第2話「烏目雄太の憂鬱」
結局、俺は忘れていたジャージを持ち帰ることはできず、いつもよりも重くなった足を引きづって帰路に着いていた。
帰り道は何も考えることができなかった。
あまりにもな状況に声すら出なかった。まあ出たは出たが心の中では出なかった。
だって、ありえるか?
あんな状況?
不思議で修羅場的な状況に気が動転して、まともな思考ができなかった。
なんなら、あれは出来過ぎたドッキリなのではないかとさえ疑った。
別れたのはドッキリの始まりで実は元カレの体操着の匂いで慰めちゃうくらい好きだった――的な?
いや、動揺と言うよりか、もはや願望かもしれない。あれが望んでいたことだった可能性まである。
うちなる俺が考えていた妄想が具現化した?的な。
まぁ、未練はたらたらだし想像していても仕方ないだろう。
それよりも、今後どうするか……しっかり考えないとだな。
玄関を開けて家の中に入る。
「ただいま……」
「おかえり~~、今ねーちゃんがご飯作ってるからなぁ~」
「あいよぉ……」
「ん、あれま。どうしたのゆうちゃん。元気なくない?」
そう言いながら台所から出てきたのは俺の姉さん、
母親がいないシングルファザーの家庭で唯一いる女性であり、昔から俺の面倒を見てくれている。
お母さん的な存在ではあるが年齢は22歳。
女子大生で、大学院に進学するらしいがその辺知らない。とはいえ、いつも勉強と両立で家事までしてくれてこちらとしては嬉しい限りで頭が上がらない。
「ん~~っしょ、だいじょぶ、元気?」
歩み寄り、ほっぺを両手で引き延ばす姉さん。
「うぅ~~」
「うん、ほらっ。ほっぺに張りがないよ?」
「うぅ~~はめてくだはいぉ~~」
「んもぉ、何かあった? 嫌なこと?」
「嫌なこほぉ……ってわへへはぁ、ないへほぉ~~」
「うん、けど?」
しゃべろうとすると姉さんの手が離れて、肩にストンっと落ちた。
「まぁ、そのいろいろ重なってって感じかな」
「そ、そう……駄目だよ? あんまり無理したらぁ」
「大丈夫だよ。限界は分かってるし……」
「なら、いいけども……」
「姉さんは心配しすぎだよ」
「だって、可愛い可愛い弟だもの……」
「どっちかというと息子なんじゃないの?」
すると少しの間黙り込んで、手のひらに拳をポンッと降ろしてこう言った。
「あぁ~~、今腑に落ちた!」
「やっぱり……」
「よし、それじゃあこれからは私の事をママって呼びなさい!」
「やだ」
「うわ、まさか反抗期?」
「……違うわ、誰が実の姉をママって呼ぶか。だいたい、ママってなんだ、俺は幼稚園児か?」
「ん~~じゃあ、お母さんでもいいわよ?」
「根本が違うっての!」
そう吐き捨てて俺は階段を上って部屋まで向かった。
「……あらあらぁ、もしかしてイヤイヤ期なのかしらぁ」
それは1歳2歳の話だっつーの!
部屋に入り、溜息をつく。
「ふぅ……」
毎回思うが、姉さんは少し過保護だ。
俺はもう高校生だっていうのになんでもかんでも心配してくる。
もちろん、いろいろしてくれることは本当にありがたいが少しは認めてもらいたいものだ。
肩の力を抜くとドッと疲れが溢れ出てきた。
リュックをその場に放り投げて、ベットに倒れ込んだ。
「くそぉ」
再び、溜息が漏れる。
漏れた息がベットのシーツに沁み込み、生温かくなって寝返りをうつ。
仰向けになり見えてきたのは知っている天井だった。
知らないこの気持ちに胸を締め付けられながら見る知っている天井はこれまた不思議な感情になる。
そりゃ、身構える事なんてできるわけないじゃないか。
俺の元カノが俺の机に座って、俺のジャージで自らを慰めていたんだから。
急展開が過ぎてよく分からなくなってくる。
未練がまだある俺にとって、これは喜んでいいことなのかも分からない。
新手の嫌がらせなのかとも考察で来てしまって、頭の中はひよこだらけだった。
まず、彼女はあんな人間だったろうか。
俺の元カノ。
出会いは高校1年生の時の席替えだった。
何気ない始まり。
『よろしくね』
『おう、俺こそ』
可愛い笑顔に見惚れてしまって、様々なことを重ねて夏休みが終わる頃には告白をして、付き合うことになった。
それから付き合っていた期間は半年ほど。別れてしまったのは丁度1カ月と少し前だ。
ひいき目で見るわけではないが時雨はルックスがとてもいい。
どうして俺なんかと付き合ってくれたのかと目を疑うほどにいいのだ。
焦げ茶色の肩まで垂れる長髪に、ブロンズ色の綺麗な瞳。
体格は小柄で特段胸も大きいわけでもない。むしろ気にしているくらいで可愛い所もある。
友達も多く人望もあり、何より純粋で可愛らしい。
一生懸命頑張るところや、少しツンデレなところも、活発でハツラツなところも彼女のいいところだった。
結局、別れてしまったが今でもそう思っているくらいには良い人だった。
ありふれた言い方が今の俺にはそうとしか言えない。語彙力のなさを許してほしい。
しかし、そんな彼女がどうしてあんなことをやっていたのか?
「……んっ」
生唾を飲み込み、頭を冷やす。
冷静に考えて、ヤバいところに鉢会ってしまったんじゃないのか? 俺は。
元カノが自慰している所を見てしまっただけではなく、普通に考えて場所がおかしい。あそこは時雨の家ではない。
学校だ。
それも、俺たちがいつも生活で使う6組の教室でやっていたのだ。
しかも、俺の使用済み体育ジャージの匂いを嗅ぎながら。
これは一体――。
――ん、いや待てよ。
これって役満だよな?
確実に揃ってるよな?
時雨もまだ俺の事が気になっていて、感情が爆発してあんな感じになってしまったとか。そういうこと……って言う可能性もある?
いやでもやっぱり、あれは新手の嫌がらせで私のでいじめつくしてやろうって言う可能性もある。
「あぁ~~くそ! やっぱわかんねぇ!」
考えても
やっぱり、明日直接聞きだすしかないか?
安直だが、正直それ以外の方法が思いつかねえし。
それに、未練たらたらなこの気持ちも話すことで晴れるかもしれないか?
いや、いっそのことここからまたいい所に持っていければ時雨と復縁することだって可能だ。
諦めたらそこで試合終了って先生も言っていたじゃないか。
これを機にそういう仲に持っていくのも大いにありだ!
この記憶はひとまず胸にしまって、ジャージ返してもらうついで色々聞き出してみることにしよう!
「ゆうちゃ~~ん! ご飯できたよぉ~~!」
「今行く~~!」
そうして、この日から。
俺のやり直し恋愛が始まった。
【あとがき】
次回、鹿住時雨の発情、お楽しみに。
大体深夜0時頃に投稿しますのでよろしく。
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しっくすないん……ぐへへ。
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