第11話「時雨と雄太の行き違い、そしてツンデレる」


 というわけで審判の日が来た。

 

 ――はずなんだけど、俺と時雨の間で食い違いが発生していたために当日にもかかわらず混乱していた。


 遡るほど1時間。

 俺は時雨を誰もいない家に向かい入れるために色々と準備を済ませていた。そこで時雨から連絡が来る。


『あと少しで準備できるから待っててね』


 集合時間は11時。

 もちろん、場所は俺の家。

 そう思い込んでいた俺は次のように送り返した。


『おけおけ、俺の家の方も片づけ終わったらいつでもきて大丈夫だからね!』


 久々のお家デート。

 初めてしたのはからこれ4カ月ほど前だった気がするが今回は前回とは色々と話が違う。脈はある。が俺たちは付き合っていない。


 まずは一つずつ、一歩ずつ歩み寄っていく精神が必要なのだ!


 なんて楽しく考えているのも束の間、ピコンと一瞬でメッセージが。

 開いてみるとこんなことが書かれてあった。


『え、今日って私の家でお料理するんだよね?』


 目に入り、数秒程頭の中で考え込む。 

 時雨が言う「私の家で」というのはもちろん時雨の家の事だよな。俺が2回くらいしか行ったことがない時雨の……い、え。


 家、家、家。

 時雨の家。


 あっれれぇ~~おっかしいぞぉ~~⁇

 と頭の中にいる江戸川名探偵が騒ぎ出す。


 もしかしてこれは機関の策略なのか?

 と頭の中の鳳凰院凶真が叫び出す。


 いやいや、まさか。

 そんなまさかがあるわけがない。

 俺の家で作ってもらうって言ったはずだよなぁ~~と思いつつ記憶を辿っていく。

 しかし、出てきた答えは——


 ——俺は何も言っていない。だった。


 そうか、最初に時雨が「作ってあげるわよ」って言ったのは、私の家にも来ていいわよってことだったのか!


 今更気付く俺、情けなさ過ぎていとかなし。

 

「ってボケてる場合じゃねえ! 何変に意識して部屋の掃除してるんだよ! 同人誌とか片づけてる場合かってんだ!」


 大急ぎで身支度をしつつ、時雨に『そうだよ! 準備できたら行くね!』と返信。

 適当に髪をセットし、普段は着ないちょっとお洒落な服に身を包んで俺は外に飛び出した。







 片道20分ほど歩いて、俺は時雨が住むマンションの一室の前で深呼吸をする。

 

 付き合っていたときにすらあまり行けなかった時雨の家。時雨の部屋なんてほぼ入ったことすらない。正直、内心嬉しいと緊張でおかしくなっている。


 それに、今日はおそらく母親もいないはずだ。時雨も俺と一緒で片親だし、確か休日が平日にあったはずなので今日どようびは昼間も働いているはず。


 つまり、俺は女の子の家で二人っきりになれるということ。

 この後、俺がどうなるのか考えても考えても出てこない。


 実際のところは俺がまいた種であることではあるが——実際に行くとなると話は別だ。


 いやぁ、ひよってきたぞ~~。

 あの時は隣に座る時雨が可愛くて可愛くて、料理も食べたくなっていってしまったところがあるけども。


 こうなるとやっぱりこわーい!!


「ふぅ……」


 大きく深呼吸をして、呼吸をゆっくりと整える。

 頭の中を整理して時雨の事を思い浮かべる。


 だめだ、俺は復縁したいんだ。だからこそ、こうやってまた仲良くなるために頑張っているんだ。


 原点を思い出す。俺と時雨でもう一度歩み寄るためにもひよるんじゃなく、明るく、楽しく、時雨のために何かしてあげられるような覚悟を持たなきゃだめなんだ。


 ここで怖がっているようじゃ、やっていけない。絶対に。


 よし、ゆっくり、整えてやるんだ、俺。


 もう一度深呼吸して、俺はインターホンに指を付ける。


 ピンポーンピンポーン。


 音がなり、ドアの向こうから何度も聞いた声が返ってくる。


 ガチャリとドアが開いて、部屋着の時雨が出てきた。


「はーい。待ってたわよ」

「お、おうっ」


 久々に見る時雨の部屋着。

 上はだぼだぼな真っ白なTシャツに、下はジーンズ柄のショートパンツ。肩まで伸びた焦げ茶色の髪は後ろで結んでポニーテールにしていていつも見ない彼女の姿に内心ドキッとした。


「……何、狼狽えているのよ」


 しかし、そんな俺の内心は時雨にはお見通しだったようでジト目でツッコまれる。


「い、いや、別に狼狽えはないしっ」

「一歩下がってるじゃん」

「ま、まぁいいだろう! ひ、久々だったんだしよぉ」

「自分から誘った癖に」

「っ……時雨だってまんざらでもなかったじゃん」

「別にぃ~~、私はただ作ってあげてもいいかなって思っただけだし」

「そ、そうかよ」

「別に今更どうなろうとなんて思ってないし、つ、作るだけだからね」

「あ、あぁ! 上等よぉ、そのつもりだ!」

「うるさい」

「——ごめん」


 宣戦布告を受け付けたつもりだったのだが、思い出せばここは玄関の中でもなく外だった。


 後ろを通り過ぎていく老人が痛いものを見るような目で見つめてきて一気に恥ずかしくなり、固まった。


 やっちまった。


「……それじゃあ早く入って」

「あぁ」


 ということで出発と同時に脱線してしまったわけだ。








「ね、ねぇ」

「ん、なんだ?」


 手を洗っていると時雨が声を掛けてきた。

 顔をあげて目の前の鏡を見ると髪をくねくねとしている時雨の姿が見える。


「こ、この格好……似合ってる?」

「え?」

「この……部屋着よ」


 なんかもじもじしてる。

 それに心なしか頬も赤い。


「そう、だな。俺は可愛いと思うぞ」

「っ……そ」


 まぁ、本音を言えばもの凄くリアルだし、なんというか性癖をそそられると言うか……幼くて可愛くて、無防備なのがいいかな。


 さすがにそこまでストレートには言えないけど。


 結局、特に何かを言うわけでもなく時雨はリビングの方へ向かっていった。







 にしても、一つ分かったな。

 今更どうなろうとは思ってない、かぁ……やっぱり無理そうなのかな。


 これまた悔しいね。








☆鹿住時雨


 やばぃ……嬉しい、私。

 このまま、ずっと言ってもらいたいなぁ。















【あとがき】

 なんとか勘違いラブコメに持ってきました~~。

 早くもっとラブコメしていきたい!

 次回、「これって、もしかして時雨の同人誌?」です!


 あ、ちなみにこっちの作品を書いている合間に休憩用の作品も書いたのでよかったら是非。



「今夜、アラサー拾いました。~ある日、河川敷でダンボールの中に入っていた超絶美人なお姉さんを拾ったんですがどうすればいいですか?~」


https://kakuyomu.jp/works/16817330648171396330






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