第28話「盗まれた俺のパンツ」
時雨が向かいのアパートに越してきてから1週間が経ち、ようやく兄妹になった生活に慣れてきた頃。
俺の親父と沙苗さんは新婚旅行に出発した。どうやら二人とも有休を取得したらしく、関西の方に行ってくるらしい。なんで関西なのかは置いておくとして、結婚してすぐ近くに住ませて、血のつながっていない男女をこうも簡単に一緒にさせていいのかと思う。
——まぁ、二人とも色々と忙しかっただろうし、こういう時こそ好きにさせてあげるべきだよなと時雨と考えがあったので言うこともなく笑顔で見送った。
かくして、始まった姉さんとの二人暮らしだったが意外にも姉さんは「せっかく兄妹になるんだから、時雨ちゃんも沙苗さんいない間はうちにおいでよ」と時雨を誘っていた。
今までの姉さんなら「私のユウちゃんは誰にも渡さない!」と言ってどんな女子もはねのけていたって言うのにどういう風の吹き回しなのか。
とは言っても、俺と姉さんでそこそこ大きな家を使うのは寂しい気持ちもあるし時雨が来るのは嫌ではないから了承した。
これから家族っぽく振舞っていく上で色々と壁もあるから積極的に話していきたいところだな。
学校帰り、久々に時雨と二人で帰っていると姉さんからメッセージが届いた。
「ん、どうしたのよ?」
「あぁ、姉さんから連絡」
「雄太って結構お姉さんにべったりよね……」
スマホを見ようとしていると隣を歩く時雨はなぜか薄目をしてくる。
「なんで薄目なんだよ」
「ジト目って言いなさいよ」
「はぁ」
まぁいいやとメッセージに視線を戻すと「夕飯用のお米と豚肉を買ってきて」とのことだった。
「買い物してきって」
「買い物かぁ……あ、そういえば私もお弁当作らないとだよね」
「え、あぁ――そう言えばそうだったな」
思えばこっちに越してきてからも合間を見つけて弁当を作ってくれたがさすがに家族になってまでそれをするのもなと感じていた。
せっかくのいい機会だし、もう作らなくていいよと断っておくか。
「なぁ」
「ん?」
「そのさ、お弁当のことなんだけどさ」
「うん。もしかして美味しくなかったりした今日?」
「え、いやいや、うまいよ。うまかったんだけどさ。ほら一緒に住んだりしたらあまり作りづらいだろ? だからもう作らないでいいって言うかさ」
すると、なぜだか時雨はだんまりした。
何か悪いことでも言ったかな。
ちょっと怖くなってきたので続けて――
「——あぁ、いや。ほんと不味いとか、食べたくないとかそう言う話じゃなくてさ、家族の目とかもあるし、だいたいあれって俺が時雨のその……あ、アレなところ見て口外しない代わりに交わした約束だろ? だから、もういいって言うか。別に言う気はないし……」
「それはそうね」
何とか弁明すると分かってくれたようで安心してホッと肩を撫でおろした。
しかし、すぐに振り返ってこう言ってくる。
「でも、私――作るの嫌じゃないし」
「え?」
「作るの嫌じゃないから、別にやめたくもない」
「え、いやでも家族としてさすがにばれたら――」
「家族だからって作らないことはないじゃん。それに、将来のためにもっと料理も勉強しておきたいし」
「……まぁ、そうだけど」
「だけど?」
傾げながら見つめてくる時雨。
確かに時雨の言う通りで姉や妹が作ったりするのはおかしくはないが状況が状況だ。
さすがに、見ず知らずの男女が兄妹になったっていう設定にしているのにいきなり弁当も作ってあげるともなると怪しすぎる気がするし、それをバレるとリスクもある。
なんて言ったって姉さんには俺が時雨を狙っている――というか、また好きになってしまっていることがバレてるし。いよいよ危うい状況になることだってある。
まぁ、もしも時雨がいつも家族の分まで作っているなら別だが。
「時雨っていつも作ってるのか?」
「え、うん。この前のみたいにいろいろ忙しいときは無理だけど、いつもはママにも作ってるわよ?」
「そ、そうか」
「何よ、それがなんかした?」
「いや、だってさ。時雨と俺は知らない男女って言う設定だし、家族になった途端急に距離を縮めるようなことするのもなんか違う気がするって言うか」
「そう、かしら?」
「いやだってさ、なんか姉さんに勘違いされてるっていうか。俺が時雨の事を好きだって勘違いしてるっぽくてバレかけたし」
「わ、私の事、すきなの?」
「い、いや、それは分からないって言うか」
って、何でこんな話してるんだ。俺は。
「と、とにかくだ! まぁ時雨が作ってくれるなら文句は言わないよ! 作ってくれるならいつも通り、お小遣いからお金も出すし頼むよ」
「——そうね」
ぼそりと呟いて、再び前を向く。
余計なことを言ってしまったせいで何とも言えない雰囲気になってしまったがまぁ、いつも通りかな。
☆☆☆
そんな日の夜の事だった。
お風呂から上がり、いつも通り姉さんが畳んでくれた洋服をクローゼットのタンスに仕舞おうとしていると下着がないことに気が付いた。
「あれ、ないな」
ないのはパンツ。
俺のお気に入りの柄のやつでアイスクリームがプリントされているやつだ。
おかしいなと思って姉さんに訊くもしっかり置いたと言われて途方に暮れていると——ガタンッ! と凄い物音が隣の部屋から聞こえてきた。
隣の部屋はもともと何もないお母さんの部屋で今回の再婚で時雨の部屋にすることが決まっていたこともあってそこを使ってもらっているのだが——何かあったのか慌てて扉を開けに行った。
「お、おい、大丈夫――か」
扉を開けて、絶句した。
なぜなら、そこには時雨がいたからだ。
そう、時雨がなくなっていた俺のパンツを鼻元に近づけながら、綺麗に椅子から転げ落ちている所に遭遇してしまったのだった。
「時雨――お前、な、何をしている―—んだ?」
「え、あ、あ、こ……これはっ!」
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