第7話 お菓子
「…あのぉ、ルドン国王? その子竜、魔王ですよ…?」
シールは、ジトと使い魔を透視して気不味そうにルドンの抱えるママルマを指差した。
「そ、そうなのか!?シール殿!? こ、この子が魔王だと!?ジト隊長!ギー大臣!武器を向けるのを止めなさい!」
ルドンは、わざとらしく驚いてジトとギーに指示を出した。
その様子にギー以外の全員が焦りと困惑が混じった様子で慌て出した。
「こ、国王陛下!今のをご覧になられなかったのですか!? ヤツは───」「ジト!国王陛下の命に従うのでげす!」
ジトの声に被せる様に大きな声を出すギーは、足早にジトに近付いて「今は、アレを刺激しない事が大事でげす…!」と耳元で呟いた。渋々とジトは、剣を鞘に納めた様子にシールは、ホッと一息着いた。
「警戒が溶けた様で良かった…。では、ルドン国王、魔王を俺に。その魔王を倒せば全ての問題が解決しますよ」
「し、しかしだな、シール殿…。こんなに可愛らしい子が我が王国を攻めて来たとは、
戸惑う素振りを見せるルドンは、必死にママルマを庇う様に言った。その様子に今度は、シールが唖然とした。
“あちゃ~コレは、まさかのルドン国王は、可愛い物好きだったパターンだなぁ? このままでは、魔王を倒す名目でママルマちゃんを飼えないな…あまりにもライバルが強過ぎるぞ…?”
少し考えたシールは、その場に屈み込んで両腕を広げると笑顔を見せた。
「ほぉら、魔王!怖くないよぉ? ささっ!一緒に遊ぼうか! そうだ!お菓子もオモチャも買ってあげよう!」
「コラ!シール殿、国王陛下の御前でげすよ!? みっともない!あと、誘いの手口がまんま誘拐犯でげすよ!」
ギーは、心底面倒臭そうにシールに近付いて怒った。その様子にママルマは「おじちゃん、怖くないの…?」と心配そうに言った。
「大丈夫だよ。シール殿、突然で悪いが今から私は、魔王と話があるんだ。一旦席を外してくれるかな?」
「そうでげす。こうして国王と魔王、両頭が合ってしまったのだから戦闘はヤボでげす。教会の一番奥に裏手に続く休憩室の入り口があるでげす。そこのお菓子全部食べて良いからテメェは失せろでげす」
不機嫌そうに眼を細めるシールだったが、ギーのお菓子と言う言葉に笑みを浮かべた。
「お菓子!?全部良いの!?見直したぜギーじいさん!」
シールは、そう言って目の前のルドン達をジャンプ一つで飛び越えて休憩室に向かった。
バタン…!
教会の奥から扉の閉まる音が聞こえるとその場の誰もが溜め息を着きながら肩の力を抜いた。
「はぁぁぁ…やれやれ、単純バカな神様で助かったでげす…」
──…教会の休憩室…──
飛び入った休憩室は、震災後かの様に荒れていた。棚は倒れ、天井から壁、床に掛けて木の根の様なヒビが入り、一部は崩れていた。
シールは、棚を立て直してお菓子の入った袋を取り出し机を整えた。
床に散らばる割れたコップや皿が独りでに直ると机の上に並んだ。
他にも、崩れた壁や天井も直り、シールが座る頃には休憩室は、崩れる前の姿の戻っていた。コップから透き通った水が沸き、袋のお菓子は、一瞬にして皿に移された。
「さぁ、食べるか!…あっ!」
皿のお菓子に手を伸ばしたシールだが、その脳裏にある考えが浮かんだ。
“…そうだ!せっかく皆居るんだ!人数分用意して行けば高感度上がるじゃん! ママルマちゃんには、服従薬入りのヤツ飲ませたらペットに出来るじゃん!”
シールは、嬉しそうに手から足りない皿とコップを手から生成した。コップの中は、すぐに液体で満たされ、その内一つに髪の毛を一本入れた。
「フゥンフフン!」
鼻歌を歌いながら上機嫌で飴を3つ一気に頬張ったシールは、皿とコップを両手一杯に持ち、扉へ向かった。
しかし、ドアノブが握れない事に気付いたシールは、皿とコップを目の前に浮かせてドアノブを握ろうとした。その時、誤って鼻先で浮く皿とコップを小突いてしまい、足の上にお菓子と液体を溢してしまった。
その事に驚いたシールは「あ…っ!」と声を漏らすと同時に飴を喉に詰まらせてしまった。
突然呼吸が出来なくなった事に焦り始めたシールは、濡れた床に足を取られ滑り転んでしまった。
ガシャアアン!!
けたたましい音と共に床に落ちた皿とコップは、粉々に割れ散った。涙を浮かべるシールは、力無く扉を見つめて手を伸ばしていた。
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