第24話「気まずい食事」


 心の底から飛び出たクエスチョンマークを前に身体が硬直してしまう。

 唐突に訪れたそんな圧倒的な修羅場に俺も時雨も口を開けなくてしていた。


「おい、雄太。お前挨拶はどうした?」


 時雨も目の前で固まっていたが俺もすさまじい顔をしていたようで俺よりも一歩前で挨拶する親父が振り返りながら怪訝な表情を向けてくる。


 やばい、何か言わないと——そう思ってはいるものの具体的になんて言い出せばいいか頭が追い付いていなかった。


 あぁ、駄目だ。俺。

 よく考えろ。

 しっかりイメージするんだ。

 まずはこの一瞬で最悪を考えてみよう。

 

 もし、俺がここで「なんで時雨がここに!」なんて口に出してしまったとしよう。そうすれば時雨の母親も俺の親父もきっと驚くし……なんてったって親父は優しい。たとえ自分が愛そうと決めた相手でも俺と姉さんを優先するくらいには家族思いなはずだ。


 だとしたら、もしもそんなお互いを知っている――なんてことを言おうものなら親父は絶対にこの結婚を取りやめにするだろう。


 俺と時雨は元恋人。それがバレたら家族の仲は最悪だ。

 たとえ気にしないでと言ってもそうするわけにはいかないと親父は言ってくる。


 だからこそ、言ったらだめだ。


 一瞬で捻りだした解答を少し躊躇しながらではあったが俺は表向きの顔に変えて、頭を下げることにした。


「あ、あのっ——烏目雄太、ですっ。少し緊張して言葉が浮かびませんが、仲良くしたいです。よろしく、お願いしますっ」


 わざとらしく――というよりは素の声色だった。

 正直、緊張は本当にしていて声が震えてしまった。


 それを見て親父も分かってくれたようで「ははっ、こいつ意外にもこういうところあるからよ!」とフォローする。


 それに対して義母さんの方も笑って「仕方ないですよ~~。ほら、時雨も」と時雨の肩を押す。


 俺の挨拶から察してくれたようで彼女も彼女でそれなりの自己紹介をしてくれた。


 どうやらなんとかなったようだ。

 本当に、危なかった。


 二人をリビングに連れてきて、4人用のテーブルに座らせると俺はお茶を淹れろと姉さんに言われて台所に向かった。


「ふぅ……なんとかなったぜ」


 ようやく一息付けてホッとする。

 時計を見ると時間は10分程度しか経っていなくて驚いたのもおかしくない。


 元恋人同士であり、今はご飯を食べたりする中でもあり、再会したのはジャージを嗅いでいた姿を見てからで、家族になるかもしれない。


 ははっ。

 冷静に考えてみたら、こりゃカオスだわ。

 よく頑張ったぜ、俺も時雨も。


 にしても――あれが時雨の母親なのか。

 この前、時雨の家に行ったときはいなかったけど……ん。てかこの前鉢会ってたら今結構ヤバいことになってるよな?


 なんというか、そう考えると俺は悪運も運の引きも悪魔的だな。


「へぇ~~! じゃあ時雨ちゃんって高校どこか寄ってるの? もしかして、豊高?」


 ——とはいえ、大丈夫だろうか。


 家に常備してあった来客用の少しだけ高めな茶葉を用意してお湯が沸騰するのを待っているとリビングの方から姉さんの声が聞こえてくる。


「またやってるよ……」


 俺の姉さんの質問攻めは飽きるまで止まらない。それも自分の義妹になるかもしれない相手ならなおさら。重度のブラコンの姉なら重度のシスコンにもなれると思うし。


「ほらほら、うちのユウちゃんって結構可愛いところあるでしょ? さっきなんか緊張した遣ってねぇ~~! 時雨ちゃんも面白かったでしょ!?」


 なんてこと言ってやがるんだ姉さんは。時雨はまだしもお母さんだって見てるんだぞ。それにユウちゃん呼びも気恥ずかしいからやめてくれ。


「それはまぁ、なんかはいっ……ぷぷぷっ、面白かったっです……」


 いやおい、そこは否定してくれよ。

 



 


 お茶を淹れてリビングに戻ると案の定姉さんの質問攻めに意外にもしっかりと対応している時雨が窺えた。


「あ、あの、お茶です。時雨さんと沙苗さんも何かありましたら言ってください」


 これから家族になるであろう人にどう声を掛ければ分からないがこういう時は敬語と相場が決まっている。


 律儀にそう言うとお母さんの沙苗さんが微笑み口に手を当てながらこう言った。


「いえいえ、あと、私は雄太君のお母さんになるかもしれないんだから、私も時雨の事も呼び捨てでいいのよ?」

「え、いや流石に呼び捨ては……」


 義母とは言え、母親に名前呼びはおかしいしな。


 しかし、俺がそんな風に考えているとまるで心を読まれているかのように。


「なら、お義母さんでもいいわよ?」

「お、おかっ――それは、さすがにまだ早いんじゃないかと……」


 いきなり過ぎる。

 てか、なんでそんなに一瞬で俺の立てたフラグを回収するんだよ!


 そんな俺を見かねて正面に座る姉さんが意地悪そうな顔で呟く。


「お義母さんっ」

「あらあらぁ~~、彩夏ちゃんも元気良いわねぇ~~」

「ほら、ユウちゃんも言わないと!」


 くそ、はめられた。

 完全にやられた!

 こういう時の姉さんもうざったい人はいない。


 しかし、こうなれば逃げられるはずもなく、口ごもりながら呟いた。


「か、か……お、お義母さん……」

「いいわねぇ~~、可愛くていいわよぉ。今日から私の息子ね!」

「がはははっ!! 緊張しすぎで笑えるんだけどぉ~~!」

「……」


 ニコニコで嬉しそうな沙苗さんはいいとして、馬鹿みたいに腹を抱えて笑える姉さんはあとでいたぶってやりたい。


 ていうか、時雨も笑ってないで助けてくれよ。


「よし、なんか仲良くなってくれたみたいだし! 今日は5人でレストランにでも食べに行くか!」

「お、お父さん太っ腹!」

「いいわねぇ~~、あ、でも啓二さんには悪いわよお金が……」

「良いんだって、今日はおめでとうってことだし! 俺も金のない男じゃないってのよ!」

「それじゃあ……そうね、言葉に甘えさせていただこうかしら」

「おうよ!」


 というわけで、なんだかんだ俺たちは近所のファミレスに行くことになったのだった。




<あとがき>

 お久しぶりです。

 こちらの作品もカクコンに投稿したいなと思ったのでこれから更新していきます! まぁ、こっちの作品を休んで書いていた作品がまさかの不評で悲しくなったので逃げてきただけですが……泣


 良かったら読んでみてください……。


 がんばります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る