第16話「初めてのデート(51回目)」


 そうしてあっという間に一夜明け、翌日の授業も終わり、俺は委員会が終わった後相沢さんと別れて一人誰もいない玄関で待っていた。


「ラインはきてないかぁ」


 予想では時雨の方が早く来ていると思っていたんだが、玄関に来ても誰もいない。時間はすでに18時を回っていて、若干だがそらが夕暮れ色に変わりつつある。


 どこかで時間を潰しているのか、それとも覚えてなくて帰ってしまったのか少々不安が残る。


 ラインのトーク画面は昨日と変わらず、何も動いていない。そう言えば確か今日もお昼は一緒に食べれなくて時雨の方は授業が終わると職員室に行っていた。


 そのおかげで俺は今日も五郎と食べることになり、デートの予定がどうのと一方的なのろけを聞かされた。正直、あれは地獄だ。時雨と付き合った時にアレをやっていたと思うと寒気がする。土下座して謝りたいくらいだ。


 とはいえ、昨日も今日もあまり会えなかったし、急に勉強でも教えに行ってもらっているわけでもなさそうだし本当によく分からない。


「——大丈夫かなぁ」


 溜息を吐いて、諦めて帰ろうかなと思ったその時だった。


「っはぁ、っはぁ……っはぁ。ご、ごめっ、ゆ、うた……っ」


 後ろから声が聞こえて振り返るとそこには汗だくになった時雨が膝に手をついて立っていた。


 息が切れて、額には汗が滴り、夏用に変えつつあるうちの高校のセーラー服が美ったりとくっついてて若干だが透けていた。


「あ、っちょ、時雨見えて――」

「えっ?」


 俺はすぐに目を瞑ってのけ反ると気づいた時雨が殴りかかって――


「——へ、へんたい」

「……あ、あれ?」

「どうしたのよ、そんなおかしな顔して」

「え、いや、み、見えてたっていうか」

「何?」

「……い、いや、なんでもない」


 あれ、殴ってこなかった?

 おかしい、絶対に今までの時雨なら殴ってくる。というか、この前の同人誌を見てしまった時は思いっきり殴られたのに、急に変わった?


 少し顔が赤いだけど、別に気にしている様子がない。

 あれ……どうしたんだ、こいつ。


「それで、早く行かない?」

「え——あぁ! そうだな、そうだ。行こうか、夜になる前に行こうぜ」

「うんっ」


 こくりと頷く時雨。

 靴を履き、さすがに見えたらいけないよなと思って俺は学ランの上を時雨に持たせた。


 もちろん「別に今更こんなの気にしなくても」と言ってきたが俺がやばいので羽織らせることにした。


 それに、うん。俺じゃなくとも男がかわいい子のスケスケセーラー服なんて見たら興奮しちまうし、まず見られたくない。


「よし、行くか」

「うん」


 そうして俺たちは色々ありながらも玄関を飛び出て地下鉄に乗り、片道30分ほどかけて札幌の中心地。札幌駅やススキノがある盛況している街の方までやってきた。


「うわぁ……やっぱり人多いんだね」

「まぁなぁ、中心部だし」

「それは知ってるけどここまでだと思ってなかった」

「いつも来ないのか? ほら、斎藤さんとかとさ」

「ん~~有紗はこういうところ苦手かなぁ。あの子結構はつらつとしてるくせに公園とか山とか森とかの方が好きって言うし。私もよく分からないけどね」

「へぇ~~」


 やっぱり五郎にはお似合いだよな。

 俺が知らないだけで二人ともよく遊んでるらしいし、この前だって付き合ってもいないのに五郎とのスマホの壁紙が二人のツーショットになっていた。


 仲がいいんだな、二人とも。そう言うところは俺も見習っていかないとな。


「ちなみに時雨は得意なのか? こういう人混み」

「うーん、得意ではないけどまぁ大丈夫かな。雑貨屋さんとかあるのこっちだしね」

「あぁ、まぁそうだよな。女子って結構こっちの方好きっぽいし」

「それ偏見なんだけど~~」

「あははぁ、まぁ事実っつーか?」

「それはそうだけど、今は色々とうるさい人いるし言うのはやめた方がいいよ」


 それもそうだな。


「おう。それじゃあ言ってみっか。確か狸小路の方にいい感じのガジェットが売ってる店あるからよ」

「うんっ」


 そう言って歩き始めると時雨が後ろからてくてくと付いてくる。


 その姿がどこか可愛くてチラチラ見ていたことは内緒にしてほしいな。




 まずはペンタブレットが欲しいとのことで俺が兼ねてからリサーチしておいた値引きをめちゃめちゃしてくれるお店に赴いた。


「時雨、実際にいくらくらいだった使ってもいいんだ?」

「え、あぁ〜今までずっと貯めてきたお年玉とお小遣い合わせて20万くらいかな?」

「すげえな……忍耐力ありすぎだろ」


 俺なんて毎年欲しいものを買ってたりで溜まっているのは2万とかそこらだ。バイトをしたいところだがうちは父親が学生は勉強しろと言って聞かないから出来ないんだ。


 こういうのは姉さんが羨ましいよ、まったく。


「別にそんなことないわよ、私あんまり物欲ないし、化粧品だって安物よ?」

「それは元がいいからだろ。神様は悪戯だっていうしな」

「何それ、褒めてるの貶してるの?」

「褒めてるんだよ」


 自覚がないのか、それとも謙遜なのか。まあ時雨は絶対に自覚がない方だと思うけど。


「それならプレゼントはそういうのがいいんかな〜」

「ぷれぜんと?」

「え、あぁ……っ」


 やべ、不意に出ちまってた。

 誕生日ももうすぐだし、あげたら嬉しいかなって考えてたのが全部出ちゃった。


「誰に?」

「え、えと……まあ仲のいい人に」

「へ、へぇ……そ」


 少し悲しそうな表情をする時雨に苦しくなりながら俺は頷くことにした。


 

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