第17話「間接キスをしてしまった※時雨視点」
「なぁ、せっかく貯めたお金全部使っちゃっても良かったのか?」
雄太が教えてくれた穴場のお店でそこそこいいペンタブレットを買った後、私たちは駅に向かって歩いていた。
「まぁ、使い道なかったし。自分の夢のために消費されるのなら別にいいかなって」
「そうかぁ~~、にしてもすげえな時雨は」
懐かしい。
付き合っていた頃の自分たちを思い出してしまって、ふと会話が止まった。
こうして隣を歩くことなんて別れてから一度もなかったし、今後もないと思っていた。
私は女の子だ。自覚しているし、分かっている。所謂恋バナってやつが好きで、そこそこ少女漫画を集めたりだってしているし、SNSで恋人同士のイラストや短編漫画を見ただけで心ときめく程に「恋愛」という言葉が好きだ。
しかし、それが私自身を傷つけてから少しふわふわしていて心ここにあらずだったけれど、最近、こうして別れた恋人の雄太と一緒に居てそれが晴れてきた。
別によりを戻したとかじゃないけど、それでもやっぱり胸がドキドキするし、あの頃に戻れたような気がして気分が晴れてしまう。
この前、あんなところを見られてしまってあまり心の整理が出来ていなかったけど、ここ最近の1週間で明確に思ったことがある。
やっぱり、雄太と付き合いたい。
喧嘩別れは辛かったけど、本当にいい人だと再認識した。
私に寄ってたかってくる男は皆顔とかスタイルとか、そう言うところしか見ていなかったけど、やっぱり雄太だけは何か違う気がする。
最初とのギャップって言うのもあるのかもしれない。でも、そのせいでそれがよりよく映る。
かっこよくて、クールで、落ち着いていて、みんなのリーダーで、思いやりと優しさ溢れる彼をまた好きになった――――そんな気がした。
「聞いてるか?」
「ん、あっ、うん。ごめん」
「いやいや別にいいんだけどさ。何かあったか?」
「うーん。ボーっとしてただけよ」
「そうか、ならよかったよ。嫌われたんかと思ったぞ」
「そんなことない!」
思わず強く言ってしまった。
ハッとなって口を押える。
「え?」
「い、いやいや――べ、別にそんなことないっていうかんあんというかぁぁぁぁぁ……」
「お、おい、大丈夫か? 噛み噛みだぞ」
「だ、大丈夫よ!!」
「べ、別に怒らんくてもいいだろう……」
「……怒ってないもん!!」
「怒ってるだろう。なんか顔赤いし」
「そ、それは——っえと、その、ちがぅ……といいますか……その」
やばい、なんか頭が回らない。すっごくグルグルで考えられない。
はぁ、もう、なんなんだ私は。有紗みたいに楽しくて明るくいようって思ったのに……最初のが台無しじゃん。
「うぅ」
「もう、情緒が不安定だよな。時雨は」
「うっさぃし……」
「あいよ。よっと、ほら立て」
その場にしゃがみ込んで顔を両手で隠していると雄太は手を顔の前に差し出してきた。
「ほら、早く」
「——わ、分かってるわよ!」
呆気に取られていてボーっとしてしまう私に急かすように言う雄太。
それがなんか恥ずかしくて強く当たってしまう。
「ほら、怒る」
「……別に違うし」
「はいはい、怒ってるなら言ってくれていいってのに」
「流すなぁ! 私はほんとに怒ってないの!」
「それならもっと笑ってくれ」
もっと笑う?
急に急。その勢いの良さは私にはちょっとだけ早くてまたしても何もできずにボーっとしてしまった。
「——」
すると、彼は少しだけげんなりした表情を見せてすぐに向き直り指をさす。
「いいよ、しないなら。あ、あれ、あそこで何か食ってから行くか」
「え、いやちょっと」
「行くぞっ」
そうして、握られた手を握り返すことしかできなかった私は背中の大き目の彼について行くことしかできなかった。
★★☆
手を引かれてついて行った先は最近ストーリーでも流行っていたスムージードリンク店だった。
いつかしかに流行ったタピオカ店を改装して、路線変更をしたおかげで中高生から女子大生、OLにまで人気になった歴史の長めのお店だった。
それも懐かしい。
付き合っていた頃はよく二人で通っていた。私がバナナヨーグルトミルクスムージーを頼み、雄太がチョコモカバナナスムージーを頼む。
受け取ったそれを並べて写真を撮って、投稿するわけではないけど帰ってからそれを眺めるのが一時期のルーティンでもあった気がする。
ほんと、恥ずかしいことをしているなと今考えると思うけれども、それくらいゆかりがあるし思うところがある場所だった。
「ほら、ここのスムージー好きだったろ?」
でも、こうやって私の好きなものを今でも覚えているのはなんか心地よかった。
「なんで覚えてるのよ」
「いやぁ、いうて1カ月前だしな」
「……そ、そうね」
「いつものでいいのか?」
「うん、それで」
そう言って雄太は荷物を道端に置いているテーブルに置き、注文をしに行った。
「私が見張れってことね……んもぅ。別に一緒に行ってもいいのに」
そんな本音も目の前に居たら言えない自分が苦しいわね。
数分ほど待っていると、背中の方から声がかかった。
「はい、なんですk——」
「うわっ、やっぱりめちゃかわいいーじゃん!」
「うひょぉ、やべぇ。滅茶やりてぇ」
「おいおかしなこと言うなって警戒されるだろ」
「あぁ、わりぃ」
話しかけてきたのは知らない男二人。
ややおチャラけていて、私の好きではない人種なのは明確だった。
「あ、あの、なんですか?」
こういう人は今まで何回か声を掛けられてきたけど、大抵無視するかがツンと言えば去っていく。実践しようとまずは何をしに来たのか尋ねてみる。
「いやぁ、さぁ、俺たち今暇だからさ一緒に遊ばない?」
「そうそう、きっとおもしろいぞ~~」
常套句。
さすが頭が悪そうだ。
「あの、今友達と来ていて、忙しいので無理です」
これで去ってくれるはず。
しかし、男二人はそんなそぶりは見せなかった。
「いやぁ、絶対俺らと一緒の方がいいって~~」
「友達より絶対いいって~~」
腕を掴まれる。
いきなりで肩を震わせるがもう一人が後ろ側からゆっくりと回り込んで肩を掴んでくる。
「きゃ!」
私が叫ぶと一人が口を手で覆ってきて、咄嗟に叫ぼうとしても声が通らない。
やばい、どうしよう。このまま連れてかれる。
対格差があり過ぎて無理だ。
雄太、早くっ。
周りの人も分かっていない。お店も裏路地にあるし、時間が時間だ。真っ暗で学生もいない。
やばい、本当にヤバい。
「おいで~~、きっと楽しいよぉ」
にやり、口角が上がっているのが見えて背筋が凍って力が抜ける。
足が思うように動かなくて引きづられる様に連れて行かれそうになって――
そんなときだった。
「おい、何してるんだよ」
聞き慣れた声がして、私は咄嗟に叫ぶ。
「雄太ぁっ!!!」
「なんだぁ、お前?」
「もしかして友達か?」
「あぁ、そうだよ。そいつを離せ」
「はぁ、嫌だし。この子は自分の意思でこっち来てるんだよぉ~~」
「嫌がってそうに見えるけど?」
「まさかねぇ~~」
「んんん~~~‼‼‼‼」
手でおおわれて声が出ない。頭を掴まされて無理やり頷かされる。
しかし、それを見ていた雄太がこう言った。
「あのさ、君たち、後ろ見てみなよ」
「はぁ?」
「何言ってんだてめぇ――――」
と言いかけて動きが止まる。私も目を向けるとそこに居たのは警察官二人組だった。
「んな⁉」
「なんで⁉」
「あぁ、先に呼んどいたからな」
「っくそ」
「よしよしお二人さん、話は交番で聞くからついてきてねぇ~」
そうして解放された私は、直ぐ駆け寄ってきた雄太に縋りついた。
★★★
「大丈夫か?」
「う、うん……ありがと」
助けられた。
私、咄嗟に助けられた。
ずるい、そんなのずるいじゃん。
嬉しいし、良かったし、感謝してもしきれないけど、そんなのずるいじゃん。
あんなことしておいたくせになんか空かした顔してるし、ずるいじゃん。
私なんかずっと真っ赤っかで熱くなりっぱなしなのにずるいじゃん!!
と、叫びながら美味しいバナナスムージーをちゅるちゅる吸っていた。
「——ねね、飲ませてくれない?」
「え、これ?」
「うん。だめか?」
「いいけど……」
ほんと、考えがまとまらない。
いきなり男に連れて行かれそうになるしで、パンクしそうになっている私は何も考えずにスムージーを差し出してしまう。
すると、雄太がそのまま口を付けてチューっと吸った。
「あぁ”」
「ん?」
「——か、かん……なんでもない」
あれ、今、したよね。
か、か、かか、間接キスっ。
~~~~~~~っ///
って、何やってるの!
私ってば何を簡単に渡してるのよ!!
めっちゃ吸われた。
ストロー濡れてる。
やばい、考えただけでやばい。
しかし、目の前にいる雄太は何も考えずに呟いてきた。
「飲まないのか?」
「——の、飲むわよ!!」
何も考えずに行ってくるその言葉にイラっとして、ムキになってすぐにストローに口を付けて吸い始める。
心の中で叫びながら私は復縁する前に間接キスを果たしてしまったのだった。
【あとがき】
いやぁ、昨日はすみません。
ということで1日ぶりの投稿なので長めにしてみました。
ようやく二人の恋愛が始まっていく気がします?笑笑
面白ければ☆評価などなどよろしくお願いします!
もうすぐで1000フォロワー突破ですね!
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