランチャイズなんて絶対にキロ500以上ボッタくてくるからな…】
はい、ビンゴ。
このスキルはやはりチート。
ノーリスクで業界相場わかっちゃいました。
キロというのは重さの単位。
(何故地球と同じ単位を使っているのかは枝葉末節の話なので、後日の俺に考察させる。)
要は1キロの鶏肉を500ウェンというのは相場から見て高いのだ。
高値での仕入れを強要されてるので露天商は儲からないが、売りつけている元締は儲けている。
で、恐らくはこの街の肉屋には協定があって露天商に対しては高値でしか卸してくれない。
或いは他社の売り子に対して卸してはならないルールがある。
なので彼は誰かが食材を割の良い値段でこっそりと卸してくれる事を待ち望んでいる。
OK。
上出来だ。
別に転売品目を鶏肉に決めた訳ではないが、情報は掴み方は覚えた。
この要領で商売人の心を読み続けて行けば、すぐに俺だけの相場表が脳内に書き上がることだろう。
鶏肉に関してはバランと再会した時にでも教えて貰おう。
いや。
…情報乞食は嫌われるかもな。
何かお土産でも持って行こう。
その後も個人の露天商を冷やかして回る。
やはり飲食系が多く、素人から買取をする習慣は無い。
ただ買取の話題を振ったら、皆が脳内で買い取りについて思いを馳せてくれるので助かる。
【買取なんて冒険者ギルドかポーション屋… 後は鍛冶屋くらいじゃね?】
【子供の頃は拾った屑魔石をいっぱい集めて薬屋に持って行ったなあ。】
【ウチの息子はいつも、壊れた武器を鍛冶屋に下取りして貰ってるけどなあ。】
【冒険者ギルドはボッタくり! 若い頃滅茶苦茶買い叩かれた!】
【基本的に表通りには持ち込まないけどな。 買い叩かれるから。】
有用だった【心の声】は上記の5つ。
買取を行っている業種を把握できたのはありがたい。
特筆すべきは、これらの情報を得るのに30分も掛からなかった点だ。
思わず笑みがこぼれる。
いかんいかんw まだ笑うなw カネ儲けは目立たずに進めなきゃなw
腹が膨れた俺は、薬屋(ポーション屋と同義)を回る事に決める。
偏見かも知れないが、鍛冶屋は怖そうなイメージなので後回し。
一軒目の薬屋は表通りの立派な店を選んだ。
こんな便利な場所にある店舗が最高価格で買取ってくれる訳がないからだ。
実験は捨てても良い場所で行う。
言葉で探ろうとして入店するが、買取カウンターに行列が出来ていたので後ろに並ぶフリをして【心を読む】ことに集中する。
【魔石以外も買い取ってくれたらなあ。 他は牙骨も買い取ってくれるのに】
【たっくウチは大店だぞ。 こんな屑魔石持ち込みやがって。】
【あーあ、ギルドの指定店じゃなければ、こんな糞ぼったくり店じゃ査定出さないのに!】
【ギルドのご用達だからって足元見やがって! いっそ裏通りの個人店に持ち込んでやろうか!】
【ラージベアの美品魔石なら普通15000ウェンは超えるだろ!】
いいねえ。
大規模店の副産物。
他の客の本音!
想定してなかっただけに嬉しい。
そっかそっか、そうだよねw
何も俺が聞き取りのリスクを冒さなくても、こういう大規模店で客と店員のやり取りをのぞき見するだけでいいんだw
楽勝じゃんw
なるほどね。
薬屋では魔石や牙骨を買い取ってポーションを製薬している、ということ。
そしてメインは魔石。
立地の悪い個人店の方が高く買い取ってくれる。
人によってはギルドから指定されて、ここにしか持ち込めない者も居る。
ちなみに、この情報を獲得するに要した時間は3分だ。
コスパが素晴らしい。
俺は駄目元で買い取りカウンターで口論していた冒険者風の男に声を掛けてみる。
『お兄さん災難でしたね。 この店、そんなに厳しいんですか?』
「ああッ!?
…って、アンタは店員じゃないのか?
そうだな、ココはちょっと買い取り相場おかしいよな。」
【やべえやべえ。 一瞬ここの丁稚と思って八つ当たりしそうになっちまったぜ】
冒険者の男は一瞬俺の胸倉を掴みかけたが、すぐに思いとどまった。
ゴツい見た目に反して理性的な男なのかも知れない。
『急に話し掛けちゃってすみません。
俺も魔石買い取ってくれる店を探してたんです。』
「何だ? 兄ちゃん冒険者? そうは見えないけど?」
『あ、解体屋の見習いって言うか…』
「ああ、丁稚さんね。 お使いご苦労さん。」
【だろうな、こんなヒョロい小僧が冒険者な訳がない。
…ん? 待てよ。 解体屋かぁ…】
ゴメン、バラン。
俺勝手にアンタの丁稚になっちゃったよ。
『最近弟子入りしたばっかりで右も左もわからないんですけど。』
「ああ、新人あるあるだな。 俺も駆け出し冒険者の頃はそんな感じだったよ。」
【解体屋かぁ… コイツらはコイツらで絶対に独自のルート持ってるよなあ。】
『昨日はロングスネーク捌きましたw』
「おお、そいつは災難だったな。 あんなヌメヌメした生き物、持つだけで一苦労だろうに。」
【そっかぁ。 たまにモンスターを買い取ってる解体屋もいるものなぁ。】
『今も臭い残ってますよww』
「わかるわかるw あの臭い取れないよなw」
【親方が個人店なら紹介してくれないかな…】
なるほどね。
冒険者にもしがらみがあって、指定店以外には売りにくいのだろう。
今まで解体屋に相談しなかったのは、そもそも解体業者にモンスターを買い取る習慣があまりないからだろうか?
暗黙の了解で禁止されているのかも知れない。
んー?
何だ?
さっきからゴールが解体屋ばっかりだぞ?
ひょっとして意外に旨味のあるポジションなのか?
一つの業種に依存するはよくないよなあ。
あー、でもバランの事は嫌いじゃないから、別にいっか。
『俺、チートって言います。
最近、バランって親方の店に出入りさせて貰い始めました!』
「ああ、自己紹介がまだだったな。 俺はポール。 パーティー《群青》所属のC級冒険者だ。」
【最近昇格したばっかりだけどね。 あーあ、せめてBまで行かないとハッタリ効かないよなあ。】
この世界では自己紹介の際に定宿かパーティー名を告げるのがマナーらしい。
まだ宿を決めてないので勝手にバランの住み込み弟子と名乗っておく。
その後も食品系以外の大規模店舗を巡る。
3階建ての鍛冶屋には冒険者っぽい男達がたむろしており、《誰が強いか》という他愛もない話で盛り上がっている。
ここで判明した事は以下の通り。
・冒険者にはFからSまでのランクがある。
・生活に困っている者や行く当ての無い者はふつう冒険者ギルドに登録する。
・この前線都市は帝国の果てにある為、問題を起こして逃げて来る者が多い。
・女冒険者はガチ勢と高級売春婦の2種類に大別される。
・冒険者は死亡率が高い上に装備の損耗も激しいので、そこまで割に合わない。
・冒険者に限らず、資産を溜めた者は隣の商都で身分や不動産を買うのが一般的。
・銀行っぽいサービスも存在するが、資産は身分に換算するのが一般的。
・高い身分には配当が支払われる。 市民権自体が証券のように扱われている。
強いとモテるが弱くてもイケメンならモテるという情報も入手したが、この情報は地球で既に知っていたのでスルー。
身分かぁ、儲かったら買おうかなぁ。
ここは階級社会っぽいし、身分が無いと相当不利なんだろうなあ。
カネ儲けの合間に身分の相場もそれとなく意識しておこう。
鍛冶屋の客は怖そうな冒険者が多かったのだが、日用品コーナーへ行くと少し雰囲気が和らいだ。
コーナーの客の心を読むと料理人や大工だったので彼らに雑談を持ち掛けてみる。
『この街にきたばかりなんですよー。』
から始まる無難な雑談を端緒に、徐々にカネの話にシフトしていく。
一番乗って来た古道具屋に相手を絞って話をする。
バランの解体屋からも近く共通の話題で盛り上がった所為もあるだろう。
古道具屋が好意的な上に博識だったので魔石相場・転売の可否について尋ねてみる。
結論から言うと魔石の転売をしている連中は居る。
そういう話題は冒険者ギルド内で上がるケースが多い。
冒険者自身が転売を行うケースは少ない(軟弱者と舐められるらしい)のだが、冒険者の取り巻きが転売や下取りを行い、ちょっとしたマーケットを行っているようだ。
俺は感動した。
おお!
ラノベじゃ見ない機能だな!
そっかそっか、あの施設にはそんな使い道があったのか?
その情報を得るなり俺は古道具屋に礼を言い冒険者ギルドに向かった。
これだけ順調に情報を手繰り寄せて、まだ日が高い。
それが俺が興奮しているり理由だった。
人間、お得感がある事には勤勉になれる。
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