第2話 王国と魔物


 ──…王国の城内…──


「こっ!国王陛下ぁ!!ご無事でござりやすかぁ!!」


 側近そっきんのギーは、ベランダで空を見上げる国王のルドンに慌てて近付いた。


「ギー大臣!一体何が起きている!? この空は……!」


「話は後でげす! とにかく陛下!中へ!」


 ギーの言葉に力強くうなずき、王室に入ったルドン。王室内では、メイドや執事がルドンの貴重品や衣服を慌ただしくまとめていた。


 その様子にギーは「くぉら!もっと丁寧に扱うのでげすよ! ここを奥に詰めればまだ入るでげしょうが!」と声を張りながら指示を出し始めた。


 ガチャ!「失礼するのであります!!」


 扉が開き、甲冑かっちゅう姿の護衛兵が入って来てルドンの前で膝を着いた。


「国王陛下!避難の準備は、整っております!どうぞ此方こちらへ!」


 ルドンは、護衛兵の言葉に「避難だと…? 何を言ってるんだ!私の事は良い!早く国民を城へ避難させるんだ!」と声を荒げながら言うと護衛兵の横を通り過ぎた。


 その様子に護衛兵は「こ、国王陛下!?」と戸惑いの声を上げながらルドンを目で追いながら戸惑った。


「大臣、シール殿を呼んでくれ……!」


 ルドンは、ギーの肩を叩いて周りに聞こえない様に耳元で言った。


「ひええぇ!?」


 ルドンの言葉にギーは、悲鳴を上げながら目を丸くした。

 ルドンは、ギーから離れると執事やメイド達に近寄り「そんな事はしなくて良い!君達も早く国民の避難を支援するんだ!」と言って急ぎ足で王室を出て行った。


 王室内の誰もがポカンと固まっていた。


「…全く、貴方あなたと言う御方おかたは…! お前達!陛下の御命令が聞こえなかったでげすか!? 早く行くのでげす!!サボったら食後のデザートは抜きでげすよぉ!?」


 ギーは、少し安堵あんどしてるかの様に頬を緩めながら王室中に声を広げた。


「は、はっ!直ちに!!」「御意ぃ!」


 護衛兵とメイド達は、手に持った荷物を丁寧に床に置くと慌てて部屋を出て行った。


 息を切らしながら走るルドンは、謁見えっけんの間に辿り着いていた。


「はあ!はあ!ジト隊長!」


 肩を上下させながらルドンは、王座の前で指揮を取るジトに近付いた。


「むむ?国王陛下!?」


 ジトは、ルドンの姿を見るや否や驚きの声と共にその場で膝を着いた。


「これは…何をしてるんだ?」


 綺麗に整列した兵団を見渡すルドンの言葉にジトは、顔を上げた。


「はっ!突然、街に大量の魔物が現れたので迎撃態勢を取っていた所であります! それより、国王陛下!避難なされたのでは無いのですか!? 使いの者を送ったハズなのですが?」


「魔物!やはりか……っ!」


 ジトの言葉に下唇を噛むルドンは、マジマジと兵団の一人一人を見つめていた。そうしてると、兵団がルドンの存在に気付き始めザワつき出した


「国王陛下!?」「なぜ陛下が!」「バカ!国王陛下と呼ばないか!失礼だぞ!」


 その一人一人の言葉に答える様にルドンは、頷きながら手を上げた。すると瞬時に静まり返った。そして、ルドンは、ジトに向き直った。


「ジト隊長、今すぐに武装解除をするんだ。魔物は、決して悪い存在では無い!」


 その言葉にジトは「なっ!何を仰っておられるのですか!?」と立ち上がり声を張り上げた。しかし、ルドンは、怯む事無く兵団を見渡した。


「皆の衆!武器を下ろし────」「ちょっ!どう言うつもりですか!?」


 ジトは、失礼も処罰の承知と覚悟を固めて食い気味にルドンに詰め寄った。だが、ルドンは一切動じる事無くジトを見つめた。


「ジト隊長。魔物による被害はあったか? 争いたく無いのは、魔物達も同じなハズだ。それよりも国民の避難を優先してくれ。…どうか……!」


 ルドンがそう言ってジトに頭を下げようと視線を落とした瞬間。


「…! 失礼します!」


 ジトは、そう言って、素早く膝を着いてのルドンのすそに付いたほこりを払った。


 そして、ジトは立ち上がり、ルドンに敬礼すると兵団に振り返った。


「お前達!国王陛下から直々じきじきの命だ!! 総員!民の避難を誘導サポートしろ!! 武器の使用は、魔物達から攻撃してきた時のみに許可する!! さぁ!行くのだ!」


 ジトの言葉に兵団は「うぉおおお!!」と雄叫おたけびを上げて流れる様に城を飛び出した。


 呆然とするルドンにジトは、溜め息を吐きながら振り返った。


「これでよろしいでしょうか? これまでの失礼をお許し頂きたい所ですが…国王陛下。もう少しだけ、国王と言う自覚を持ち、それに見合った振る舞いをして頂けないでしょうか?」


 ジトの言葉にルドンは、少し申し訳なさそうに俯きながら「う、うむ…。しかし、ジト隊長、何故?」と言った。


「仮に魔物が悪い存在では無いとして、そんなに急いで国民を避難させる必要がある。つまり、別に危険な存在が在ると言う事ですよね」


 ジトの言葉にルドンは、参ったと言わんばかりに苦笑いを浮かべた。


「…あぁ、流石はジト隊長だ。隠し通すのは無理らしい。しかし、パニックを避ける為にも話は、後にしてくれないか? あと、礼を言わせてくれ、ありがとう」


 ルドンは、そう言ってその場を立ち去り、ジトは、ルドンの姿が見えなくなるまで、敬礼をしていた。


 ルドンとジトの一部始終を陰から見ていたギーは「ワシが出る必要は、無さげでげすね……」と溜め息混じりに呟いた。


 そして、ギーはふところから魔法陣の札と、ガーゴイルとケルベロスをした小さな石像を2つ取り出した。

 シワを伸ばしながら札を床に置き、その中心部に石像を2つ乗せると首から下げてるネックレスの小刀で指を切って、血を石像に垂らした。


「さぁ!目覚めるのでげす! あのアホ…違った、シール殿をお迎えに行くのでげす!」


 ──…王国の街…──


「きゃあああ!!」「魔物だぁ!!」「逃げろー!!」


 その頃、街の人々は、突然現れた多くの魔物に騒然としていた。対して、魔物はポカンと逃げ惑う人々を周りを見渡して呑気に話し合っていた。


「なぁ……何が起こったのか分かるヤツ居る?」


「えぇ…? まぁ、取りえず下手に動かない方が良いって事は分かるよ?」


「にしても、凄い空の色だね。現世ここの時間と魔界こっちの時間は、反対だけど、月と太陽の位置と動きが同じだから常に月食状態って事だよな?」


 魔物達は、逃げ惑う人々の邪魔にならない様にと道端に固まって屈みながらその様子を眺めていた。


「ニヒヒヒ!何かさ!こうやって見てると人間って面白いな!」


 手足の生えたモヒカン頭のさめの様な子供の魔物はニヤ付きを抑える様に口に手を当てながら言った。


「いやぁ……ここに居るだけでこんなに避けられるのはぁ、普通に傷付くんだけどぉ…? 仲良くなれないのかなぁ…?」


 鮫の魔物の隣に居る、タンポポから根の束の様な手足が生えた見た目の魔物の子供は、うつむきながら言った。


「そんなに落ち込むなって!耳かき!」「綿吹きたいのぉ?B級サメ野郎ぅ」


 そうやって話してる2体の魔物の子供だったが、その背後ではローブをまとった男性がゆっくりと近付いた。

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