第23話「顔合わせ」


 隣の家に越してきた謎の中学生を家に送った後、家の掃除を何とか終わらせることができた。中学生の話もすると、どうやら俺が外にいる間にご両親がご挨拶に来たらしく、道外から越してきたということが分かった。


 雨なのに一人公園で座っている気持ちも何となく分かるけど……転勤族の娘さんもなかなか忙しそうだ。


 そんな風に他人の女の子を気にしていられたのはつい昨日までの話だった。


 実際、昨日の夜は初めて顔を合わせる新しい家族だからそれはそれは寝ることも出来ず、姉さんとどう自己紹介するか話し合ったくらいだ。


 お義母さんのほうは前日に親父に写真を見せてもらっていたのでイメージは点いていたけど、その娘さんまでは把握していない。


 つまるところ、俺なんて特にだが末っ子として育てられているので下の子の甘やかし方など知らない。それも妹。


 俺に妹が出来たら甘やかすんだろうなぁなんて考えたことがあってもそれは希望的観測で、実際に起こるとは思っていなかった。現実と想像は違うようにと戻ってドキドキして結局姉さんがすべて掻っ攫っていきそうな気がするけど……。


 まぁ、それもそれで粋なのかな。ただ、気になったので聞いてみることにした。


「姉さん」

「ん、どしたんよ、我が愛弟」

「その言い方やめろって」

「んぁ~~、もしかして照れたりしてるの?」

「照れてないよ……もう言われ慣れて照れも感じないくらいだよ」

「え、それなら言わない!」

「それはどうも。俺のシスコン疑惑も払拭できるからね」

「そんな名誉なこと言われてるの⁉」


 目を見開いて喜ぶ姉さん。


 実のところ、そんなことは言われてはいない。五郎にはたまに言われてるけどね。お前って意外にもシスコンだよなとか。お前の姉ちゃん可愛いよなとか。斎藤さんと仲いいはずなのに俺の姉さんに浮気しようとしてるのが複雑だけど。


「てか、名誉じゃねぇ」

「え、名誉じゃん! 自分の兄妹の事を好きなんだねって言われたらもうムンムンだよ!」

 

 よぉ、姉貴。

 純粋なところ悪いんだけど、ムンムンは使い方が間違ってるぞ。

 それはエッチな気分になってる意味になる。


 うん、さすがに俺で興奮する姉さんは見たくない。それが義妹なら——違うかもしれないけど、ってあぁ、駄目だなこんなこと考えてたらおかしな気分になる。


「そ、そうかよ」

「うん、興奮しちゃうくらいうれしい!」

「興奮!?」

「え?」

「ん?」

「どしたん、急にびっくりして」

「い、いやぁ……俺の深読みだったみたいだから。なんでもないよ」

「そ、そ?」

「うん」


 気まづい空気が流れる。

 一方的に気まづいだけかも知れないが、いやはや、偶然というのは恐いものだな。


 そんなこんなで10分ほど雑談しながら待っていると迎えに行っていた親父が玄関の扉を開ける声が聞こえてる。


「よーし、連れてきたぞ~~」


 親父がリビングの扉を開ける。

 さっきまでソファーに座ってた姉さんと俺はビビッと震えて立ち上がる。

 こんなときに思い出すのもなんだが、時雨も今日が顔合わせとか言ってたし一人で頑張ってるのかな――なんて。


 よし、気合を入れて――とそんな風に自分の心の中で決め込んだその時だった。


 俺は、やってくる新しいお義母さん、その後ろにいた綺麗な服を着飾った少女を見つめる。


 見つめて、目が合い、俺たちは固まった。


 驚いたも何も、そこまで考えていなかったからだ。

 同じ日に同じ期間にたまたま合ってしまっただけなんだと思っていたけれど、それがまさか、こんなからくりがあったなんて気が付く間もなかった。


 いや、気が付いていても知らないふりをし続けていたのかもしれない。


 でも、ここまで来てしまえればその事実と向き合わざる負えない。

 

 どくどくと高鳴る心臓、全身の血管が悲鳴を上げるくらいに激しかった気がする。

 驚愕と羞恥と困惑がひしめく中、飛び出た言葉は質素なものだった。


(なんで、ここに時雨がっ)

(なんで、いるのよ雄太がっ)

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