第3話 濡れ衣


 ──…王国の外れ…──


 ケルベロスに乗ったギーは、シールの居る古小屋に目指していた。


 しかし、シールの魔力に寄り、すっかり地形が変わってしまっていた。

 小川は大河になり、その大河ですら地面の隆起りゅうきき止められ、野原一面が進むのが困難な程に浸水していたのだ。


「な、何だこれは!?何が起こってるんでげすか!?」


 あまりの光景にギーは、開いた口を塞げずに呆然と浸水した野原を見渡していた。


「ギー。見ろ、アレ」


 ガーゴイルは、ギーの肩を指で小突きながら川のとある漂流物を指差した。


「何か見つけたでげすか? んん…?はぁあ!?」


 ギーは、その漂流物を凝視して目を見開き思わず声を上げた。漂流物をの正体は、白目をいたシールだったのだ。


 痛みで動けずに居たシールは、自分で氾濫させた川に溺れてたのだ。


「あのバカァッ!! ガーゴイル君!早くアレ拾ってくるのでげす!!」


 ギーは、慌ただしく漂流物シールを指差してガーゴイルに指示を出した。


「仮にでも勇者をアレって…」「それに拾えって…余程嫌いなんだね。おじちゃん…」

 引き気味のガーゴイルに続いてケルベロスは、ギーに同情する様に呟いた。


   ◆


 ガーゴイルに川から引きり上げられた半ケツの気絶したシールをギーは、思いっ切り揺すっていた。


「シール殿!!何が起きたのでげすかぁ!? ……起きろバカ!!」


 ギーが白目を剥いたシールを殴ろうと手を上げた瞬間───「がぼっ!げほ!げほ!!」


 シールは、咳き込む様に水を吐きながら目を覚ました。


「うわ汚な! シール殿ぉ!!嗚呼ああ!良かったでげす!大丈夫でげすか?」


 ギーは、シールを突き放す様に離れると失礼を誤魔化す様に大袈裟に心配そうに言った。


「その声は、ギーじいさん……? は…っ!?」


 顔を拭いながらゆっくりと体を起こしたシールは、ギーを見上げてその頭上に広がる赤紫色の空に目を丸くした。


シールは、ギーの頭上に広がる赤紫色の空に目を見開いて起き上がった。だが、胃が揺さぶられてシールは、ギーに背を向けると直ぐに膝を崩した。


 シールは、瞬時に何が起こったのかを理解していた。だから、混乱気味の頭で必死にその言い訳を考えていた。


この空コレってアレだよね?俺が魔力の溜め続けて、小指と頭打った時に魔力アレ暴走アレして、現世こっち魔界あっち分断アレしてる結界アレを破った感じだよね?”


 シールは、体を震わしながら涙を必死に堪えて空を見上げたまま固まっていた。


「し、シール殿ぉ…?」


「分かってる。国王が呼んでるんだろ……わかってる…」


 ギーをなだめる様に答えるシールだが、ギーがその手を引いても一切動こうとはしなかった。


「シール殿?早く行くでげすよ? おーい。……聞こえてんのかバカ」


“何か、何か無いか!? …っ!そうだ!全部、魔王の所為せいにすれば良いんだ! それでまた魔王を倒せば、勇者としての威厳いげんも保てる!それどころか信頼も評価も爆上がり! それに遅かれ早かれ、何かしらの悪事働くだろ?魔王なんだし。よしっ!決まりだ!”


 シールは、ゆっくりと立ち上がって不敵な笑みを浮かべて吹き出しながらギーに振り返った。


「ギーじいさん。落ち着いて聞いてくれ。…どうやらフッ、魔王が復活したらしい! こうしちゃ居られない!早く国王の元に行くぞ!」

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