第8話 神様


「さて、シールについて話をするとしよう。ママルマ様、少し離れてもらえるかな?」


 ルドンの言葉にママルマは「す、すまぬ」と言ってルドンから離れるとモーリの腕を握ってルドンと向かい合った。


 ギーは、使い魔を石像に戻すと自分達を囲む様に地面に小刀で魔方陣を掘った。


「これで、この中の音は外には漏れないでげすよ」


 ギーの言葉にルドンは頷いた。するとジトは「では、自分は見張りをします」と言って魔方陣から出ようとした。


「いや、ジト隊長。何れ話す事だったからここに居てくれ。…さっきのを見たから分かるだろうが。シールは、人間では無い。結論から言うと…アレは、現世と魔界、この世界を司る神様なんだ」


 ルドンは、ジトが座る事を確認するとそう話し、その内容にギー以外の全員が驚いた。そんな中でもママルマは「アレが神様だ!?」と目を丸くした。


「女王陛下!お止め下さい!失礼ですよ!!」


 ママルマは、モーリに体を抑えられながらも話を止めなかった。


「数年前。アイツが魔界で何をしたのか、どこまでルドン王が知ってるのか分からない。けど、アイツは!突然やって来たと思ったら街の皆を人質にして! アタシも抵抗したんだけど…。アイツの顔…っ!」


 そこまで言うとママルマは、あの時のシールの顔を思い出し思わず体を震わしながら黙り込んだ。透かさずモーリがママルマを優しく撫で始めた。


「すみません。私は、気が付いたら意識を失ってまして…傍には卵型に固められた炭が…でも、ヤツの顔は…!」


 モーリは、恐れと悔しさの混ざった声で手を止めて震わせた。


「あのバカ…!よくもまぁ意気揚々と魔王を倒したから勇者にしてくれと申し出られたでげすなぁ…!!」


 2人の様子にギーは、顔を逸らし歯を食い縛りながら拳を固めた。ルドンは、申し訳の無さから言葉を失い、頭を抱えた。


 戸惑うジトは「こ、国王陛下。その…ヤツの目的は何なのでしょうか…?」と話題を変える様に言った。


「…奴の目的は、この世界の分断だ。奴は、きっと無意識だろうがね。神にとって、現世と魔界が交わる事は、不都合な事なのだよ」


「分断…? ヤツを倒す事は、出来るのですか?」


 ジトの質問にママルマは、顔を上げてルドンを見つめた。その視線にルドンは、確認する様にギーの方を向いた。

 ギーは「国王陛下、話すなら分かってるでげすね?最低限にお願いでげすよ」と警告する様に言った。


「ああ、分かってる。…神を倒すには、奴自身が神である事を自覚させる事だけだ。言うならば奴に本当の名前を唱える事なのだ」


「そんな事なら早く倒そうよ!知ってるんでしょ!?何でそんなに勿体振るのさ! ルドン王もおじちゃんも!アイツの事大嫌いなんでしょ!?」


 ママルマは、ルドンの傍に近寄り訴える様に声を張り上げた。モーリは「女王陛下!」と言いながら直ぐにルドンからママルマを引き離した。ママルマの言葉に反応したのは、ギーだった。


「えぇ!大っ嫌いでげすとも! でもね?ママルマ様、死ぬのは、あくまで殿だけでげす! 肝心の神は死なないし、すぐに別の肉体と共に復活するんでげす!そうなると、せっかく神の生まれ変わりが誰なのかが分かったのにまた、振り出しに戻る訳でげす! 自分が神である記憶を失い、人の姿で本来の力を使わないにしても!自分の異常性を当たり前だと考えてるアホ! 如何なる対策をしようとも勝手にトラブルを起こす!正体が割れたら周りから離して最低限の監視下に置くのが一番安全なのでげす!」


 心底嫌そうに早口で話すギーの隣でジトは、魔方陣の外、建物の影にローブを着た男が隠れるのを見逃さなかった。


「…国王陛下。お話の途中で申し訳ないのですが、少し、席を外します。続きは後程に」


 ジトは、そう言って立ち上がると素早い動きで男の隠れた建物の影に走って行った。ジトを見届けたルドンは「そろそろ、話を終わりたい所なのだが、最後に私からも聞きたい事があるのだが良いかな?」とママルマに視線を送った。

 ママルマは、気難しそうに顔を歪めつつ「う、うん。話してくれてありがとうございます」と言った。


「それじゃ、ママルマ様は、どうして現世に憧れを持ってて共存したいのかな?」


「それは…それがこの世界の本来の姿だからって昔話にあって。魔界と現世。魔物と人間が仲良く過ごせたら良いなって…。やっぱり無理かな…?」


 ママルマは、自信無さ気に俯きながら呟いた。ルドンは「いや、無理なんて事決して無いよ」と微笑みながら優しくママルマの頭を撫でた。


「…ところで、あのアホ。やけに大人しいでげすな? 国王陛下、嫌な予感がするでげす…」


 ギーは、そう言って立ち上がると教会の奥の部屋、休憩室を見つめた。


   ◆


 コンコン…ガチャ


「シール殿?……おいアホ?…っ!?」


 ギーは、吐き捨てる様に言って扉を開けると目の前で白目を剥いたシールが倒れていた。


「ど、どうなってるの!?」


 ママルマは、話が違うと目で訴えながらルドンを見上げた。しかし、ギーはシールの口に何かある事に気付くと「このっ…!バカァァア!!」と声を荒げて思いっ切りその顔をブッ叩いた。


 バチィィイン!!


 「このクソ!飴を喉に詰まらしてるでげす!おい起きろ!」


 ギーの言葉にルドンは、呆れと安堵の混じった声で「……大丈夫だ、死んで無いよ」とママルマに言った。


「で、でも!息が出来なきゃ死んじゃうじゃ!」


「ママルマ様。ご安心くださいでげす。こいつは、体の構造がぐちゃぐちゃで食べるのが下手ですぐに喉を詰まらすのでげす。でも、仮にでも神でげす。名前を呼ばれたり、コイツ自身の気が変わらない限り決して死ぬ事は無いでげす!」


 ギーは、これでもかとシールを踏み付けながら言った。その話を聞いていたモーリは「取りあえず、今はシール殿を目覚めさせれば良いのですよね? 私も混ぜて貰ってもよろしいですか?」と腕に青筋を立てながら手探りでシールに近付いた。


「えぇ!当然だとも! ささっ!コレでげすよ!」


「ありがとうございます」

 

 ダゴォオオン!!ズドォオオン!!


 モーリは、拳を固めた腕を振り上げてシールの顔面を殴りつけた。一発一発がトドメと言わんばかりにモーリが殴る度に床にヒビが入り、シールが徐々に陥没する床に吸い込まれていく。その様子にママルマは「やれー!やっちゃええ!ブッ潰せぇー!!」とモーリの動作に合わせて拳を突き出していた。


「んぁ…? っちょわああ───」ダアアアン!!


 目を覚ましたシールは、顔を青ざめさせながら瞬時に跳ね起きた。


「…チッ」「おお!大丈夫でげすか!? モーリさんが助けてくれたのでげすよ!」「助けって! 今舌打ちしなかった!?」


 その時、ジトが急ぎ足で教会に入りルドンの目の前で膝を着いた。


「国王陛下! 大変でございます!盗賊が魔物を人質の立て籠もっています!!」

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