第9話 人質
──…王国の町…──
「その子達を放すんだ!」「その子達が何をしたっていうの!?」
魔物達は、シールの被害を受けてない民家を取り囲んでいた。
「黙れぇ!この化け物共め!子供の命が惜しけりゃ、今すぐに勇者を連れて来い!!」
ローブを
「…苦しいんだけど? この人八つ裂きにしちゃダメ?」
「そんなエグイ事ぉダメに決まってるでしょぉ。戦争になっちゃうよぉ? 僕だってぇ、この人の肺を胞子で満たして窒息させたいの我慢してるんだからぁ」
「…お前の方がエグくない?」
盗賊の男は、2人の会話に一切耳を貸す事無く怒りに震えていた。
「そこまでだぁ!!」
開いたドア。魔物達の壁の向こうから声が聞こえてきた。盗賊の男は、咄嗟に短剣を魔物の壁に向けた。魔物達も一斉に振り返ってザワ付き始める。
「ママルマ様だぁ!」「え!ちっさ!なんでぇ!?」「ママルマさまぁ!可愛い!遊ぼ!」
立て籠もりの最中だと言うのに歓声の様な声が響き始めた。ママルマの姿を一目見ようと民家を取り囲んでいた魔物達は、少しずつ手の平を返したかの様にママルマの元に集まり始めた。
先程まで心配していた魔物達が離れて行く様子に盗賊の男と魔物の子供は、困惑していた。
「助けに来たんだろうけど、流石にそりゃないだろ…」「ねぇねぇ?ボクもぉ行って良いぃ?」
2人の言葉に「お、大人しくしろ!」と盗賊の男は、気を入れ直す様に言った。
「うむ!様は要らんぞ!小さい言うな!おぉ!大きくなったなぁ!この愛くるしさに恐れるが良い!用事が済んだら遊んでやろう!」
ルドンの腕に抱えられたママルマは、一人一人の言葉を聞き逃す事無く、丁寧に返しながら民家を目指していた。
「さて、皆の衆!道を開けてくれるかな?」
ママルマの改まった言葉に魔物達は、一斉に盗賊の男が立て籠もる民家までの道を開けた。
「なんと言う、団結力と統率力だ…!非戦闘とは思えん…!」
思わず感激の言葉を漏らすルドンの背後から回り込む様にジトが先頭に立った。
「おい!出て来い!お望み通り勇者を連れて来たぞ!」
盗賊の男は、ジトの言葉に眉を潜めて、開いたドアの地続き、目の前のルドン達を睨んだ。
ジト、ルドンとママルマ、モーリの腕にギーと続いてパンツ姿のシール。
「き、来やがったなぁ…!化け物めぇ!」
盗賊の男は、シールと目が合った瞬間、これでもかと睨み付けて体を震わしながら魔物の子供を抱えたまま民家から出た。
しかし、シールしか見えて無かった様で目の前のルドンの姿に驚いた。
「っ!?お前は国王!? いや、今はそんな事どうでも良い!そこを退け! お前達も邪魔だ!」
盗賊の男は、そう言って抱えていた魔物の子供を近くの木の歯車の様な魔物に押し付けてシールに近付こうとした。
「待て貴様! 国王陛下の元を横切ろうとするか!!」
ジトは、咄嗟に盗賊の男を押さえて県の柄を握った。すると「君は、何故シール殿を狙うのだ?」とルドンは、嫌な予感を感じつつも盗賊の男を見つめながら聞いた。
「あぁ!? 何だアンタ?ソイツの正体を知らねぇのか? だったら今すぐにでもソレから離れた方が良いぜ? ソイツは化け物だ!!昨日の夜、俺の仲間は……ソイツに食われたんだよ!! 早く出て来い!俺と勝負しろ化け物! テメェだけは、許さねぇ!! アイツ等の仇を…取ってやる…っ!」
ジトに抑えられる盗賊の男は、目に涙を溜めながら、シールに剣先を突き付けた。
『……ええぇ!!??』
周りの魔物達は、盗賊の男の言葉に声を揃えて一斉にシールから逃げる様に距離を取った。
ルドンは、体を震わしながらママルマをモーリに渡すと「シール殿…どう言う事か説明してもらおうか…!」とシールを睨んだ。
“あれ?何かマズイ事したっけ…?”
シールは、不思議そうに首を
「ん~?そんなに驚く事かなぁ? まぁ普通に食ったけど…でもさぁ、昨日、君達が家に来た時さ、何でも良いから食わしてくれって言ってたアレって、俺の気持ちを代弁してくれた上で食って良いよって合図じゃなかったの? まぁ、食べようとしたらいきなり首斬られたのは驚いたけど…」
シールの言葉に周囲が凍り付く中。ママルマは、口から炎を漏らしながら体を震わしていた。そんな周りを見渡すシールは、怪訝に顔を歪めた。
“腹が減ったら食べるのが当たり前じゃないの…? 何が変なんだ?”
「このっ……!バカ者がぁあ!!」
ママルマは、口一杯の火炎弾をシールの頭に向けて放った。シールは、振り返って「えぇ…理不尽過ぎない?」と唇を尖らしながら火炎弾を避ける事も無く顔で受け止めた。
ガボォン!!
爆発と共にシールの頭は黒煙に包まれ足元には、細かい火の粉が雨の様に零れ落ちていた。しかし、シールは、倒れずに直立していた。
「げほっ!げほっ! この体じゃ、負担が大きいか……!」
ママルマは、咳き込みながらグッタリとモーリの腕に寄り掛かりシールを睨んだ。
ルドンとギーは、シールの隙を突く様にママルマに駆け寄った。
盗賊の男は、ジトと魔物を押し退けてママルマに近付くと睨んだ。
「テメェ…何してくれてんだ? アイツは、俺の…!」
ドサッ!
盗賊の男が悔しさに短剣を握り絞めたその時、何かが崩れる音が聞こえ、シールの方に振り向いて目を見開いた。
「まぁ、確かに…急に食われたら怒るよね。俺も採った魚を小熊に奪われた時は、山を池に沈めちゃったし…悪かったよ…」
“フッフッフッ…こうやって、素直な所を見せてやれば許してくれるだろ。それに、勇者にも間違いがあるんだって親近感を持ってくれるに違いない!”
シールは、四つん這いになって黒煙が上る大きな頭から人の腕が4本、飛び出ていた。
シールから飛び出た腕は、地面に手を着けると這い出る様にして、ズルズルと体を引き摺り出した。
「ほら、返すよ。君の仲間」
出て来たのは、若い男女2人だった。何が起ったのか理解出来なかった盗賊の男だが、目の前で寝そべる2人の姿に感極まった様子で短剣から手を離すと2人の元へ駆け寄った。
「ぅ…?んん…?ってわぁ!? 化け物ぉ!! ってボス!」
「っさいなぁ…って!のわああ!? ボスゥ…ガクッ…」
間も無くして目を覚ました2人、女性の方は、盗賊の男のを見ると嬉しそうに飛び起きたが、男性の方は、目の前を取り囲む魔物達にそのまま気を失った。
「ララ…?パン…? ほ、本当に…本当にお前たちなのか…?」
ボスと呼ばれた盗賊の男は、そう言いながらも2人を力強く抱き締めて涙を流していた。
「いやぁ~!感動の再会だね!良かった良かった!はいコレ!」
シールは、心底嬉しそう言いながら2人の武器と思われる槍と銃を盗賊の男に差し出した。
途端。シールの目の前から盗賊の男がヒュンと言う風を切る音と共に姿を消した。それと同時にシールは、胸に走る衝撃に困惑していた。見れば、胸には、盗賊の男の短剣が突き刺さっていたのだ。
盗賊の男は、倒れるシールから武器を奪い取り2人に差し出した。
「ララ!パン!立て!」
ララは、銃と槍を受け取り「おい!パン起きるっすよ!」と言ってパンの胸ぐらを掴んだ。
「…本来なら、アンタ等のお宝を頂きたい所だが…国王!力を貸してくれ! ヤツを倒す!」
盗賊の男は、涙を拭ってルドンを背にシールと向き合った。その背中にジトは、嬉しそうに頬を緩めると剣を抜きゆっくりと盗賊の男の隣に立った。
「ジトだ。お前、名前は?」
「あ?何だ?一国の名誉ある兵が、盗賊に名乗るなんてな!無様だな。…シモシだ」
力強い2人を挟む様に銃を構えたララと槍を持ったパンがやって来た。
「ボス?誰っすか?このオジサン?」
「ララ、失礼だよ。その人、多分俺達よりずっと強い」
2人の言葉にシモシは「ばかやろうが…スッ込んでろ…!」と言いながら再び嬉しそうに涙を溜めた。
ギーは「やれやれ…。国王陛下、ここまで来たらやるしか無いでげすよ…!」と仕方無しに言いながらケルベロスとガーゴイルを召喚した。
いつ戦いが起きてもおかしくない程に張り詰めた空気とギーの言葉に頭を抱えそうになるルドンは、縋る様にママルマを見下ろした。
「ママルマ様…魔物達に避難する様に言わないのですか?」
「ルドン王!いくら非戦闘の集まりだからって舐められちゃ困るぞ!ほら見ると良い!」
ルドンの言葉に強気な笑顔で答えるママルマ。その言葉にルドンが魔物達を見渡すと、誘拐されていた子供も含めて全員が怒りを浮かべながら魔力を溜めていた。
「勇者シール!! お前の目的は分からないが!元の世界を…アタシ達の世界を取り返させてもらうぞ!!」
“…え?世界?…何の話?”
ママルマ言葉を聞きながらシールは、胸の短剣を引き抜いた。その瞬間、まるで封印が解かれたかの様に頭の黒煙が消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます