第8話「実際のところ、俺は復縁したいらしい」


 翌日、二時間目後の休み時間。


「なぁ、そう言えば昨日の昼間どこ行ってたんだよ?」


 そう聞いてきたのは不在の時雨の席の座った坊主頭の仁志田五郎にしだごろうだった。

 

「いやぁ……まぁ、な?」

「おい、どうしてはぐらかす? 昨日もなんか適当に流してだろ」

「……本当に何もないって、別に。だいたい、五郎には関係ないだろう?」

「関係あるとかないとかじゃねえよ、ただ俺が知りたいだけだ」

「ははっ――じゃあ知らないでいいね!」

「おいおいおい~~、俺たち兄弟だろぉ~~別にいいじゃねえかよ! ほら、隠し事はなしでいこう、な?」


 途端に肩を組みだすむさ苦しい男。


 五郎と俺は付き合いは長く、思い返せば始めたあったのは小学2年生の頃だった。


 確か当時は俺もよく外で遊んでいたんだが、そんなある日公園に突如として現れたのが五郎こいつだった気がする。


 まぁ、突如というと語弊がある。


 五郎の家の近所の公園が一つなくなってしまい、遊ぶ場所を俺がよく遊んでいる公園に変えたとのことらしい。


 まぁ、そんな新参者を俺は許さない小学生の謎のプライドで五郎とはよく喧嘩していた。


 そんな不穏な関係がまさか中学も一緒で高校も一緒。なんならクラスまで一緒ときた。喧嘩するほど仲がいいとは言うがいい得て妙だな。


 と、今でも野球部に所属しているため、坊主頭で図体も俺よりも一回りか大きい。身長は181㎝で隣に並んだら悲しくなるくらいだ。


 通り過ぎる女子は皆こいつの方を見るし。


 そんなやつが肩を組んでお願いしてくるこの苦痛。

 みんなには分かるだろうか。いや、わかるまいな。


「——勘弁してくれって、本当に言いたくねえんだよ」

「はぁ、なんでさぁ? そんな広めたりないぜ~~」

「誰が言ってんだか。だいたい俺と時雨のこと広めたのは五郎、お前が元凶なんだぞ」

「え、そうだっけ?」


 こいつ、忘れてやがる。


 何せ、付き合った翌日にこそこそ伝えてやったのに「え、鹿住と付き合ったの⁉」と大声で言いやがったんだからな。

 

 故意じゃあないとしてもあんまりだ。

 俺たちの方針でゆっくり晒していこうと相談までしたのに。


「はぁ……そうだよ。だからだ」

「ん~~でも腑に落ちん」

「くそ、じゃあ条件付きだ。それが出来なければ交渉決裂。これでいいか?」

「あぁ、どんとこいっ」


 ノリは良いんだがなぁ、空気を読む力を着けてほしい。

 ということで、一つの抑止力のつもりで俺は条件を付けることにした。


「んまぁ、これだ。お前の秘密を貰う。そしたら言ってやる」

「秘密?」

「あぁ、好きな人とかな」

「好きな人は斎藤かなぁ」

「は?」

「ん?」

「いや、まさか……本当に言うとは」


 しかし、即答だった。


 さすがのこいつもそう言う類いを告白するのは難しいとは思っていたのだがとんだ俺の勘違いだ。五郎には羞恥心がなかった。


 こんなんじゃ抑止でも何でもない。


 とはいえ、斎藤ってたしか……時雨の親友の? 斎藤有紗さいとうありさだっけか? まぁ去年までは俺たちともクラスが一緒だったし、色々あったのかな。


「あぁ、言うぞ? なんなら好きなところも挙げてもいいくらいだ」

「……いや、さすがにそれはやめておくよ」

「そうか? ならいいんだが」


 そりゃ次から次へと出てきそうな口調だからな。


 俺とて、いくら腐れ縁とは言えど惚気話を聞いたらぶん殴りたくなる。

 殴っても倍返しになるだけだが……。


「——んで、俺は言ったから教えろな」

「っく……わ、分かったよ」


 とまぁ、俺も男だ。

 

 元文化部で現委員長の俺だが、ここまで来て逃げるような真似はしたくない。仕方なくではあったが俺は白状した。


「いやな、昨日のあれは時雨からの呼び出しでよ」

「時雨ってあの時雨か?」

「あの時雨ってなんだよ……時雨はこの学年に一人だけだろ」

「そ、そうか……それで呼びだされてなんだ? 復縁か?」

「馬鹿言え、そんなわけないだろ。どうして今更俺たちが復縁なんか――」

「いやぁ、別れたカップルが再会するなんてそのくらいの理由しかないだろ!」

「お前にそんな考え方ができるとは……五郎、感激だぞ」

「……ははっ。流石五郎様だな!」


 皮肉を言ったのになぜか喜び出す五郎。

 これが所謂鈍感系男子ってやつか。


「んで、とにかくそう言う話じゃない。再会はしたがそうじゃなくてだな」

「あぁ?」

「その、この前に時雨に借りを作ったんだよ」

「カリオストロを作ったって?」

「難聴か! 誰がそんなルパンのやつを。借りだよ、借り!」

「あぁ、借りかぁ」

「んで、借りを作ったらさ、俺に弱みを握られたようなものだからって——弁当を作ってもらうことになったんだよ」


 多少違うが、結果は同じだからいいだろう。


「ほう、それで?」

「これってどう思うよ?」

「……どう思って別にいいんじゃないか?」

「そ、そうかぁ……なんかこのままいくと変な噂が流れかねんきがしてさ」

「それは当たり前だろうよ! 気にしてたら負けだ」

「いやでもそしたら時雨のやつに迷惑かかるかなって」

「それを承知で言ったんだから仕方ないべ」

「……うーん」


 五郎の言うことはもっともだがどうすればいいのか。

 俺としてもまだ考えが固まっていない。


「んでよ、雄太はどう思ってるんだ?」

「ん、どうって?」

「鹿住のことだよ、ほら、まだ未練があるとかそう言うのがないわけじゃないだろ?」

「……あ、あぁ。未練はある」

「ははっ。別れたって言った時めちゃくちゃ落ち込んでたもんな」

「当たり前だ……初めての彼女だったんだし、別れ方もあれだったし」



 そう言うと五郎は肩を掴み、まぁ――と切り出した。


「まぁな、まだ好きならしっかり言ったらどうなんだよ? 復縁してくださいってよ」

「いや、それはさすがに駄目だろ。相手の事を考えたらよぉ」

「相手の事は良いんだよ。それは相手が決めることだ。別に別れたからって言っちゃいけない理由はないんだぞ?」

「そうだが……」

「実際は付き合いたいんだろ?」

「ま、まぁ……」

「なら、そうするべきだ」


 あれを見てから帰った昨日。

 気分がハイになっておかしくなっていただけかと思っていたが、どうやら俺の本音は復縁――らしい。


 そうか、まぁ、言ってみるのもありなのかなぁ。


 そんなところで聞き覚えのある声が聞こえた。


「ねぇ、仁志田くんそこどけて」

「ん、あぁ、鹿住」


 ふつうに会話しているなと思っていると五郎が思い出したかのように時雨の耳元に顔を近づける。


「>+*>*>*>*」


 ごにょごにょっと俺には聞こえない大きさで何かを言う。


「——っや、なん、そ、んっ」


 すると、急に頬を赤らめる時雨。五郎を突き飛ばし顔を隠しながら慌てたように次の授業の化学の教科書を取り出して教室をものすごい勢いで出ていった。



「おい、なんて言ったんだ?」

「ん、昼休みに雄太から特別が話があるって言っておいた」

「は、おま——‼‼」




【あとがき】


 ということで次回、「おひるごはんを一緒に」です!


 三連休は皆さん楽しんでいますか? 僕は特に予定はありません。読書して、アニメ見て、小説書いて、シナリオ書いて、バイトしてって感じで絶賛ニート(?)生活中です。


 PS:ラブコメ週間15位ありがとうございます! 

 

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