第8話 チートで中年非正規の人生設計を手伝ってみる

「なあチート。 明日本社の人間が来るんだけど。」






『あ、俺どっか行ってますよ。』






「辞表出すから立ち合ってくれない?」






『え!? 解体屋辞めちゃうんですか?』






「昨日ずっと考えてたんだが…


独立するよ。


まあ独立って言っても、解体業以外は出来ないんだけどね、ははっw


チートを見てて刺激を受けたんだ。」






『なんかすみません。


俺の所為で…』






「俺もこの歳まで芽の出ない勤め人だったけど。


チートが組んでくれたら、もっと上に行ける気がするんだ。」






『責任重大ですけど…


全力でサポートします!


多分、バランの役に立てると思います!』






「ありがとう。


心強いよ。」






その日も仮眠室に泊まる。


辞表が受理されたら、即座に追い出される可能性もあるのでバランは自分の荷物を全部カバンに纏めてしまっていた。


明日の退職に備え、ざっくりと情報を交換する。






・この世界では退職に対するペナルティは無いが退職金は出ない。


・商都に本店を持つこの解体会社は慢性的な人材不足。


・商都本店ですら人手が足りていないので、この前線都市に回す余剰人員は無い。


・恐らくは引き留めてくるだろうが、給料は上がらない。


・そもそも自分は会社から評価されてない


・自分が退職した場合、高い確率で会社はこの物件を手放す。


・というより会社は前線都市から撤退する。


・自分がこの街で開業した場合会社のシェアを取れるが、それをすると商都を出禁になる。






バランの見解は上述の通り。


で、俺は本店の【心を読んで】バランの退職交渉を優位に持って行くのが仕事。


バランはあまり眠れない様子だったが、俺は意識して早めに寝た。




翌日の昼過ぎ。


本店の番頭が帳簿チェックも兼ねて定期視察に来る。


言うまでも無く番頭の第一声は「この子誰?」であった。


打ち合わせ通り『バラン師匠に弟子入りしたくて押しかけちゃいました』と答える。




「へえ、バランさんも出世したねえ。


あ、念の為言っとくけど、会社から人件費は出ないよ?


ゆとりないし。」


【前線都市への予算はもっと削る予定だからねえ。


バランさんが自腹でこの子を雇ってくれたら助かるんだけど。】




あまりに想定通りの回答に、バランと顔を合わせて驚く。






「番頭さん。


これを…」






面倒臭くなったのか、バランが無造作に退職届をテーブルに置く。






「あっ!?」


【やばい!】






心を読むまでもなく、番頭の顔色が変わった。






「え? ちょ? バランさん? え? ちょっと待って!」


【やばいやばいやばい! この事態は想定してなかった!


え? 嘘? バランさんその歳で辞めてどうするの?


まあこの人、腕は断トツだから誰かサポートすれば独りで食っていけるんだけどさ】






ああ、やっぱり職人としてのバランは評価高いんだ。


ただ「その歳で」「マネージャーさえ付けば」っていうコメントも本音で、いい歳こいて1人じゃ何も出来ないと思われてたんだろうな。


だから最低賃金でコキ使われてたんだろうけど。






「バランさん。 待遇への不満なら私の権限で改善交渉出来ますよ!」


【まあ僕にそんな権限ないんだけどさ。 ウチの社長ケチだからなあ…


待遇下がる事はあっても上がることなんてないよなあ。】






「あ、そういうのはいいんで。」






俺がアイコンタクトを取る必要すらなく、バランは番頭の本音を喝破していた。


まあそりゃあ、何十年もブラック企業に勤めていたら会社の体質とか社長の性格は嫌でもわかっちゃうよね。






「バランさーん!  その歳で転職とか大変でしょう! 僕はバランさんの為を思って申し上げてるんですけどお。  もう半年だけ我慢して貰えませんか?」


【今人手不足だから職人は困らないんだよねえ。 僕みたいなホワイトカラーは地獄だけど。


あー、このオッサンに辞められたら僕の査定に響く! 口八丁で時間を稼げないか…】








「じゃあ、話終わったんで出て行きます。


チート行くぞ。」




『はい、師匠。』






「ちょちょちょ! バランさん! 話し合いましょう! 大至急本店に掛け合ってきます!


貴方にとってもいい話だと思いますよー!  変な辞め方しちゃうと後が大変な事になりますよー!


ね? 冷静になってお互いの為に話し合いましょう!」


【いや! 切れるカードは無いんだけど! 俺は業界長いから分かるが、このパターンだと退職者への嫌がらせすら出来ない。 法的にも契約的にもこの急な退職に問題は無い!  何故なら弊社はバランさんを準社員のまま放置していたから! 告訴しても負ける! ワンオペを突かれると絶対にこちらが処罰される! 解体屋という職業柄、目撃者は多い筈だ。  法廷に持ち込まれるとウチがやばい。】






はい、本音頂きました。


まあ、この番頭さんは動揺が顔に出過ぎだ。


別に心が読めなくても状況は把握出来る。






俺とバランは打ち合わせ通りダッシュして店を去った。


番頭が背後でパニックになっていたが、打ち合わせ通り無視。


その後、あらかじめバランが抑えている宿に荷物を置いて、俺だけ解体屋に戻った。




さあ、ここからが本番。


俺の能力がこういうマジな場面で本当に使えるのか?


この番頭で実戦訓練をさせて貰う。






ある程度時間を置いて解体屋に戻ると、さっきの番頭が丁稚らしき少年に怒鳴り散らしている。


丁稚少年は下を向いたまま番頭の八つ当たりに堪えていた。


番頭は戻ってきた俺と目が合うと慌てて作り笑いを浮かべて近寄って来た。






「やあ、君! チート君だったよね?


何? 戻ってきてくれたの?」


【コイツが命綱! コイツが命綱! 


何とか繋ぎ止めなきゃ今期の給与査定がヤバい!】






『あー、どうも。 


バラン師匠がコインケースを忘れたらしくて


取って来いって命令されてきました。』






「わ、忘れ物?」


【ん、待てよ?】






『ええ、白い革袋をベッドサイドに置っぱなしにしてしまったらしいんですけど。』






「へ、へえ。 そりゃあ大変だ。」


【よし、これを交渉の糸口にしよう!】






『ちょとだけ入らせて貰っていいですか?』






「ちょ、ちょっと待ってくれ!


君はバランさんの弟子であって、正式なウチの社員じゃないよね?


バランさんが退職の意思を申し出た以上、会社の建物には立ち入りを許可出来ないなあ。


いや、規則だからね?」


【さ、流石に無理があるか…】






ここまでは想定内。


シナリオは打ち合わせ通りに進んでいる。






『ああ、それなら結構です。』






「え? 財布でしょ?」


【え? ちょ待っ!】






『師匠が「断られたらもういい」と仰っていたので。


それじゃあ。』






「ちょ! ちょっと待って! 困る! それは困るよ!


我が社が退職者の私物を横領したように見えてしまう!」


【ヤバい! ヤバい! ヤバい! 選択肢ミスった!


駆け引きが裏目に出たぁ!】






『いや。 師匠もそこまで大事には考えてないみたいなので。


それじゃあ俺はこれで。』






「ま!  待って!  話をしよう!  少し私と話をしよう!


バランさんにとっても悪い話ではない! いい話だから!」


【どうしよう… 完全に辞め終わった人間の反応じゃないか…


これ引き止め無理だな…】






『え? はい。  まあ話位なら。』






「おいラルフ! 何か飲み物買ってきなさい!」


【この近くに食品店とかあったっけ? まあええわ。】






番頭は丁稚少年に銀貨を数枚渡すと、俺に解体屋内の椅子を勧めた。






「ち、チート君。


バランさんはこの先のキャリアについて何か言ってたかな?」


【いや、あの人解体しか能の無い人だから…


この街でフリーの解体屋を始めるに決まってるんだが…】






『あー、どうですかねえ。 最近は師匠の御友人方が独立を勧めておられたので…


この辺に賃貸物件でも借りるんじゃないですか?』






「な、なるほど。  友達に独立を勧められたのね。」


【中年退職あるあるだよなあ。 色々周りが吹き込んだのね。


はいはい、状況把握っと。


ここに後釜を入れた所で、バランさんとの競合だと負ける可能性あるなあ。】






思った方向に話題を誘導出来た。


さあ、ここからは相場の聞き出しタイムだ。






『師匠は賃貸でも毎月40万ウェン程度の出費で済むって言ってるんです。』






勿論、そんなことバランは一言も言ってない。


わざと相場より高い的外れであろう家賃を想定して言ってみた。






「ん?」


【ん?】






番頭が表情を急変させた。


相手の隙を見つけた時の表情だ。






「へ、へー。 40万ウェンですかぁ~  バランさんがそう仰ってましたかぁ~」


【ふふふ、馬鹿めw あー所詮は腕自慢の職人さんだよねえw


この店舗でも維持費込みで10万行ってないよww


まあ、ウチは現場に明細教えてないから当たり前なんだけどw


ぷぷぷw 笑いが止まらんw 駄目だまだ笑うな! バランの無知は利用できる!


それにしてもw ぷぷぷw  世間知らずだねぇw


中央がこの前線都市を棄てようとしてるのは明白じゃないw 


リザードの軍隊がいつ攻め込んで来るかもわからない状況でさww


だからぁw こんな大通り沿いですらテナント料が10万まで大暴落してるんだよw


この間取り商都なら最低200万は行くねw


まあココと商都じゃそもそも経済規模が違い過ぎるんだけどねw


あーあ、あの人なーんもわかって無いなあw


どうせ変な業者にはめ込まれてるんだろww


いい歳こいてほーーーんと馬鹿ww】






はい、ありがとうございます。


番頭さんの思考が相場の方に向かいました。


プロのご意見、もっと伺わせて貰いますよー、っと。






『それにしても番頭さん。』






「ん? 何だね?」


【飲み物まだかな。】






『番頭さんはキャリアも長そうですし、テナント選びとかも得意そうですね。』






「おいおーいw  勿論、私はプロとしての経営眼を持っているけどさあw


立場上アドバイスとかは出来ないよー。」


【ふふふっ馬鹿めw その手には乗らんぞw  


チート君、今雑談のフリをして敏腕番頭たる私の助言を乞おうとしたね?


ぷぷぷのぷーw  まだまだ若いねぇw 私に駆け引きを仕掛けるには十年早いかなw


確かに、テナント選びは私の得意分野だよーw


何を隠そうこのテナントを10万ウェンで借りれたのも、私の選定眼あってのことだ。


まあ、私がバランさんの立場だったら?  簡単に独立成功させちゃうけどねw


それにしてもw 40万ww  40万ってw アンタ何年この仕事やってんだよw


ばーかw  私なら冒険者ギルドの隣の食肉工房跡を借りるね!


ボロいけど5階建てで、地下室も完備!


コンラッド精肉店が事業縮小の為に撤退して、もう何か月も埋まってない。


あー、この街の奴らってほーんと商才ないよねえ。


どうせ冒険者はギルドに集まるんだから、多少高くてもギルドの隣に陣取っちゃえばいいのに。


私なら絶対そうするね。


前に募集広告見たんだけどさあ。 50万で募集してたでしょ?


私が交渉すれば40万以内に収まるんだけどなあ。


だってあれでしょ? 業者以外はあの建物使えないんだからw


内見はしてないけどさ。 精肉の居抜きなら解体・乾燥・製薬くらいしか入居出来ないでしょ?


私ならそこを突いて30万ウェンで賃貸申し込みするねえ。


で、当然押し戻されるから、契約は35万ウェンくらいか…


ははっw バランさんよw アンタが掴まされるボッタくり物件よりも安く一等地を取れちゃったw


これが才覚の差って奴かなw ははははw


そうだな、うん。  


俺がフリーハンドで前線都市に支店を出す権限を貰えたら…  


うん、冒険者ギルドの隣一択だな。


このテナントを選ぶ時に前線都市の不動産はかなり見たからね。


相場は私が一番詳しいかもねww


まあ教えてやらないけどww】






おお、流石に番頭さんだなあ。


僅か数秒でシミュレートしてくれたし。


数字が全部頭に入ってるタイプか…  


まあ管理職ってこれくらいじゃないと務まらないか。


いやあ、いい情報を貰えた。


でもこれで、【心を読む】能力の真の活かし方が分かった。


これは賢かったり物知りな相手の心を読む時に真価を発揮するスキルだ。


頭のいい人間って、ちょっと話題を振っただけで全情報を頭の中に羅列してくれるんだよね。


考え方もされているし。


正直、露店商の心を読んだ時は、相手の思考が遅い上に鈍くて苦労したので、番頭さんみたいな切れ者は助かる。


一方的にカモれる。


この人と会うのは最後かも知れんから、もう少し聞き出しておくか。








『それにしてもバラン師匠も頑固ですよね。


番頭さんの話を聞いてあげたらいいのに。』






「ん! んん!  ははは、いやバランさんは真面目一徹な人だから!


わ、我々もちょっと彼とのコミュニケーションに失敗していたのかもねぇ。」


【お?  チート君は我々に理解的なのか!?  まあ、そりゃあそうだろ。


弟子入りした相手が大手に勤務しているか、フリーランスかでは今後のキャリアが変わるからな!


この子とは連絡先を交換した方が良いか?】






『番頭さんも大変ですねえ。 こんな機材、持って帰るだけでも一苦労でしょう。』






「ん?  ああ、いや…  そうだね、持って帰るのも一苦労だ。」


【おいおい素人かよ(苦笑) 運送費考えろってなあw


もしテナント閉めるなら、この街で投げ売りしてから撤退するよ。


この解体台とかメーカーの高級品なんだけど、買い叩かれるだろうなあ。


売るとしたらあっちの古道具屋一択になってしまうんだけど…


嫁さんと細々ポーション作ってる、あの辛気臭い店w


あ、ポーションで思い出した。


これ私が思いついたビジネスモデルなんだけどさあ。


薬科大学をドロップアウトしたようなフリーの薬剤師とか居るよね?


ああいう連中を住み込みで雇って、キズ物魔石でひたすらポーション作らせたら儲かるんじゃない。


あーでも駄目だあ。 インテリさんは我々みたいな解体屋を嫌がってるからなw】






『まあ俺も頑張って修行して、いつか一人前の解体屋になれるよう頑張ります!』






「うんうん、その意気その意気 応援してるよ~ 頑張ってね~」


【コイツあほやwwww  解体屋みたいな賤業で一人前になってどうするんだよw


この仕事はねえw 器用な冒険者や余裕のある精肉店が片手間でやってる作業を代行してるだけなのw


あーあ本当に馬鹿だなあw  まあバラン如きに弟子入りする粗末な脳味噌だから仕方ないかw】






『解体屋ってやり方次第で儲かりますよね!』






「そうだね、努力して腕を上げれば君も市民権を買えるくらいにはなれるよ!」


【おいおいw  脳味噌にウンコでも詰まってんのか?


確かにやり方次第で儲かるよ?  


でもそのやり方を考え出す能力がないからオマエの師匠は最低賃金でコキ使われてるんだろ?


私なら儲ける自信あるけどね。


例えば料金体系を変えるとかねw


ほら、バランさんってコミュ障だけど解体だけは上手な訳じゃない。


ワンオペで美品連発とか神業だと思うんだよね。


じゃあさあ、他の一般作業員と同じ料金体系で仕事請け負ってることに疑問持たなきゃ。


バランさん程の腕前なら無報酬でもペイ出来るのよ。


ただで解体する代わりに魔石だけを貰うとかね。


トード系とかスネーク系ならその条件で喜ぶ冒険者は逆に多いと思うよ。


どうせ屋外解体で美品なんて出ないんだから。


あー、そういえば昔そういうシミュレーションしたことあるなあ。


バランさんの半分でも腕前があれば、無料解体の方がどう考えても儲かるんだよねーww


まあ教えてやんないけどw】






あー。


流石に番頭を任されるだけはあるな。


この人、考えて仕事してる人だ。


与えられた仕事だけじゃなくて、自分の意思で動ける人。


尊敬に値する。






『じゃあ俺は一旦戻りますけど。 番頭さんもしばらく滞在されるんですよね?』






「はははw 私はこの後の乗り合い馬車で本店に帰るよ。


社長に怒られるためにね。」


【笑いごとじゃないんだよなー。  あー、マジで今期の査定終わったな…】






『え? てっきり店番をされるものかと。』






「ん?  ああ、店番ねえ。」


【そうだな、一応稼働させとくか…  


ああ、あのノロマでいいわ。


お、丁度戻って来たしw


連れて来て良かった。】








飲み物を抱えた丁稚少年に番頭は「遅い!」と一喝した。


そして2本ある片方を俺に押し付けてくる。






「チート君。  商都に来ることがあればホプキンス部材会社の本店を尋ねてくれたまえ。


番頭のウッドマンと言えば、すぐにわかる筈だ。


コホン、こう見えて私は工業街でもそこそこ顔は効くんだよ。


最近では商工会の寄り合いに出席する事も増えてきてね。」


【ふふふ、どうだい?  オジサン結構凄い人なんだよ?】






「じゃあ、ラルフ。


予定は変更。  しばらくオマエ。


ここで店番しとけ。」






「え! あ、あのボク帰ったら休暇の予定で…」






「じゃあ、ここで休暇を取ればいいじゃない。


たまには知らない街で羽根を伸ばすのもいいと思うよー。」






「え!?  いや!?  そんな急に言われても!」






「これ業務命令だから。


大丈夫大丈夫、すぐに帰してやるから。


幾ら新入りとは言え、ホーンラビットの解体程度なら一人で出来るよな?」






「そ、そんなァ…」






「小遣いやるから、これで凌いどけ。


5000ウェンやるよ。 良かったじゃなーい。


私って本当にいい上司だよなあ。」






「あ、いえ!」






「若いうちは買ってでも苦労しなきゃ。


じゃあ任せたからな!




それじゃあチート君。


もしバランさんの気が変わりそうならすぐに手紙頂戴。


君からも説得してくれると嬉しいな。


もし君が説得してくれれば1万ウェン支払うよ。


あ、そうだ!  私の権限で本店に勤務できるように取り計らおう!


そうだそうだ、それがいい!  是非そうしなさい。


折角働くんならさ、前線都市なんかじゃなくて、花の商都の方がいいだろう!


ね? 悪いようにはしないから、もう一度バランさんと話し合ってみて。


あ、これ私の名刺ね。


それじゃあ、チート君また会おう!」






こうして番頭は喋るだけ喋って、情報を俺に渡すだけ渡して去って行った。


新入り丁稚のラルフ君は茫然としている。






「あ、あの兄弟子。」


【これからどうしよう。】






『ん?  あ、俺のことですか!?』






「あ、はい。  何か急にこんなことになっちゃって…


ボク、どうしたらいいんでしょうか?」


【いや、もうこの会社辞めよう。 


やっぱり初日で辞めたジャック君は正しかったんだ…】






『ラルフ君ですよね? この会社の本店に勤務している?』






「はい! と言っても新入りですけど。」


【と言ってももう辞めたいんですけど。】






『宿泊費とか…』






「こういう場合、丁稚は店の仮眠室に泊まるのが通例なんです…」


【他に選択肢もないし。】






『あ、なるほど。


食事とかは?』






「いや、5000ウェンで何とかしろってことなのかも…」


【いや、この金額でだけどうしろと。】






『ラルフ君、良かったらバランの宿に一緒に来ますか?


食事は多めに確保してるからお裾分け出来ると思うんです。』






「あ、いや!  ボクは下っ端ですし!」


【そんな! 支店長クラスの方の宿なんて怖くて行けない!】






『多分ねえ。 バランは若者に優しいタイプだと思う。


俺も職人さんって怖いイメージあったんだけど、


あの人は物腰柔らかいし。』






「え!?」


【物腰が柔らかい人は好き!】






『どのみち、一旦店舗閉めなきゃ。


シャッター降ろすの手伝いますよ。』






「あ、お願いします!


その前に!  バラン師匠の財布取って来ます!」


【会社辞める相談をチートさん達にしよう!】








どのみち。


不器用な俺ではバランの手伝いは出来ないので、誰か解体業に慣れた人間をスカウトして紹介するつもりだった。


別に俺、解体屋になりたい訳でもなんでもないからね。




だから、こうしてラルフ君を引き抜く事に決めたんだ。


多分、この子はバランと相性が良い。

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