第4話「烏目雄太の熱情」


☆烏目雄太


 結局、昨日はあまり寝付けることができなかった。


 寝ようとしてもまぶたの裏に浮かんでくる元カノのあの姿。


『んっ……ぁん……すぅすぅ……んっぁ……あんっ!』


 その時の喘ぎ声が頭から離れない。リピートしてずっとぐるぐると頭の中を駆け巡っている。


 さすがにエロ過ぎるよ。

 別に素肌を見ているわけじゃないけど、あのシチュエーションがアダルトなビデオのそれだ。


 本当に良くない、本当に。


 だいたい、俺のことなんてとっくに嫌いになっていると思っていたのに。当の本人があんなことをしているなんて思ってもいなかった。


 それだけにあの光景がとても鮮烈で、脳裏に残ってしまった。

 寝ようとしても浮かんできてその度胸がドキドキして眠れない。

 さすがにひどいぜ、こんなの。


 いつもなら耳を傾ける小鳥のさえずりも聞こえず、目を覚ますと見えたのは見慣れた姉の顔だった。


「うぉ、ようやく起きたっ??」


 近い。

 距離にしてほぼ数センチ。もう鼻がくっつきそうだった。

 鼻キスは中二病で眼帯を付けている邪王心眼だけにしてほしい。


「姉さん。なんでいるの」

「ん、いやぁ……我が弟の顔が可愛くてな」


 ニヤリと笑みを浮かべそう呟くと俺のほっぺをツンツンと人差し指でつついてくる。


 さすがはブラコンな姉だ。

 そう思ったがよくよく見ると姉さんはベットの中に思いっきり入っていた。


「って! なんで馬乗りしてるんだよ!」

「え、駄目だった?」

「ダメも何もっ——俺たち姉弟だろ⁉ やめろよ、こんな……カップルみたいなのっ」

「カップル⁉ まさか、ゆうちゃんは私とそう言う仲に⁉」

「っば、馬鹿言え!! んなわけねえだろ! てか降りろって!!」

「んもぉ~~照れちゃってぇ~」

「照れちゃって! じゃねえ! さすがにやばい、やめろ、今は——」


 ふと思い、焦って姉さんを押すとその先には柔らかいふにふにが広がっていた。


「ふにゃ?」

「……あらぁ、ゆうちゃん。もしかして触りたかったのぉ?」


 もみもみ。

 手の中に納まっていたのは紛れもない姉さんの胸だった。


「うぉ⁉ こ、これは事故だ!! 違、違うぞ!!」

「——またまた、そんな否定しちゃってぇ~~」

「……やめろって、違うから! ほら出やがれ!」

「あぁ~~んも! って……ゆうちゃん?」

「え、何?」


 何とか押し出してベットから押し出すと、姉さんは何やらおれの下腹部を見つめて無言になった。


 恐る恐る視線の先を辿って視線を下に移すとそこには俺の一物が。


 そして、それも寝巻のジャージに大きなお山を作っていた。


「お、おいこれは——!」

「そっか……ゆうちゃんはそんな子になってしまったのね。私なんかで、そんなんになっちゃうほどに……姉さん、悲しいわ。これはもう一生――」

「ってやめろ! やめろやめろ!! これは違うからな、違う!! 生理現象だから勘違いするんじゃねえ!」





 ――と朝から一劇。


 まったくもって最悪も最悪。


 いくら尊敬している姉だからとは言え、さすがにあれはひどい。親しき中にも礼儀あり。それが鉄則だろうに、まさか男の生理現象をまじまじと見つめられるとは思ってもみなかった。


 本当に、俺はついてない男だ。


「あぁ、くそっ……頭がいてぇ」


 ギンギンとなる額、少し痛んでいる頭を押さえながら俺は階段を下りて洗面台に向かう。すると、朝ごはんのいい匂いがしてきて食欲をそそられる。


「そろそろ彼氏でも作ればいいのに……」

「ん、彩夏にか?」

「そうだよ——って、うわっ⁉」


 ぼそりと呟くと返事が返ってきて驚いたが隣にいたのは親父だった。

 

「どうした?」

「え、いや……びっくりしただけだよ」

「そうか? なんか、顔赤いけど」

「っ——⁉ う、うっせぇ」


 頬を手で覆う。

 いきなり何を言いやがってきやがるんだこの人は。

 くそ、まったくだ。


「……おぉ、こんな遅い反抗期は初めてだぞ?」

「は、反抗期じゃねえよ……変なことを聞くんじゃねえ」

「いやぁ、雄太には反抗期がなかったからなぁ。今ようやく来たのかって感心しただけだよ——それに、変なことってなんだ?」

「……なんでもない。聞くんじゃねえ」


 そう言うと何かを悟ったのか、分かったぞと言わんばかりの顔で肩をトントンとしてくる。


「まぁ、そうだな。ようやく女でも見つけたんだな?」

「は?」

「だからこそ、姉の心配も出来るってことだ。うん、いいことだぞ。恋愛はできるうちにしておくのが一番だからな」

「……別にそうじゃねえよ。あと、勝手に上から物申すな」

「そうなのか? せっかく忠告してあげたのに」

「うるせぇ。こっちの話だ。いいから親父は髭でも剃ってろ」


 ダル絡みを何とかはねのけ、顔を拭いて朝食を食べに行きこれまた姉に色々と突っ込まれてからだるくなった俺はいつもよりも30分ほど早く家を出ることにした。







「はぁ、まったくよぉ。朝から辛いぜ……」


 昨日の一件や今朝の一件で少し心がやられつつも俺はなんとか気を保ちながら高校までの道のりを歩いていた。


 早く出過ぎたからかなり余裕があるな。


 俺の高校は近所ではそこそこ頭がいいで有名な進学校だ。家からも歩いて15分ほどの距離にあり、近くには地下鉄の駅やバス停、JRの駅にスーパーやコンビニなど学生にとってはかなり嬉しいものがありアクセスが非常に良い。


 何と言っても地下鉄の駅から札幌駅まで直接行ってゲーセンやカラオケをするのがうちの高校の生徒の常日ごろ、日常そのものと言った感じだが生憎と俺にはそこまでするような友達はいない。


 一人の腐れ縁を除き、だが。思えば最後に行ったのは時雨と一緒だったかもしれないな。


「はぁ……」


 思い出したらまた辛くなってきた。

 あんな姿を見ても、それを凌駕する別れの瞬間が苦しいぜ。


 だいたい、学校に行ったらなんて声を掛けようか。

 まずそこから考える必要がある。


 昨日は考えることを放棄して適当には話そう!

 なんて呑気なことを考えていたがいざ話すとなると真っ白になるのが俺だ。


 こういうことを言うとよく言われるのが「委員長をやっているから慣れているだろ?」だが、公の場で話す内容と他の人と一対一で話すのは訳が違う。


 人の前で話すのは慣れてはいるが、一対一で話すのは未だに得意ではない。


 それも、俺のジャージの匂いを嗅いでナニをしていた元カノ。第一声に相応しいのはなんだ?


『やっはろー! 今日は天気がいいよねっ、そう言えば俺のジャージ持ってきてる?』


 いつからこんな明るいキャラになったんだ、俺は。


『やぁ、久しぶりだな! 昨日は色々あったが元気かい?』


 いつからこんな爽やかイケメンになったんだ。俺は。


『なぁ、昨日のあれはなんなんだよ!! ジャージは返してくれるのか!!』


 これはあまりにも迫力があり過ぎるだろ、喧嘩腰だし。

 てか、こんなこと言ったら一生話せなくなる。

 俺としては今後も仲良く話せるようにしておきたいし、それでいて自然な流れに持っているくらいがいい。


 ならば……。


『お、おい時雨っ。その、昨日のことなんだけど……この後時間あるか?』


 ——とかの方がいいかな。

 

 よし、そうだな。

 ひとまずは放課後あたりにでも時間作ってもらえるように交渉して、誰もいない場所で色々と話すことにしておこう。


 あぁ、一度は分かり合えた仲なんだ。きっと大丈夫、そうだよな。




 しかし、この時の俺はまだ知らない。

 まさか、時雨のやつと抱き着いてしまうことを……。






 次回、烏目雄太の困惑。

 タイトル変えちゃったの気づきましたかね? ギリギリのラインを責めたつもりです!


 前回はハルヒということで今回は中二恋のネタを出しちゃいました笑

 僕は六花ちゃんが大好きで、京アニで買ったタペストリーを家に飾っています。二次元の嫁は誰かと聞かれたら浮気になるけど六花って答えるくらいには好きです!



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