第27話「裸の付き合い」


「もしかして、二人って知り合いか何か?」


 その言葉に思わず絶句した。

 なんで、知り合いってわかった。

 俺と時雨はしっかりと隠し通せていたはずだ。でも、なんで姉さんは。


 いや、いや待て。

 いつもの姉さんだ。そうだ。姉さんはこういう時に勘が鋭い。

 きっと、俺と時雨の様子を見て初対面じゃないと直感的に感じただけなんだ。


 うん、あまり気にするな。

 ここは普通に否定しよう。


「い、いや——別に?」

「あら、そうなの? ほら、同じ高校って言ってたしてっきりそうなのかなって?」

「さすがに同じ高校だからって知ってるとは限らないじゃん?」

「いやぁ、二人とも同じクラスでしょ?」

「……ま、まぁたまたまだよ」

「そう? ん~~なんだかなぁ、二人とも顔合わせの時とかハッとしてたって言うか、なんか妙にそわそわしてたしなぁ。レストラン行った時なんて話なれてそうな感じもしてたし……」

「い、いや、別にそんなことはないよ……お互いちょっとびっくりしてたって言うか」

「びっくり?」


 湯船につかりながら少し考える。

 その隣で姉さんは何も考えずにもふもふの泡に包まていた。


 ちょっと、バレそうだ。

 さすが姉さん。勘が鋭い。


「……か、可愛い女の子だったっていうか」

「か、可愛い……っぷぷはははははっ!!!!」


 危うい、そう思って飛び出た言葉は本音だった。

 そんな本音に呆気に取られて一瞬だけ固まった姉さんは次の瞬間には噴き出していた。


 ぶはははっとお腹を抱えて笑い出す。

 持っていたシャワーがぶるぶると暴れて、恥ずかしくて死にそうになっていた俺にかかった。


「ぶ、お、おい! シャワーがっ——ぁ!」

「ははははっ‼‼‼ ほらほらほらぁ‼‼‼ んもぅ! 私の弟はほんっとうにま、せ、て――るんだからぁ!」

「やめっ、い、息が‼‼」

「がはははっ、本当に面白すぎる! 妹になるって言うのに発情してるんじゃん! あぁもう、なんかおかしいっ……ぷぷっ」

「っはぁ、っはぁ、っはぁ。しゃ、シャワーが……はぁ」

 

 なんとか笑いが収まりシャワーも緩まると、クスクスしながら俺が使っている湯船に一緒に入ってきた。


 ザバン! っと波を立てて、さして大きいわけではない湯船のお湯が上下に揺れた。


 さすがに大人と高校生が一緒に入ったら小さい。ていうか、狭い。

 てか、なんで俺が入ってるのに入ってくるんだ。


「ね、姉さん、狭いって」

「良いじゃん!」


 満面の笑みを見せつけてくる俺の姉さん。

 すっぽんぽんでありとあらゆるところが露わになっていて目のやり場に困っていると、そんな俺の肩を掴んできた。


「っ」

「ねぇ、こっち見て」

「え——いや、ちょっと全部見えて」

「いいじゃん、姉弟なんだし!」

「いや、でもよくないって――」

「っ! ほら見る!」


 強引に肩を掴まれて、首も正面に向けさせられた。

 抵抗すると波が揺れて姉さんのそこそこ大きなそれが折り曲げていた俺の膝にふにりと当たった。


「あ、ちょ――」

「何、照れてるの」

「え、いや照れてるって言うか……そのお、大人になって――」

「ふぅん。私のユウちゃんはお姉ちゃんで興奮しちゃう先輩なのかぁ~~」

「え、いや、そうじゃないって! そんなわけないって!」


 姉さんは嫌いではないが、余りにも唐突な色っぽさありきの誘惑に精神を揺さぶられて首を横に振って否定した。


「え、そんなわけないの? お姉ちゃんん事嫌い?」

「き、嫌いとかそう言うわけじゃなくて……ね、姉さんはあれじゃん。血縁だし」

「そぉ、じゃあ好き?」

「うん。好きは好きだよ」

「そかそかぁ、よかったぁ~~」


 嬉しそうに頷いて俺を抱きしめてくる。

 メンヘラなのか少し怖くなったが思えば俺の姉さんは母がいなくなってから俺にべったりだった。


 ふぅ、と息を吐きながら離れると何か決めたように大きく頷いて俺の目を見つめてきた。


「姉さん?」

「裸の付き合いはこれで最後にするっ」

「えっ」


 いや、そんなあたかも今まで一緒にお風呂入ってた言い方するのはやめてほしいんだけど。


「うん。そしてこれからは愛しの弟の恋愛を応援する!」

「え、恋愛⁉ な、何で話がそんな飛躍して」

「ほら、時雨ちゃんが好きなんでしょ?」

「す、好きって言うか――いや、別にそこまで――」

「恥ずかしがっちゃってぇ~~、お姉ちゃんのことは騙せないんだよ?」

「いや、だから別にっ——」

「いいの。私は知ってるから! しっかり応援してあげる。それに家族になって苗字が一緒になっても義理の兄妹だしねっ! 私とは違って値は繋がってないし、気ッと行けるわよ!」

「そ、え、いや——」

「分かった? 応援してあげるから、絶対に仕留めなさいよ!」


 最後まで言うと納得したように風呂から上がっていく。

 ちらりと見えたおしりと背中の綺麗なラインに目が泳ぎながら、この時の俺はこの後起きる猛烈なアプローチを知らないのであった。

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