第18話「閑話休題(斎藤有紗と仁志田五郎)」
☆仁志田五郎
雄太のやつに色々と相談を受け、そんなこんなで一夜明けて今日。
俺は秘かに思いを寄せている斎藤と一緒に遊びに行く約束をしていた。
俺が思いを寄せる相手でもあり、雄太の元カノ鹿住時雨の親友の女の子だ。元気があり、はつらつとしていながらも勉強もそこそこできてスタイルも良く美少女という分類にしても誰からも文句を言われない彼女とのデートに俺は心を躍らせていた。
ちなみに斎藤とのデートは何も今回が初めてではない。
知り合ったのは去年の入学してから1カ月後で、普通に話し合う程度だったが俺のようなちゃらんぽらんでうるさいだけの男とも普通に話してくれたのをきっかけに気になるようになった。
今まで、男と遊んでばっかりだったし、野球が恋人みたいなところがあったからまさか自分が誰かに興味を示すとも思っていなかった。
不思議な感覚で、居ても立っても居られない。
でも、やっぱり遠目で見つめる事しか出来なくてそう簡単に話すことも出来ず、雄太や他の男友達にギャグを披露して誤魔化す日々だった。
眩しい彼女に見栄を張っていたかもしれないな。
優しくて、可愛くて、元気で、面倒見もある。
俺のような男にはもったいなくもあり、適してるともいえる。
実は、俺も分析できるんだぜ? へへ。
そんな気になりつつも普通の友達的な関係を過ごしていく中で俺たちには転機が訪れる。
それがお互いの親友が恋人同士になったということだった。
最初はどうやったら付き合えるかを話し合うようになって、付き合った後からは2人の進捗を遠目から確認すると言うなんとも保護者的な視点だった。
まぁ、俺からしてみれば気になっている人と一緒の時間を過ごせるという大きなメリットがあったから特段気にしたりはしてなかったけど。
今思えば特殊だったかもしれない。
ただ、そこで垣間見た斎藤の人間らしさと正確に胸打たれ、俺は今日という日まで片思いを続けているってわけだ。
ちなみに半年くらい。雄太が告白したらしいけど、やっぱり
野球部が休みの今日、久々のデートに心躍らせる俺は玄関で男友達と談笑しながら待っていた。
「なな、それでこの前のセリーグのさ」
「あぁ、あれだろ! 見た見た!」
そんなところ、後ろから肩をトントンと叩かれる。
「ん、どうしたっ——あ、斎藤っ!」
「よっ……待ってた?」
「いやいや、大丈夫よ。もう終わったか?」
「うん、終わった! 邪魔だった?」
「んなわけ! んじゃ、帰るかっ」
「うん!」
頬をやや赤くさせた斎藤も可愛いなと思いつつ、俺はしゃべっていた友達に一言言って帰路に着いた。
「よーし、それじゃ今日はどこ行くかぁ~~。斎藤、どこか行きたいところあるか?」
そう訊ねると斎藤は少し俯きながら呟いた。
「うーん。結構色々連れていってもらったし……そう言われると難しいわねっ」
「そうか? そんなに行ったっけ?」
「そりゃもう、たくさん行ったわよ! ほら、仁志田君めっちゃ優しいし、なんか私ばっかり楽しんじゃってる気がするくらいさぁ」
「ははっ、俺は別に! むしろ、しっかり楽しんでくれて最高なくらいだよ!」
「最高ってまた大袈裟な」
「可愛い斎藤が笑ってるところ見れるしな~~」
「か、可愛いっ——てまた大袈裟なぁ! うちはそこまで可愛くないよぉ~~」
「そんなこと言っても嬉しそうじゃん?」
「んぐっ……そ、そりゃまぁ、嬉しいけども」
「まぁ可愛いのは事実だからほら、もっと自信持って行きな!」
俺は手のひらを広げて斎藤の頭をポンポンと叩く。
すると、一瞬だけ黙り込んだ彼女に少し驚きながら、歩みを進めることにした。
「それで、全く話してなかったけど——ほんとに行きたいところないのか?」
「う、うん。服も見たし、雑貨も見たし……お腹空いてくらいかな? 仁志田君は?」
「俺は~~んとどうだろ、微妙って感じだな。あ、そうだ、あれだよあれ。最近話題のアニメの映画見に行きたいと思ってたわ」
「アニメ? もしかしてツーピースのやつ?」
「そうそう!! フィルムグリーンの!」
「私見たことないんだよね~~行けるかなぁ」
しょんぼりする斎藤を見て、俺は慌てて訂正する。
「いやいや、俺が見に行きたいだけだし! 別に今日じゃなくても一人で行くからさ! ほら、せっかく駅前来たんだし他の映画でも見るか?」
しかし、斎藤はぶるぶるっと頭を横に振って元気いっぱいの笑顔でこう言った。
「ううん! 仁志田君が見たいなら私も見たい!」
「いいのか?」
「うん! 二人で見よ! ていうか、漫画も読みたいなって思ってたし……今度家言ったら見せてよ!」
「あ、あぁ、確かに俺の家にあるけど——長いぞ? 雄太のやつも途中で読まなくなったしな」
「いいの! 読むって言ったら読む! ほらほらいこ!」
そう言って腕を掴まれて駅前デパートの8階に連れていかれる俺はこの後二人で映画を見ながら食べるポップコーンのせいで全く映画に集中できなかったことはまだ知らないのだ。
とにかく、こんな風に優しくて元気いっぱいな斎藤が今日もまた好きだ。
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