勇者失格・化けの皮

丫uhta

第1話 最悪な寝起き


 山一つ無い広大な野原に朝を告げる風が吹き、草木はサァと音を発て揺れ始めた。


 朝日の射し込み、教会の鐘が鳴り響く王国。その離れに草木の波の中、小川のほとりにポツンと一軒の古小屋が建っていた。


 風揺れる大きな葉っぱのカーテン。そこから日光が射し込む陽射しから逃げる様にベッドの上で寝返ったのは、勇者のシールだ。


 バサバサ!


 カーテンの隙間から一話の小鳥が入って来てうつぶせのシールの背中に止まった。


「う…うぅん…?」


 呻く様な声を漏らしてグズるシール。小鳥はピョンピョンと跳ねながら頭の上まで移動した。


「ピピッ!ピュイイ!!」


「ぅぁっ……!!」


 鳥は、部屋中に響く程に大きな鳴き声を上げた。その声に驚いたシールは、鳥を捕まえ様と体を起こした。しかし、鳥は、バサバサと羽音をたてながらあっという間に部屋から出て行ってしまった。


 寝惚ねぼまなこのシールは、布団に包まれた体を上手く動かす事が出来ず、そのまま流れ落ちる様にベッドの横に倒れた。


 ドジン!


 シールが落ちた衝撃で部屋が揺れ、壁の貼り紙がピラッピラッとシールの顔横に落ちた。


『魔力を溜めない事!空いた時間に発散する事! 国王ルドンより』


 シールは、紫色の目を薄らと開けて天井にぶら下がるランプを見つめた。


“朝かぁ…眩し…”


 そんな事を思いながらシールは、ベッドの枕を自身に引き寄せて顔に被さる様に移転させた。


「ふあぁぁぁあ…あー、起きなきゃ…」


 大きな欠伸をしたシールは、自分に言い聞かせる様に呟くと、体を包む布団は、一瞬で広がり、まるで二足歩行の生き物かの様に枕を持ち上げ、ベッドの上に歩き戻った。


 赤みのあるさび色の大きなシミの付いたTシャツに、ちょっとカビたパンツ姿のシールは「小腹、空いたなぁ…」と言いながら立ち上がっり、床の鳥のふんを器用に避けながら歩き出した。


 床に転がるびた武器と腐った肉をシールは、蹴り飛ばしながら赤色の髪をいて首筋の斬り傷の血を拭うと舐めた。


 ダランと両腕を下ろした猫背のシールは、着替えの入った棚に近付いた、次の瞬間───ゴヅッ!


 その時、理解が出来ずに固まっていたシールだが、間も無く訪れる感覚に目を見開いた。


「うぎゃぁああああ!!」


 まるで、雷が足の小指だけに落ちたかの様な衝撃と痛みにシールは、今までに出した事の無い大きな叫び声を上げた。


 コォォォォ…!


 途端、シールの体は、赤い光を帯び始め、部屋中を赤く染め照らした。


 今まで発散せずに溜め込んでいた魔力があふれようとしてるのだ。


 間髪かんぱつ入れずにぶつけた足の小指を押さえようと屈み込もうとしたシールはだが───ガァン!


 今度は、額を棚の角にぶつけてしまった。


「ぐぉあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 パドォオオオン!!


 大きな爆発音と共にシールの体から膨大な魔力が一気に空へ放たれた。


 小屋は、木っ端微塵こっぱみじんに朽ち消え、辺りの草木を地面ごとまくり上げられ、小川は、大きく広がると同時その水の量も急激に増えた。


 そして、空に放たれた魔力は、晴天だった空を禍々しい赤紫色に染め上げ、ポッカリを穴を開け渦を巻いていた。


 ズゴゴゴゴゴ!!いびきの様な音共に空のヒビは、瞬く間に王国を覆い尽くす最中。


 シールは「グスッ! 痛いよぉ……」と痛みに体を丸めて泣いていた。

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