和貴と式神ズ
渚杜が気を失っている間、黒緋と裏柳は和貴のいる療養室に移されていた。と言うのも、目を覚まさない主を心配した二人が泣き出してしまったからだ。しばらくはそっとしておいた柊乃だが、さすがに怪我人の体に障りそうだと判断して二人を和貴に預けたのだ。
「かずきぃ……、主が起きなかったらどうしよう……!」
「……っ、縁起でもないこと言わないで。主様は眠っているだけだって柊乃様も言っていたでしょ」
鼻水と涙を流しながら訴える黒緋とは対照的に瞳に涙を溜めるだけで泣くのを堪えている裏柳に挟まれて和貴は困惑していた。
柊乃から「すみません、ちょっと子守りをお願いしますね」と言われて押し付け……否、頼まれてしまってから数時間が経過していた。和貴が何を言っても二人は泣き止まない。
「……卯月、早く目を覚ましてくれよ……。二人とも泣いてるぞぉ~」
呟いたところで渚杜に届かないことは知っている。
(ほんと、早く目を覚ましてくれよ。お前には言いたい事たくさんあるんだからな)
助けてくれたこと、目の事を知っても受け入れてくれた初めての友達。彼から貰った言葉は和貴に勇気を与えた。幼い頃、妖に兄を殺されてから大事な人を失うことが怖くて臆病になっていた和貴は何を言われてもその通りだと受け入れ、死に場所を探していた。
「かずき~! 聞いてる!?」
「聞いてるよ。そうだ、二人とも助けに来てくれてありがとう。あいつにも後で言うんだけどさ、二人にも言っておきたくて」
「主様の命ですから」
間髪入れにそう言った裏柳に和貴は「そうだとしても、だよ」と二人の涙を拭いながら微笑んだ。黒緋と裏柳はキョトンとする。
「あ! お礼にお菓子でもどう? 簡単なものなら作れるよ」
「お菓子!」
「和貴、作れるのですか?」
先程まで泣いていた式神たちはコロリと表情を変えた。こういう所は見た目通り子供のようだ。表情を輝かせる二人に今度は苦笑が零れる。
「二人はどんなお菓子が好き?」
「和菓子!」「洋菓子、です」と二人は同時に答える。
「……同じじゃないんだ」
うーん、と唸り声を上げながら和貴は思考を巡らせた後、立ち上がった。和貴の後を二人が追いかける。和貴が向かった先は学生寮。学生寮の一階は食堂があり、そこには自由に料理が出来るようにキッチンが併設されている。
食材などは自己管理することになっており、和貴は自室からいくつかの食材を取って来ると食堂で料理を始めた。作るのはホットケーキ。急遽作ることになり、今ある材料で二人のリクエストを同時に叶えるにはトッピングを変えるしかないと考えた末の結論だった。二人の式神は和貴が作るホットケーキを不思議そうに眺めていた。出来上がったホットケーキを頬張る二人は泣き顔から笑顔に変わっていた。それを見て和貴は安堵する。
(それにしても、この子たち式神、だよな? 普通の式神は食事なんて出来ないはずじゃ……)
ふと浮かんだ疑問は食べ方の違う二人を眺めているとどうでもよくなった。食べ終わり、再び療養室へ戻ろうとしていたところに式神たちが何かの気配を察知した。
「主が起きた!」
「和貴、主様が目を覚ましました!」
主の目覚めを感じ取ったらしい。嬉しそうに飛び跳ねる黒緋と、和貴の手を握り早く行こうと引っ張る裏柳。和貴にとっても渚杜が目を覚ましたことが嬉しくて急ぎ足になる。三人は医務室へ急いだ。
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